異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

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第一章:轢いたと思ったら異世界だった

プロローグ

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 「さて、と……今回は長距離だな。都内から福岡まで約1200km……ご安全にってか」

 一人呟いてから俺は車のキーを回してエンジンをかける。
 ゆっくりと動き出すトラックが倉庫の駐車場から道路へ。
 
 少し進んだところでカーナビをが目的地までの時間を語り出し、特に問題ないことを確認した俺はトランスミッターを起動して音楽を流し始める。

 俺、日野 玖虎ひさとらは長距離トラック運転手。
 長距離トラックというのは一人孤独を愛する男の職業なので、音楽が唯一の友人なのである。

 ……まあ、嘘だが。

 俺に友人が少ないだけだ。悔しくはない。

 それはともかく、今回は厄介な仕事だとガムを口にしながら胸中で舌打ちをする。
 現在、俺が乗っているトラックは10tなんだけど積み荷部分のコンテナが‟ウイング型”と呼ばれるもので、上にガバっと開くタイプの荷台だ。

 見た目はカッコいいのだが、実はこのタイプは嫌われている。
 
 一番の理由は雨天の時に積み荷を降ろそうと思ったら対策をしないといけないことだろう。
 後は安全面で、ロックをしっかりしていないと挟まれたりするしな。
 最近だと安全装置があるから、ウイングを上げたまま発進して事故みたいなことはないが、通常のコンテナであるバン型と比べたら使いたくないとは思う。

 俺は結構ベテランと呼ばれるくらいには乗っているのでコンテナが違う程度じゃ大した差にならない。
 が、面倒は面倒。
 しかし、会社の同僚に交代を頼まれて仕方なくこいつに載っているという訳。
 
 とはいえ、俺の場合はコンテナうんぬよりも距離が問題だ。

 1000kmオーバーの仕事なんて滅多になく、確実に帰ってきたら休みを寝るだけで潰すことになるため誰もやりたがらなかった。
 今回もたくさんの荷物を乗せているので、慎重に、かつ確実に時間通り運べるようルートも調べてあるし、この距離をやったことが無いわけでもないのだが――

 「母ちゃん、風邪を引いているって言ってたけど大丈夫かねえ……」

 家に居る母ちゃんが心配だった。

 ウチは父親が早くに亡くなっていて、学生時代はそれを弄られることも多く、それが嫌で酷く荒れていた時期があった俺。

 まあ、暴走族に入って無茶してたというよくあるクソガキの典型さ。
 おかげで母ちゃんは仕事を頑張っている中、暴れ回り、心労をかけた結果……高校二年の時に倒れた。

 いや、ありゃ肝が冷えたな……そこで俺はなに馬鹿なことをやってたんだって病室で先生の話を聞きながら考えていたよ。

 そこからなんとか高校を卒業することができたが進学は諦めて母ちゃんに無理をさせないように働くことに決めた。
 でもコンビニバイトくらいしかやったことが無かった俺にできることは何か? そう考えた時、当時無免許ながらも運転は上手かったことを褒められたことを思い出して、運送屋をすることに決めたのだ。

 最初は軽トラ、そこから2t、4tと上げて行き、この10tクラスを操るまでになった。
 給料もかなりいいので、母ちゃんも無理させないようにできたのは本当に良かったと思う。

 「……ま、親孝行はこれからなんだけどな」

 早く孫を見せろという冗談が口癖だけど、そんな相手はどこにも居ない。
 婚活とやらができるほど賢くもねえし、あるのは貯金くらいだ。

 「ボチボチやるさ……って、雨か」

 嫌な天気だとは思っていたが、降って来たな。夜中で雨とはついてねえが、まあこんなことは日常茶飯事だと俺は慎重にハンドルを握る。

 そして移動を始めてから二時間ほど経過したところで、雨足が強くなってきたことに舌打ちをする俺。

 「チッ、土砂降りか。ちっと飲み物でも買うか」

 コンビニにでも寄って天気情報でも調べるかと思考を切り替える。
 
 前に見える信号は青。
 
 左にコンビニが見えた、と視線を移したのが、まずかった。

 「……!? 人!? 馬鹿野郎っ、こっちの信号が青だっつーの!!!!」

 ヘッドライトの向こうに見える影――

 間違いなく人間。

 よそ見をした瞬間、土砂降りの中で傘もささずにフラフラと躍り出てきたそいつは、ぴたりと立ち止まりこちらを向く。

 俺は慌ててブレーキを踏むが、感覚でわかる……これは、間に合わない……!!

 この巨体ではハンドルを切っても避けられない。
 むしろ雨で滑って横転か、家屋にぶつかり大損害が関の山。

 「ぐおおおおおおお!!! と・ま・れ・ぇぇぇぇぇぇ!」

 しかし、無常にもトラックは雨の中を滑っていく。
 これが晴れならもしかしたら止まっていたかもしれない……この運の悪さを恨みつつ、ぶつかるというところで俺は目を瞑るのだった――
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