165 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その186 覚悟
しおりを挟む「世界の中心まで馬車で二週間ってとこらしい。幸いでかい目印だから迷う事もないな」
レイドさんが御者をしながら、後ろ向きに私達に言う。
ちなみにこの馬車にはレイドさんとフレーレにカイムさん。狼達にチェイシャ、ジャンナ、ファウダーと、ほぼ最初のメンバーが乗っている。
フォルサさんを除いても全部で12人いるため、馬車は全部で三台借してもらうことになった。残りの振り分けはお察しだと思うので割愛するわ!
「徒歩で一ヶ月くらいって言ってましたもんね。カイムさん達ニンジャだったらもっと早そうですけどね?」
「そ、そうですね! ニンジャは隠密が基本なので、ぶつかり合いは苦手だと思う人もいますが、敵に見つかった時には迅速に逃げないといけない体力が必要ですし、囲まれた時に戦えないと意味がないので鍛えていますね」
フレーレに話しを振られたのが嬉しかったのかペラペラと饒舌になるカイムさん。うーん、分かりやすい。
<しかしフォルサは残念じゃったのぅ……>
「はい……友達のダークドラゴンさんが亡くなった後、死ぬつもりだったから後悔はしていないかもしれないですけど、わたしはもっと一緒に居たかったです」
<ぴ。でもあっさり死んじゃったわね……>
「そうね……殺しても死なないと思っていたけど……」
<……! みんな、魔物だ! オイラが先行するよ!>
フォルサさんの話でしんみりしていた所でファウダーが声をあげた。御者台に顔を出すと、大きな蜂の魔物がこちらを目指して飛んでくるのが見える。
魔物は節操がないのでどこも同じような魔物が徘徊しているため、一度見つけた魔物は便宜上名前をつけてメモしていたりする。
「キラービーね、走りながら戦う?」
「だな、他の馬車もそのつもりみたいだ! カイム御者と戦闘、どっちがいい?」
「たまには私も戦いますよ!」
「任せた!」
「<ドラゴニック・アーマー>」
馬とみんなに防御の補助魔法をかけ、戦闘開始だ! 私の補助魔法の効果範囲はかなり広いので、残りの馬車にももちろんかかっている。
ブブブブブ……
「ふっ! 炎舞手裏剣! たあ!」
<これでも食らうのじゃ!>
カイムさんが炎をまとった手裏剣を投げ、近づいてきた相手には蛇之麁正という刀で攻撃していた。見事な切れ味をしているわね。
そしてチェイシャが尻尾から火球と緑色の針のようなものを飛ばす。チェイシャの尻尾は9本に戻り、それぞれ火や氷、雷などを出せるようになっていた。ちなみに緑は……毒だったりする。
キィィィィ……
ブゥン!
次々と二人が落としていくと、怒りに燃えるキラービーが加速して突っ込んでくる! ここは私が!
「シューティングスター・ディフュージョン!」
愛の剣以外にも私には弓のレイジングムーンがある。魔力が増大した今、この技を使ってもまったく疲れないので、新しい必殺技も作ることが出来た。
ズドドドドド
一気に砕け散るキラービーたち。こりゃ敵わんと思ったか、いずこかへ飛び去っていった。
「がう!」
「わんわん!」
レジナとシロップが馬車から飛び降りて、キラービーの死体を回収しにいった。私達にはよくわからないんだけど、チェイシャが言うには神裂製の魔物を食べるとレジナ達は強くなっている気がするそうだ。
「きゅふぅん!」
「あ、ラズベ、あなたはダメよ」
野良子狼は名前が無いと不便なので私が名前をつけた。目が赤かったので、ラズベリーからとったの。シロップとはあまり仲が良くないんだけど、猫のリンとはじゃれあっていたりする。
「これくらいの相手なら退治できるようになりましたね」
フレーレが馬車の中から声をかけてきた。戦闘に参加しなかったのは理由があって、回復魔法を使えるフレーレやセイラはなるべく前へ出ないようお願いしているためである。万が一の時、回復できないとまずいと判断したためそう決めた。
「そうね……ギルドカードの数字がとんでもないことになってるし」
「ま、塔の中はまだ強いらしいし、油断はできない。できるだけ戦っておいて損はないと思うよ。道中、町や村でも休むつもりだからね」
レイドさんが、同じく御者をしているパパとお父さんに目配せをし、少し速度を落としながら再度進む。その後も何度か魔物に襲われ、時間を浪費してしまい、この先にある町に到着する事は叶わなかった。
今日は野営し、数時間だけ仮眠を取ったらすぐに出発し、町へ向かう予定に決めた。ちなみに見張りはクジで決め、馬車ごとに一人立てる。出発したら今度は見張りが荷台で寝ることになっているので損はないのだ。
「……見張りはルーナ、カルエラート、俺だな。食事を取ったらすぐに寝てくれ、四時間後には出る」
パパが告げると、ささっと食事の準備をフレーレやチェーリカ、お父さんが行っている。そして戦い以外では役に立っていないアルモニアさんが飯を出せとうるさい。
『いやあ、自分の作った世界で食事もいいわね。あれ? 今日はカルエラートじゃないの? あなたのが一番美味しいのに……』
「女神にそう言ってもらえるのはそれは光栄だが、今日はさっき聞いたとおり見張りがメインなんだ。また今度な」
<リリー、焚き火に突っ込んだらダメにゃよ?>
<しないっぴょん!?>
<あー……アタイは酒が欲しいねぇ、無いのかい?>
「(……あるわよ、いく?)」
そんなやりとりをしながら、夕食が終わり、私は見張りについた。
