236 / 253
最終章:その果てに残るもの
第二百二十八話 女神
しおりを挟む【ガウ……ガウ……(ふう……ふう……。あ、あれですかい?)】
「大聖堂だ! ファライディよくやってくれた、あの島へ降りてくれ!」
【ガウ! (合点!)】
一週間はかかる道程をファライディは二日で飛んでくれた。俺が暴走している時、爺さんやフェルゼン師匠を連れて要塞まで飛んだ時もそれくらいだったらしいから、だいたい同じくらいの距離なのだろう。休憩は途中にある小さな島に降りてから休んでいた。
バサ……バサ……
「あれはアヒルにされた村じゃな。懐かしいわい」
「そうだねー。あれは散々だったよ……」
ファライディが降下する中、少し遠目に見えている村を見て二人がため息を吐く。確かにあれは不憫だったなあ。でもおかげでメリーヌと合流すること出来たんだけど。段々と地上が見えてきた頃、背に乗ったティリアが声をあげた。
「結界に綻びがありますね……大丈夫でしょうか」
「……一応、すぐには崩壊しないように手を施しているはずだけど、封印を仕掛けた本人だから多分効果は無さそうね。魔力を吸収するなら町の人や聖女も無事かどうか」
芙蓉が険しい顔でティリアに返すが、ラヴィーネが町を指差して言う。
「その心配は無さそうじゃ。見よ」
「あれは……ユーティリアか?」
そして横には恐らくエドウィンと、クロウを見送ってくれた神官が居る。俺達に気付いたユーティリアが手を振り、そのまま町に降りるよう手で合図してくれたので、ファライディを誘導して着陸に成功する。
「カケルさん、クロウ君、お久しぶりです!」
「あまり喜ばしい場面でもないけどな。どうしてこんなところにいるんだ?」
「みんなは大丈夫なんですか?」
荷台から降りていると、ユーティリアがすぐに駆け寄ってきて声をかけてくれたので、俺とクロウは気になっていることを尋ねる。すると、エドウィンが代わりに応えてくれた。
「久しいな、回復の魔王よ。大聖堂は女神アウロラを名乗る者に占拠されておる。禍々しい姿……あれは一体なんなのだ? アウロラ様が封印されていたのではなかったのか?」
「それなんだが――」
エドウィンの質問を簡潔に答えると、ユーティリアとエドウィンは驚愕する。それはそうだろう、信仰していたアウロラが今や世界を脅かす存在なのだから。
「これからカケルさんはどうするのですか?」
「もちろんアウロラの元へ行く。あいつが何を考えているかを聞かないことには打開策が無い。芙蓉、エアモルベーゼを倒した時はどうしたんだ?」
「えっと……全勇者、今は魔王ね。全員の力をもってダメージを与えて弱らせたところをアウロラがどん! そんな感じよ。破壊神の力達はその残りかすみたいな感じだったからサクッと倒して各地に封印したんだけど……」
それが仇になった感じか? いや、それでもおかしい……万が一エアモルベーゼがここで復活するなら、大聖堂の人間がそれを知らないのは道理が合わない。ヘルーガ教徒が情報操作をしたとしても大聖堂まで騙されるだろうか?
考えが巡るも、時間がそれを許してはくれないようで、大聖堂からアウロラの声が響いて来た。
『来たか。私の元へ来るのだ、そこで全ての決着をつけるための儀式を――』
それだけ言うと、ぷっつりと途切れまた静寂が残る。町の人達がざわついているが、ユーティリアの結界を大聖堂から外しているようで、魔力を吸われていないらしい。
「本当に女神様なのかな? とても邪悪な気配がする。わたしに語りかけてきた声より、もっと」
「女神だろうとそうじゃなくても、僕達に敵対するならそれはただの敵だ。そうだろカケル?」
青い顔をして呟くアニスの肩を抱いてクロウが俺に聞いて来たので、無言で頷く。デヴァイン教だからアウロラに傾倒しているもんだと思ったけど、どうやらクロウはしっかりと一人の人間としての芯を手に入れたようだ。
「それじゃ、待っている女神様の元へ行きますか!」
「……まさか、こんなところまでくるとはね」
「ま、カケルさんについて行くつもりだったんだからこれくらいは、ね?」
「そう。動じてたら着いて行けない」
「俺をなんだと思ってるの、君達……」
燃える瞳のメンバーがやれやれとグランツの呟きを「何を今さら」と肩を叩いて頷く。リファやルルカが笑いながらエリン達を伴って大聖堂へと歩き出す。
「女の子は強いな……」
「そうでもありませんよ、エリンの手は震えてました。俺は何があってもエリンを守ります。トレーネは、お願いします」
「……仕方ないな。死ぬなよ?」
「まだ戦いと決まったわけじゃありませんから、無用な心配ですよ」
「カケルさん、早く!」
俺とグランツが話していると、前を歩いていた芙蓉が振り向いて手を振っていた。
「ああ、今行く! ユーティリア、ファライディ……このドラゴンを任せていいか?」
「はい。大人しい子ですし、大丈夫です!」
「あ、それとこれを」
俺はユーティリアにルルカの作った簡易スマホを手渡し使い方を一通り教えておく。最悪何かあれば連絡してもらう必要があるだろう。
「ありがとうございます! お気をつけて」
「ああ。行こう、グランツ」
「はい」
――特に妨害もなく、結界を抜けた先の大聖堂に足を踏み入れると、とてつもない嫌な感じがした。女神? 冗談じゃない、これは破壊神そのものと言ってもいいくらいの気配だぞ……
「寒気がしますね……」
「……大広間から気配がするよ。こっちだ」
クロウが何かを感じ取り、俺達の前に立ち案内を始める。やがて天井が高く、壇上のようなものだけがある広い場所に到着すると、ゆらりと壇上に女性が現れる。
『辿り着いたか。芙蓉以外は見舞えるのは初めてか。私はアウロラ、この世界の創造神なり』
「!?」
俺があの世で見たアウロラとそっくりの顔をした、オレンジ髪の女性が壇上から俺達を冷ややかに見下ろしていた――
◆ ◇ ◆
『エアモルベーゼ様、カケルと愉快な仲間達がアウロラと接触しました』
『ノア、言い方……まあいいわ。これでようやく終末が訪れるわね。300年……長かったわ……』
エアモルベーゼはノアが見ていた池を見てうっすらと微笑む。だが、目は笑っていなかった。ノアに呟くでもなく、一人ごとのように口を開く。
『お膳立てはここまで。ここからは人間が勝つか、神が勝つか。ただそれだけの話。できればカケルさんの体を手に入れておきたかったけど、アウロラを倒してくれるならどっちでもいいわ。暴走を克服したカケルさんなら期待できる……』
踵を返し、椅子に座るエアモルベーゼ。手に持ったガラケーをパカッと開き、カケルのスマホの番号を表示させた。
10
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる