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第七章:常闇と魔王の真実編
第百七十三話 闇の封印洞
しおりを挟む「あれじゃない? 不自然な切り開かれ方をしている場所があるよ」
ルルカが指さす方向には、不自然な木の切られ方をしている部分があり、上から見るとそれが『道』になっているように見える。地上からだと、少し広い場所があるな、というくらいの感覚だし、直線ではないのできっと迷うくらい森は深かった。
【ガガウ(山の裏手に繋がっているみたいなので、このまま向かいますぜ)】
「頼む」
道筋を辿って山の裏手に回り込むと、崖崩れがあったあとのように山肌が崩れている部分があった。その一部に少し見えづらいが洞窟の入り口のようなところが見えた。
「あれじゃな。しかし、良く隠しておるのう。普通に探したのでは見つからんじゃろ」
「うん。私と一緒にエアモルベーゼと戦った『闇に濡れた剛腕』は力馬鹿だった割にはこういうところは慎重だったんだよね。私にもここの封印は教えてくれなかったし」
「なら他の……それこそ私の国の封印は知っているのか?」
師匠と芙蓉の会話を聞いていたリファが芙蓉へと質問をしていた。まあ芙蓉たちが封印したのなら、分からないことはないだろう。
「もちろんわかるわよ! あなたの城からそれほど遠くないわ」
「そ、そうなのか……近いんだな、聞かなければよかった……」
案の定知っていた芙蓉の言葉に、割と目と鼻の先にあることにショックを覚えるリファ。そこへティリアがリファの肩を叩きながら目を輝かせる。
「大丈夫です! こっちには元祖・光の勇者がいるのです! 新旧の力で封印を解いて、エアモルベーゼとやらを倒しましょう!」
芙蓉が元・光の勇者だと知ってからずっとテンションの高いティリア。それを芙蓉が困った顔で見ていた。
「もう力はティリアさんが持っているんだ。任せるよ?」
「は、はい……でも、一緒に戦いです……」
ティリアが上目遣いで指を合わせていると、クロウが俺に話しかけてきた。
「話はそれくらいにして、下へ行こうカケル。今度は僕も役に立てるはずだよ」
「お、魔王の力を手に入れて頼もしいことを言うな。よし、それじゃファライディ、降りれそうなところでいいから降下してくれ」
【ガウ!(合点でさあ! しかし、名残りお尻……もとい惜しい……あ!? 痛っ!?)】
「やかましいわ! 早く降りろ!」
「何て言ってたの?」
「気にするな。チャーさんも言うなよ?」
「……承知」
首を傾げるアニスに、俺とチャーさんは口をつぐむ。そうしている内に洞窟から少し離れた山肌へと降下した。
【ガガウガウ(あっしはこの辺りで待ってますから、行ってくだせえ。鱗が緑だし、魔物もドラゴンに突っかかってくるやつはそういませんからね)】
ファライディがそう言い、俺達を見送ってくれた。エリアランドを思い出すな……あの時は村の中だったけど。
「準備はいいな?」
「ええ」
「……ってダガーじゃないのかお前は」
「これ? いいでしょ、昔使ってた剣なの。『レイ・ブレイブ』っていうのよ」
芙蓉がどこからか取り出し。自慢気に抜いた武器は剣だった。青白い刀身をしたつばの無い剣で、何と言うか……でかい包丁にも見える。
「ええのう。わしもいいロッドが欲しいのう。カケル、今度都へ行ったら買って欲しい」
「考えておくよ。俺達に同行するなら装備はどっかで整えた方がいいしな」
「やったー! 言ってみるもんじゃ!」
実際ロッドなど持っていない師匠が武器を持ったらされに強くなりそうなので、戦力として心強い。ルルカが「ずるい」と師匠と言い争っているのを聞きながら、俺達は洞窟へと近づく。
「……誰もいないね」
「吾輩が見て来るか?」
「頼む」
「チャーさん、気を付けて」
ササっとチャーさんが洞窟の入り口周辺へと走り出す。木陰から様子を見ているが、人の気配は無いようで、前足をあげて俺達を誘導してくれる。
「この大岩、もう崩れそうだが妙だ。この辺りで微かにアニスの仲間だった者達の匂いがするのだが、洞窟の奥に続いているのだ」
「? 変ですね、この隙間は人が通れる大きさじゃないです」
ティリアの頭がギリギリ通りそうな穴を覗き込んでいると、ふいに穴から声が聞こえてきた。
(う、うわあああ!)
「今の声は!?」
「私と一緒に城へ来てたヘルーガ教の人の声。怯えている?」
「何だか恐ろしいが、行くしかないか。ちょっと離れてろ、安全にぶっ壊す」
我ながら矛盾している気がするが、うまい言葉が見つからなかったので勘弁してほしい。俺は大岩に手を当てて魔法を呟く。
「≪砂塵≫」
俺が呟くと、大岩は音も無くサラサラと砂に変化し、俺の足元に積もった。うん、こっちは上手くいった。
「ほう、岩を砂に変えるか。相変わらず面白い発想をしておる。こういうのはだいたい力任せに砕こうとするものが多いからのう」
「ま、それはそれでいいと思うけどな。急ごう、さっきの叫び声が気になる」
「よし、カケルと私、芙蓉で前衛だな」
「はいはーい」
俺は槍を担ぎ頷く。最後尾には師匠を配置し、中間にライティングで明かりを出してくれているティリアとクロウでアニスを守る形だ。しばらく道なりに進むと、やはりというかガーゴイル像が並ぶ通路に出る。
「この像は変わらないんだな。というか、どれも首が無いぞ?」
「破壊跡がまだ新しいから、ヘルーガ教の人間が壊し――」
ルルカが最後まで言い終わる前に、俺達の元へ何かが飛んでくる!
ヒュ……ドッ! ゴロゴロゴロ……
「なんだ!?」
「黒いローブ……ヘルーガ教徒よ」
芙蓉がズタ袋のようになった黒ローブを見て呟く。そして、さらにズタ袋が飛んでくる。
ドサドサドサ……
合計五人。ギリギリ生きているが、もう持たないレベルの傷だった。俺は目の前に転がってきた男を起こして、回復魔法をかけてやる。
「おい、何があった! この奥に何がいるんだ!」
「げぼ……た、助かった……洞窟の前にあった大岩がいつの間にか無くなっていたから中に入ったんだ……少し奥に進んだところで急に目の前が真っ暗に……次に気付いたら、目の前には狼の群れが……その中に獣人が……」
酷く怯えた様子で、ポツリポツリと喋る黒ローブ。
すると――
ジャリ……ジャリ……
引きずるような音を立てて、一人の男が奥から歩いてくる。あれが獣人か……? 先のとがった犬立派な耳をしている。声をかけるまもなく、獣人は喋りだした。
「貴様等も封印を解きに来た者達か……ここは、通行止めだ……! オォォォォン……」
獣人が吠えると、後ろから狼の群れがザッと現れる。ただの狼だとしてもこの数はちょっとしんどい……俺がそんなことを考えていると、ティリアが叫びだした!
「そ、その怖い顔……!! あ、あなたは闇狼の獣人、ベアグラートさん!」
なにい!? まさか行方不明だった元魔王がこんなところに!?
そんなバカな……見間違いってことは――
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――無かった。
いや、『どうしてこんなところに』は、俺達のセリフだよ!?
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