異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

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第一章:轢いたと思ったら異世界だった

その13 サリアのこと

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 「起きてくださいヒサトラさん」
 「んあ……誰……あ、サリアか」

 頭を掻きながら起き上がるとサリアがいつもの調子で微笑みながら横に立っていた。
 そうだ、俺は酒を飲んで眠ったんだっけな。
 
 「ふあ……いま何時だ?」
 「10時を回ったところですね。ヒサトラさんが最後です♪」
 「うわお!? 早く起こせよ!」

 とんでもないことを言い出したサリアに慌ててベッドから飛び起き、サリアが畳んでいたらしいツナギを着てジャケットを羽織る。

 「……お前、いつから立ってた?」
 「一時間くらい前ですね。いいものをお持――」
 「やめんか! ほら、洗面台に連れて行ってくれ」
 「こっちですよ」

 あいつ、なんのつもりで一時間も……
 まあいいか、とりあえず10時なら8時間は寝ているってことになるし、運転するには問題ない。さらに言えばゆっくり眠れたから物凄く元気である。

 彼女についていき食堂へ向かうとトライドさん達はすでに朝食を終えて紅茶を嗜んでいた。

 「すんません、寝すぎました」
 「いや、構わないよ。エレノーラも先ほど起きて食事を終えたところさ。君も食べるといい」
 
 トライドさんの合図で宿屋の従業員が頷いて奥へ引っ込んでいった。
 マスターは夜勤交代か、深夜勤務がきついのはトラック乗りならだいたい分かるのでお疲れさまと言いたい。
 コンビニもそうだが便利な施設の裏では必ず働いている人が居るのだというのを感謝しないといかんと俺は思っている。
 まあ、もう使うことは無いんだが。

 エレノーラさんは船をこいでいたが、そんな朝の風景を終えて出発するため外に出ると案の定トラックが注目されていた。
 
 「ほえー、鉄の塊だなこりゃ」
 「輪がついてるな、馬が引くのか?」

 「やあやあ諸君、おはよう。すまないが道を開けてくれたまえ」
 「あ、領主様。これは領主様の?」
 「まあ、私は同行者だがな。さあ、ヒサトラ君『とらっく』の雄姿を皆に!!」

 「おお、奥様とお嬢様もいらっしゃるぞ……重要なものなのか……?」

 トライドさんがノリノリで大仰に手を広げて俺を通してくれるが、正直恥ずかしい……。
 まあ、これも一回送り届ければ落ち着くだろう。

 先を急ぐかとエンジンをかけて周りの人間を離すためクラクションを軽く鳴らして散らし、町の門へと向かいそのま道に沿ってアクセルを踏む。

 「あとどれくらいで行けそうですか? それと護衛の冒険者って逃げついてたんですかね」
 「『とらっく』ならあと半日あれば到着するだろう。しかし森を切り開いてもう一つ町を作ることも考えねばならんな」
 
 トラックだからゴブリンに襲われずに済んだが、森を迂回する道か町か防衛性の高い村を作ることも検討したいと言っていた。
 領地をこれで回ることが出来れば……などと言っていたのは聞かなかったことにした。
 まあ、自分の目で見るのが一番いいし、馬車だと時間がかかりすぎるからその気持ちは分かる。だけど少し腰を落ち着かせて欲しいんだよな。母ちゃんの件も片付いてないし。

 「あ、お母様、ウサギですわ。可愛いですわね」
 「あらぁ、本当ねぇ」
 「あれはフィーバーラビットと言って、普段は愛らしいですが敵意を持って近づくと大きく裂けた口で噛みついてくる魔物ですね。ご注意くださいませ」
 「……」

 街道横の木々と草むらがある場所に、二足歩行で歩く茶色のウサギ型魔物がこちらをじっと見ていて、ひょこひょこと草むらから群れが現れる。
 その中の一匹が威嚇のためか口を大きく開けると、魔物といって差し支えない顔になる。いや、名前。

 「怖っ!?」
 「は、早くいきましょうヒサトラさん」
 「お、おう……」

 そこから特に問題はなく、隣の領、サーディスに入るとアグリアスの婚約者がいるという町へと到着した。
 予定通り夕方か……しかしこれが馬車だと相当危険な旅になりそうだよなあ。多分まだ半分も進んでいないだろうし。サーディス領に入った後、途中スルーした町が二つほどあったが今くらいの時間にそこに到着していればいい方だと思う。

 馬は永久機関じゃないから休ませないといけないし。

 さて、ちなみに町の名前はヨルダといって領主の長男がアグリアスの婚約者とのこと。次男も居るが、結婚どころかフラフラと旅に出て家にいつかない道楽者として歯噛みしているらしいや。
 俺もそういう時期があったからなにも言えなかった。

 「お前は行かなくて良かったのか?」
 「ええ、わたしはヒサトラさんのものですから」
 「そういう言い方は止めろ。でも、トライドさんは自領地じゃないときちんとしているな」

 実は現在、トラックは町の外でサリアと二人で待機状態なのだ。
 やはり他領地で勝手はできないため町に入れてよいかの確認を一家で先に尋ねにいったというわけ。

 「あー、いつ帰ってくるか分からないしルアンを呼ぶのも難しいな」
 「後ろでも漁ります?」
 「下手に向こうのアイテムを見られるのも面倒だし、大人しく待つぞ。なんか話でも……ああ、サリアってずっとメイドをやっているのか?」

 暇つぶしがてらにサリアのことを聞いてみることにした。
 他のメイドは登場しないのに、こいつだけがずっとアグリアスについているから長いことやっているのかと思ったのだが――

 「私は孤児なんですよ。確か8歳くらいでしたかねえ、とある町で売られそうになったところで警護団が踏み入り助けられました。その依頼人がトライド様でそれから保護された子供の内の一人です。私だけ親が居なかったのでメイドとして拾っていただきました。あ、あれ、どうしたんですかヒサトラさん」

 ……まさかの壮絶人生だった。軽く聞いた俺はちょっと涙ぐみながらサリアの頭に手を乗せて鼻をすする。

 親父は居なかったが母ちゃんがいただけでも十分だったんだなと改めて思う。

 「おーい、許可が出たぞ!」
 「あ、オッケーみたいですよ。ふふ、優しいですねえヒサトラさんは」
 「ふん、目から汗が出ただけだよ! そんじゃ町へ入りますかね」

 下で手を振るトライドさんを見ながら、俺はハンドルを握るのだった。
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