私がガチなのは内緒である

ありきた

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3章 一線を越えても止まらない

8話 ピロートーク

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 日付が変わってから約三時間。この近隣は交通量が少なく、夜中に騒ぐような人もいない。
 外は真っ暗なのに、家の中は最近買い換えたばかりの蛍光灯が、LEDに負けないという意地でもあるかのように明るく照らしている。
布団の周りに散乱しているのは、私と萌恵ちゃんが脱ぎ捨てたパジャマや下着。行為が盛り上がるにつれて、丁寧に畳む時間すら惜しくなって適当に放り投げ、気付けば身に着けていた衣類はすべて床の上だ。
こんな真夜中まで服を脱いでなにをしていたのかと言えば、答えは一つしかない。

「……暖房つけてないのに、寒くないね」

 布団の中で萌恵ちゃんに密着しつつ、ポツリと漏らす。
 調子に乗って激しく動きすぎたせいか、私の息はまだ少し荒い。
 決して暖かくはない気候でありながら、布団の内側は蒸し暑いぐらいだ。
 汗でわずかに湿った肌が重なり合っていても、不快感は皆無。むしろ、心地よい以外の感想が浮かんでこない。

「やっぱり、ピッタリくっついてるおかげかな~。服を着る前に、もうちょっと温め合わない?」

「うん、もちろんいいよ」

 顔だけじゃなく体も相手の方に向けて、やや疲労の残る腕で優しく抱きしめる。
 キスを何度も繰り返し、短い間隔でチュッという音が響く。
 頭の中はいつになく澄み渡り、一切の濁りなく萌恵ちゃんを感じる。
 単に密着しているからという理由だけでなく、触れ合っている部分が熱い。
 この温もりと安らぎは、お風呂に浸かっているときと似ている。
 加えて、あらゆる負の感情を消し飛ばすような幸福感。まるで全身を使ってキスをしているような気分だ。

「真菜の髪、ひんやりして気持ちいい」

「そう? 好きなだけ触ってね」

 背中に回された腕がもぞもぞと動き、髪を優しく撫でてくれる。
 私も同じように、萌恵ちゃんの錦糸のようなプラチナブロンドに指を這わせた。
 軽く波打つ長髪は、オシャレではなく生来の物。普段はハーフアップに結われているけど、ポニーテールやサイドテール、三つ編みもよく似合う。
 目の前では萌恵ちゃんが柔らかく微笑んでいて、私も思わず口角が緩む。
 カーテン越しの月明かりがあるとはいえ、それだけでは視界が不明瞭だ。電気を消さなくてよかったと、自分たちの判断を称賛せずにはいられない。

「――ひぁんっ。ご、ごめん。いい加減に寝ないと起きれなくなるし、そろそろ服着よっか」

 萌恵ちゃんの胸に覆い被される形で隠れているから視界には映らないけど、身じろぎしたことでお互いの先端部分が不意に擦れてしまった。
 痺れるような刺激が走るも、私はかろうじて嬌声を堪える。
声を抑えられなかった萌恵ちゃんは、照れ隠しのためか少し早口だ。
 休みとはいえ、惰眠を貪るのはもったいない。萌恵ちゃんの意見に賛同してうなずく。

「そう、だね……」

 存分に愛し合ったはずなのに、どうしても名残惜しさは拭えない。
 後ろ髪を引かれる思いで体を離し、最後に軽くキスをしてお互いに着衣を始める。
 下着は手に取った時点で冷たくなっているのが分かり、身に着ける前にちょっとした覚悟を要した。
 パジャマはもこもこ素材のおかげで、下着ほどの冷たさは感じない。
 電気を消して布団に潜る。
 いざ就寝する直前になっても、当然のように体を寄せる。これは初めてを捧げ合うよりも前、一緒に住み始めてからずっと変わらない。
 叶うのなら、どれだけの年月を重ねてもこのままでありたい。

「夏になっても、こうして寄り添いながら寝たいな~」

「さすが萌恵ちゃん。私もまったく同じこと思ってた」

「んふふっ、やっぱり一心同体だ」

 萌恵ちゃんの声が明るく弾む。
 惹かれ合ったように二人の手が重なり、指を絡める。

「萌恵ちゃん、大好き」

 わざわざ声に出さなくても、私の想いは萌恵ちゃんに伝わっているだろう。だけど、口にせずにはいられない。

「あたしだって、大好きだよ~」

 何度言っても、何度聞いても、決して褪せることのない幸せを感じられる。
 それからしばらくの間、私たちは羊を数えるみたいに愛を囁き合った。
 耳を通るたびに嬉しくて気分が高揚し、それでいて心からの安堵を得る。

***

 目を覚ますと朝日が昇っていて、いつの間にか寝ていたんだと気付く。
 同時に起きた萌恵ちゃんに話を聞くと、彼女もまた、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
 根拠なんてないけど、私は寝るタイミングも同じだったに違いないと確信していた。
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