4 / 85
第一章:轢いたと思ったら異世界だった
その3 いつものやつ
しおりを挟む「な、なんだ……!?」
テレビにもなるカーナビが急に動作を始め、車内に光が溢れだした。
目を開けるのも難しいほどの光を手で庇いながら薄目でカーナビの様子を確認していると、程なくして光は収束し、再び元の静寂さを取り戻した……と思ったのだが――
<あーあー、聞こえる? なんだそこに居るじゃない。返事くらいしなさいよ、もうー……元気ですかー!!>
――カーナビに知らない女の子のドアップが表示され、どっかのレスラーみたいなことを言い出した。
俺が口をパクパクさせていると、眉を顰めたカーナビの女の子と目が合い、妙に明るい口調で話し始めた。
「ごめんねー遅くなって! いきなりこっちの世界に来て驚いたでしょ? 異世界のアイテムにつなげるのが難しくってさー」
軽い。
まず最初に感じたのはその口調。ヤンキー時代にいたギャルみたいだと言えばいいのだろうか?
口調もそうだが、声も高いので耳ざわりである……
そして気になるワードが出て来たので俺はカーナビを両手で掴んで口を開く。
「お、おい! 今なんて言った!? こっちの世界に来て驚いただと? も、もしかしてこの状況はお前のせいか!!」
<はい!>
「てんめぇぇぇぇ! 今すぐ元の場所に帰せ!!」
<あああああああああああああ!? 揺れる!? ダメ、止め……おろろろろろ……>
カーナビから顔が消えて嗚咽が聞こえて来た。
そこからしばらく待っていると半泣きの女の子がまたぬっと顔を出して抗議の声を上げる。
<ふざけんな! 私とこのカーナビはリンクしているんだからそんなことしたら頭が揺れるんだっての!>
「知るか! それより元の世界に戻れるんだろうな? 体が弱い母ちゃんを置いてきてるんだ、仕事も途中放棄だし、ペナルティが発生したらせっかくここまで築き上げた信頼が無くなっちまう!」
<あー……>
俺が一気にまくし立てて怒鳴ると、女の子が冷や汗をかきながら目を逸らす。
嫌な予感がするがなにかしらの答えを聞くまで黙っていると――
<私の名前はルアン! 世界と世界を管理する女神よ☆ あなたは運よく異世界に召喚された勇者! さあ、魔王を――>
「いきなり自己紹介するのかよ、それにんなわけあるか!? 運は悪い方だよなどう考えても! てめぇ一体なにを隠している? 薄情しねえとカーナビぶち割って鼻血ぶちまけさせるぞ?」
<あひゅん!? ……怒らない?>
「怒るに決まってんだろ。まあ、一応内容によるとだけ言っておこうか」
その言葉に笑顔で血を流しながら笑顔になるルアン。
そして俺に状況を告げる。
<……あなたが地球でひき殺しかけた高校生、彼は将来物凄い人物になる予定なの。トラックに跳ねられて死ぬと世界にとっての損害がとんでもないの。だから慌てて転移魔法を使ってこっちの世界へ移動させたってわけ>
「あいつが……。なんか二ートっぽい奴だったけどなあ」
<あの子、高校生で今はいじめられているけど、悔しさをバネに研究者となるのよ>
「ふうん、まあ助かって良かったって感じか? で、俺はどうなる? お前が出て来たってことは戻れるってことでいいのか?」
俺の言葉に笑顔のまま固まり、そして最悪の事態を、告げる。
<……無理です>
「は?」
<無理です……帰れません。この移動は一方通行なんです……あなたはもう、帰ることができません>
「おい!?」
<よってこの世界で生きていくしかありません。頑張ってくださああああああああああああああい!?>
俺は怒りのあまりカーナビをグラグラと揺らして引導を渡す。
画面に汚物がまき散らされてルアンの絵面がやばくなっていくが俺には関係ないと力の限りぶん回す。
「はー……はー……」
<……>
画面には親指を立てた右腕だけが映り、本人は消えた。
そこで俺はようやく冷静に今の状況を思い直して体が震える。帰れない? ここから?
仕事はとか荷物とかそういうものより先に、俺はやはり母ちゃんが心配になる。
今でこそ殆ど働かずにすんでいるけど俺を育てるために酷使した体はなかなか元に戻っていないためフルタイムは厳しい。俺が居なくなったら給料も入らなくなるので生活がきつくなるだろう。
するとそこで復活したルアンが俺に語り掛けてくる。
<一応、あなたのお仕事の代わりは別の存在が成り代わって続行しているから問題ないわ。荷物が届かないってことはないわね。なんというか分身とはちょっと違うんだけど、人ひとりが消えるという世界の因果を修正するために生まれてくるって感じかしら>
「だからそこに割り込む余地がなくなる、とか?」
<あー。賢いわね、ヤンキーだった割に! ……ちょ、ストップ。カーナビを揺らしたら必要な情報が手に入らないわよ?>
「チッ……早く話せ」
<ガチで怖い!? 後はあなたのお母さまのことだけど、調べたところによると癌にむしばまれているようね。あなたが居ても居なくても、余命三年くらいって判定よ>
「な……!?」
馬鹿な!?
今日も元気そうだったのに、後三年だって……!
「おい、マジかよ! 本当に戻れねえのか!? 最後くらいは看取らないと後悔しかねえよ……」
<ごめん……>
その謝罪はなんの謝罪だろうか……
俺は本気で泣きながらがっくりとシートに項垂れてしまう。改心してもダメなものはダメなのか……。
「くそ……このままトラックをどっかにぶつけて俺も死ぬか……」
<ちょちょちょ……!? まってまって! それをされると私の立場が!>
「知るか! っとでも今は無理か……サリアを降ろしてから――」
「……」
「うわお!?」
気づけば俺の傍でじっとカーナビを見るサリアが居た。
彼女はすぐに俺にハンカチを手渡しながら静かに口を開く――
11
あなたにおすすめの小説
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる