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第四部:ルーナの秘密
その70 登山
しおりを挟む「村の奥に霊峰へ続く門がある。開けておいたから、いつでも向かうとええ」
「皆さん、本当にありがとうございました。私だけでなく、村も救っていただき……」
昨日の夜、私とレイドさんでダラムさんの家へ駆け込み事情を説明すると快く承諾してくれ、早朝から登れるように手配してくれたのだ。
今は登山口で、ダラムさんとレーネさんが見送りに来てくれていた。
「あ、あの……お気をつけて! 帰ってきたらまたお顔を見せてください……」
「うん? レジナも連れて帰らないと行けないし、帰りも寄らせてもらうよ」
レーネさんがレイドさんへ何やら話しかけていたけど、遠くて聞こえなかった。何だったんだろう?
「それじゃあ、レジナのことよろしくお願いします!」
「きゅん!」「きゅきゅん!!」
「ああ、気を付けてな。不死鳥様に会えるといいな」
ダラムさん達に見送られて登山を開始した。荷物は全員マジックバッグがあるので、かさばら無いのが幸いね。山でがちゃがちゃと重装備を持って登っていたら、今の私の体力じゃあっという間に力尽きる……。
「ルーナ、きつかったら言ってくださいね? 休憩も大事ですから」
<じゃな。ジャンナの居場所はわらわが探知しておるから到着は早いと思う。頂上まで行く事は無いが、三日は覚悟しておくのじゃ>
霊峰は頂上まで7630m。頂上まで登っていたら何日かかるのか。山の上の方に行くと息が苦しくなったり気分が悪くなったりするから危ないのよね。
「途中、山小屋が建っているそうだから、基本的にはそこを目指そう。できれば建物内で夜を明かしたい」
霊峰には貴重な植物や魔物、動物が居るので封鎖しているとダラムさんが言ってたっけ。特産品のキノコも山の浅い所で採取しているとか。
「ライノスさんが来れなかったのは残念でしたね」
フレーレがメイスを片手に先頭を歩く。
フレーレ、私、レイドさんの順で登っていて、後ろが一番危険だからとレイドさんがしんがりになった。
ちなみにライノスさんは騎士団を待つ必要があるため、誘ったが断られてしまったのだ。
「仕方ないよ、元々の依頼が野盗の討伐だったんだし」
「きゅーん!」
そんな話をしながら登っていると、シロップが吠えた。そっちを見ると森の中で蠢く影が……。
「見たことない魔物!?」
「ウッドウォームか、ここだけって訳じゃないけど珍しいな!」
「きゅん!」
シルバがこっそり横から近づき、2mくらいの黄土色をした大きなワームっぽい魔物に噛みつくと、ワームが奇声を上げてのた打ち回る。口大きいなあ……シルバ大丈夫かしら。
そこにレイドさんが前進し、頭と胴体に斬りつける!
「でかした! こいつは見かけによらず動きが早い、動きを止めてくれたのはありがたいぞ!」
レイドさんがシルバを褒め、動くウッドウォームに斬りかかる。
「うう、気持ち悪いですよ……」
「あ、フレーレ、ああいうのはダメなんだ?」
「はい、蜘蛛とかムカデなら頭があるけどああいう芋虫みたいなのってどうも。口しかないからどこを攻撃していいか分からないし、うねうねしてて何か嫌なんですよ……」
「まあ確かに……」
一匹だけなので、シルバとレイドさんに任せて私達は邪魔しない様、狩るところを見ていた。
いつの間にかシロップも参戦し、レイドさんがキレイに三等分にしたところでウッドウォームは動かなくなった。
「流石レイドさん! シルバとシロップもありがとう!」
「きゅん♪」「きゅきゅーん!」
二匹が褒めて褒めてと私の足元へ集まってきたので、撫でてあげると尻尾を大きく振って喜んでいた。
<まだ浅いからこの程度じゃな。明日からは強力な魔物になるから、あまり悠長な事はしておれんぞ>
戦えない私を護衛すると、頭の上に乗っているチェイシャが怖い事を言う。
「うー、せめて剣を振るくらいは出来たらいいんだけど……」
「まあまあ、今回はわたし達が頑張りますよ」
「はは、フレーレちゃんも言うようになったね。……君もあまり無理はしないようにね」
「……は、はい」
回復魔法の件は確かに深刻だよね……。フレーレにはいつも助けられてるし、何か出来る事があるといいんだけど……。
その後もウッドウォームに何度か遭遇した。
他には群れでこっちを見ていて可愛い! と思っていたら実は凶暴だった”ヴォーパルラクーンドッグ”が、シルバとシロップ、そしてチェイシャと死闘を繰り広げていた。やっぱり狸って狐のライバルなのかしら?
「ヴォーパルラクーンドッグの毛皮は高く売れるんだ」
「きゅーん」
レイドさんが皮をキレイに剥いで、内臓を穴に捨てて埋めた。
シロップがその様子を横で興味深そうに見ていたら……。
「次はお前だ!」
「きゅきゅん!?」
バリバリバリ!
「あ、痛っ!? じょ、冗談だよ」
「きゅーーーーん!」
レイドさんがふざけてシロップをぎゅっと捕まえ、驚いたシロップがレイドさんの顔を引っ掻いて私の所へ逃げてきた。
「今のはレイドさんが悪いわね……」
「気をつけないと、親しい人でも牙を剥くことがあるって教えたかったんだけどね……」
「それでも今のは酷いです……」
「ガフ!」
珍しく冗談を言ったレイドさんが私達にヘコまされ、シルバに本気で噛まれていた。
「いたたた!? 悪かったよ! 俺はお前達の皮を剥いだりしないって!」
そんな調子で珍しい魔物を倒しながら、私達は最初の山小屋へとたどり着いた。
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「(ルーナさん達は霊峰へ行ってしまったか……。どうも魔力が無いらしいから攫うならチャンス、か?)」
騎士団へ野盗を引き渡すために村に残ったライノスが一人考える。野盗はカモフラージュで受けた依頼だったが、思いのほかうまくいったので内心喜んでいた。
「(村を助ける事が出来たのは良かったな……ルーナさんは下山してきた所を狙うべきか……騎士団に事情を……いや、巻き込むことはできんか)」
元より悪事に向かない性格なので村が助かった事は喜べていた。だが、だからこそルーナの誘拐には難儀を示しているのだ。
「ライノス殿? 夕飯の準備が出来ましたが……」
トントンとノックされ、ダラムがライノスを夕食へ招く声が聞こえた。
ライノスはルーナ達が出発した後、村長の家で是非寝泊りをと誘われ、厄介になっている。
実際にはあまり役に立っていなかったが断りきれなかった。まあ騎士団が来たとき村長が居れば話は早いだろうという打算もあったが……。
「ありがとうございます! すぐ行きますので……」
お待ちしています、と村長の声が聞こえて、階段を下りていく音が遠くなっていった。
「……お前のご主人を攫わないといけないんだよな……それを知ったらお前はオレを許してくれないだろうな……」
ダンジョンで一緒に過ごし、主人を守って傷ついた勇敢な狼の頭を撫でながら、困った顔のまま誰も答えてくれない部屋でライノスは呟くのだった。
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