異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

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第三章:最強種と

その52 そういえば……

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 山の中腹にある町の宅配が終わったころには雨は止み、これならもう少し飛ばしても良さそうだ。
 陽もまだ高いし、あと一つ町を回ったら今日は終わり。
 晩飯を町で食うか自宅で食うかという選択肢くらいしかない。贅沢な悩みだ。

 しかし、ベヒーモスが居るので町の食事は難しいか? 弁当はあんまりメジャーじゃないし……宅配弁当……利益が確保できればやっても――

 「終わりましたよ!」
 「おう!? ああ、おかえりサリア」
 「どうしたんですか? なんかぶつぶつ言ってましたけど」
 「いや、飯をどうしようか考えていたら新しい事業をだな」

 弁当屋の話をしたところ、販路が拡大できたらいいかもしれませんねという返答をするサリア。
 まずは王都からか? そんな話をしながらトラックに戻り、助手席でコヒーモスの足を拭きながら彼女は、俺に顔を向ける。

 「そういえば……そろそろ名前をつけてあげないといけませんね」
 <わふ?>
 「名前か……」

 そういえば忘れてたな……。コヒーモスの響きが自然すぎてそういうもんだと接していた。言われてみれば父ベヒーモスは呼びにくい。

 <よく言ったサリア。待ちわびていたがこちらから言いだすのも気が引けるからな>
 「うわ!? びっくりした!?」

 父ベヒーモスが運転席の窓にぬっと顔を出しながらそんなことを口にする。コンテナから落ちないようにしがみついているんだろうけど、後ろから見たら面白映像になってそうだ。

 「欲しかったのか……というか喋れるんだし名前くらいはありそうなもんだけどな?」
 <もちろん無いわけではないが、共に生きていくならお前達から貰うべきだと思っている。魔物はそういうものだ>

 まあ最強種のこいつが言うのだから間違いないか。
 しかしいきなりそう言われてもパッと思いつかないのが人間だ。

 「……帰ってからな」
 <約束だぞ?>

 そう言って父ベヒーモスはひゅっとコンテナの上に戻って行った。が、妙なプレッシャーを背負ってしまったなと口をへの字に曲げる俺。
 まあ、カッコいい名前なら族時代につけてたから多分いけるとは思う。『武毘威喪主』ベヒイモス』とか良くね? 武を『べ』と読ませるところに男気を感じるはずだ。
 そういや言葉は通じるし読めるけど、漢字はねえな。ここで漢字の名前とかイケてるんじゃ……!

 「なんか悪い顔になってますよ?」
 「え?」

 サリアが苦笑しながら俺の肩を叩く。
 どういう顔か聞いてみたかったが、鏡を出されそうだったので止めておく。 とりあえず父ベヒーモスをあまり濡らすのも悪いのでさっさと出発するか。

 「すみません!」
 「ん?」

 キーを回してエンジンをかけた瞬間、眼下で声をかけられたので窓を開けてみると先ほどの兄ちゃんの片割れ。が立っていた。

 「あの、先ほどはありがとうございました。おかげで仲間は傷跡も残らずに済みそうで、あなたが投薬したのが良かったのかも、と。これは少ないですがお礼です」
 「ああ、いいって気にすんな。たまたま通りかかっただけだからよ。それであの子に美味いもん食わせて体力を回復させてやんな。血が出ていたからそういうの大事なんだぜ?」
 「し、しかしそれでは……」
 「俺達も次の仕事があるんで、行くよ。あ、どんな病気にも効く薬や果実みたいな情報とかない?」
 「病気……いえ、俺は聞いたことがないですね……お役に立てず申し訳ない」
 「そっか。まあ、そう簡単に見つかるもんでもねえからいいさ。ああ、王都に店を構えているから移送・運送の依頼は受け付けるぜ! じゃあな」
 「あ、待って――」

 男が言い終わる前に俺はトラックを発進させた。
 連れて来ただけなので礼を言われるこっちゃねえしなあ。

 「ふふ」
 「お、どうしたサリア?」
 「ううん、私達を助けてくれた時もだったけどお礼を受け取らないのは凄いなって。こっちの世界の人だったら親切の押し売りみたいなことをして要求する人もいるから」
 「まあ、日本じゃ割と見返りが欲しくて助けるやつはあんま居なかったかな? 困ってるやつがいたら助けるだろってな」
 「でもみんなじゃないでしょ?」
 「まあな」

 俺がそう返すと『だからヒサトラさんなんですよ』とよく分からないことを言って笑っていた。
 助かって良かったから、俺は気分よく次の町へ向かうのだった。


 ◆ ◇ ◆


 「……行ってしまった。あの乗り物、鉄で出来ているのに速い……それに上に乗っているのはベヒーモスと言っていた。何者なんだ? 王都に店があると言っていたな。彼等ならもしかすると――」

 金の入った革袋を握りしめて、冒険者の男はトラックが去っていった方を見つめながら呟くのだった。
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