目の前でパチパチと焚き火が燃える音を聞きながらカップに入れたスープをすする。パパとカルエラートさんは周辺の見回りを兼ねて馬車の外側を見ているのでここには私と……。
「わふ♪」
「わん……」「きゅきゅん……」「Zzz……」
元気なレジナに、もうおねむの子狼達が一緒に居てくれていた。ラズベはもうすでに寝ていて、シロップもお腹を撫でていたら寝息を立てだした。
「ふふ、可愛い。レジナは元気ね?」
「わぉん」
私の太ももに顎を乗せて撫でてくれとせがむので、わしゃわしゃと撫でると目を細めて嬉しそうにしていた。
「あんた達も死なないでよね、私を助けるためとかで無茶しそうだし」
「わふぅん……」
聞く耳持たないとばかりに耳を折りたたむレジナ。
「あ! この子は~! それ、わしゃわしゃわしゃ!」
「わふわふ♪」
「……またアルファの町で冒険者したいなあ、ちょっと強くなったけど……レイドさんとフレーレと、あんた達。たまには組み替えてソキウスとかチェーリカと討伐にいったりね! 契約が面倒か……」
デッドリーベアに襲われていた頃が懐かしく感じる。まだ一年も経っていないのにね。レジナもウトウトし始めた頃、後ろで気配がしたので振り向くと、毛布を持ったレイドさんが立っていた。
「どうしたの? ずっと御者をやってくれていたんだから寝てないと」
「ちょっと落ち着かなくてね、隣いいかい?」
「あ、うん。ごめんねレジナ」
「くぅーん……」
レジナを足から引き剥がすとレイドさんが隣に座り無言で毛布をかけてくれた。しばらく黙っていたけど、ポツリと話し始める。
「しかし、波乱万丈だな、まさか世界を救うための戦いになるとは思いもよらなかった。ルーナとパーティを組んでから色々あったなあ……誘拐もそうだし、魔王の娘ってのも驚いたよ」
「あはは、それを言ったら私が一番驚いたわよ! 女神の腕輪は勝手につけられるし、パパは勇者で本当のお父さんは魔王だし」
「腕輪というとベルダーか、今頃どうしてるかな」
「お嫁さんと仲良くやってるわよ、きっと……絶対勝とうね、この戦い」
レイドさんの肩に頭を預けて呟くと、一瞬微笑んでから顔を引き締める。
「……だな。戦いが終わったら、その、俺と……」
「何?」
「い、いや、何でもない……」
「そう? うーん、私はもしかしたら死んじゃうかもしれないから言っておこうかな? ……私は、レイドさんの事が……好きです」
すると、ギョッとした顔になるレイドさん。あはは、びっくりしてる!
「……はあ、ルーナは何でもスパッと決めてしまうな……クーデターの時も一人で行ってしまった……相当心配したんだぞ?」
「いやあ、犠牲になるのは自分だけでいいかなーなんて……」
「残された人の気持ちになってみてくれ。突っ走るのが悪い癖だな、盗賊のアジトの時もそうだったし……」
「う、面目ありません……」
しおしおとうな垂れていると、頭に手が乗せられ静かに撫でられる。
「ま、そんな所が好きなんだけどな……。ルーナの元気には助けられたよ、目を離したら何をするか分からないからハラハラもしたけど。はは」
「う、いきなり言うのは反則じゃないかしら……」
「先に言ったのはルーナだろ?」
ごもっとも。でもこんなにすんなり言ってくれるとは思わなかったので内心びっくりしていたりする。
「それじゃ、尚の事負けられないわね!」
「ああ、誰一人死ぬことなく神裂を倒す。命をかけてもな」
「ダメよ、みんな生きて帰るんだから命をかけちゃ?」
私がそう言うと一瞬きょとんとしたあと、それもそうかと笑い出した。しばらくしてレイドさんは仮眠を取るため戻り私は一人に戻る。
外は寒いけど、心は暖かかった。
そのまま狼達を見ながら私は見張りを続けたのだった。
---------------------------------------------------
「むう……レイドめ……」
「出て行くなよ? やっとお互いの内を言ったんだ」
「分かってるって。そういや、その、お前も俺のこと……」
「はは、そうだな。ま、アイディールに譲るとしようか。お前よりいい男を見つけてみせるさ、ディクライン」
「……悪いな」
ディクラインがそう言うと、カルエラートの目から涙が溢れた。
「気にしなくて、いい……分かっていた、から。私が勝手に想っていた、ただそれだけだから」
「……」
ディクラインはカルエラートの頭を撫でながら、空を見上げもう一度、悪いな、と口にした。
一つが始まり、一つが終わった。そんな夜だった……。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
追放された神官、【神力】で虐げられた人々を救います! 女神いわく、祈る人が増えた分だけ万能になるそうです
Saida
ファンタジー
【この作品を一文で表すと?】
異世界のスラムで貧しい暮らしを送っていた人たちを、「お人好し神官」&「天真爛漫な女神」がタッグを組んで救済し、みんなでほのぼのスローライフする物語です!
【本作の経歴は?】
2022年11月 「第十五回ファンタジー小説大賞」にて、「癒し系ほっこりファンタジー賞」に選ばれ書籍化。
2023年 5月 書籍1巻刊行
2023年 9月 書籍2巻刊行
2024年1月 書籍3巻刊行
【作者Saidaより、読者の皆様へ一言!】
まだまだ駆け出しの小説家ですが、皆様に楽しんでいただけるよう、執筆がんばります!
よろしくお願いいたします(*´▽`*)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。