私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
121 / 121
番外編

番外編 一年前の夏休み

しおりを挟む
 二学期を目前に控えた日の夜中に、ふと一年前の記憶がよみがえる。
 中学三年生の夏休み、受験勉強の息抜きに私と萌恵ちゃんは家族ぐるみで海へ行き、近場のホテルに宿泊した。
 冷静に振り返ってみると、当時から私の思考回路はなかなかに変態的だったように思う。

***

 憧れの女子校へ入学するため、私と萌恵ちゃんは夏休みに入ってからも勉強漬けの日々を送っていた。
 今日はお母さんたちの計らいで、ちょっとした息抜きのために海水浴へ来ている。
 すし詰め状態というほどではないけど、さすがに八月頭の海水浴場は人が多い。

「真菜~、あっち行ってみようよ!」

 あぁ、美しい。
 太陽を浴びてキラキラと輝く髪は後頭部で束ねられ、ボンキュッボンという表現を体現した身にまとうのは私がオススメした純白のビキニ。
 薄地のパーカーを羽織って、頭にはおそろいで買った麦わら帽子。

「うん、行こうっ」

 萌恵ちゃんに手を引かれ、砂浜を走る。
 最高の親友と海で遊ぶことによる純粋な高揚感とは別に、真夏の陽射しよりも遥かに熱い感情が体の奥底で煮え滾っている。
 いますぐ抱きしめたい。パーカーを剥ぎ取って肌と肌を密着させて、人目なんか気にせずに唇を重ねたい。
 一度口に出せば取り返しがつかなくなるような願望を胸のうちに留め、日が暮れるまで海水浴を楽しんだ。
 サッとシャワーを浴びて着替えを済ませたら、予約していたホテルに車で移動する。
 朝早くから運転を頑張ってくれたお父さんたちには、感謝しかない。
 部屋割りは私と萌恵ちゃん、私の両親、萌恵ちゃんの両親という形になっている。

「んふふっ、ベッドふかふかだ~っ。ほらほら、真菜もこっち来て!」

 荷物をソファに置いてすぐさまベッドに体を投げた萌恵ちゃんが、満面の笑みで私を呼ぶ。
 私は歓喜のあまり心の中で派手に暴れ回り、表面上ではふふっと微笑みながら萌恵ちゃんの元へ向かう。
 スリッパを脱いでベッドに上がり、萌恵ちゃんの隣に寝転ぶ。
 なるほど、確かに家のベッドとは明らかに違う。

「このホテルの大浴場って、いろんなお風呂があるらしいよっ。楽しみ~っ」

「せっかく来たんだから、全部入らないとね」

「うんっ!」

 萌恵ちゃんは元気のいい返事と共に、私をギュッと抱きしめた。
 深い意味のない日常的なスキンシップとはいえ、私の理性は激しく揺さぶられる。
 中学生にして大人顔負けに育ったおっぱいがむぎゅっと押し付けられ、かすかに残った潮の香りが気にならないほどのいい匂いがふわっと漂う。
 大好きな人に抱きしめられる幸せは、筆舌に尽くしがたいものだ。
 私がいまどれほどドキドキしているか、萌恵ちゃんは知らない。
 高校生になったら、この気持ちを伝えることができるのだろうか。
 もし奇跡が起きて恋人になれたら、妄想の中だけじゃなく、現実でもキスできるのかな……。
 あわよくば、エッチなことも……!
 ダメだ、想像しただけで変な気持ちになってしまう。

「萌恵ちゃん、そろそろ準備しないと」

「あっ、そうだね!」

 準備と言っても特にやることはないけど、お母さんたちと集合する時間が近い。
 最上階のレストランでビュッフェ形式のディナーが待っている。

「……あ」

 ベッドから離れる際、とあることに気付いて動きが一瞬止まった。
 エッチな妄想を繰り広げていたせいか、身じろぎしてハッキリと分かる程度には、下着が湿っている。
 思春期真っ盛りとはいえ、我ながら自分の性欲に呆れてしまう。
 今夜は萌恵ちゃんが寝た後に、トイレでこっそり自分を慰めないと。

***

 ……うん、やっぱり私は中学生にして性欲の権化みたいな思考回路だった。
 心から旅行を楽しんでいたのは確かだけど、基本的にエッチなことばかり考えていたのもまた事実。
 人間として仕方のない欲求とはいえ、思わず失笑が漏れる。

「ん……真菜、どうしたの?」

「ごめん、起こしちゃった? 去年の海水浴を思い出してたんだけど、自分に呆れて笑っちゃった」

「すごく楽しかったよね~。ベッドがふかふかで、ご飯がおいしくて、大浴場でバラのお風呂を見て大はしゃぎして怒られたりして」

「いまだから言えるんだけど、実はあの時、ずっとエッチなことばかり考えてたんだよね。萌恵ちゃんとキスしたいとか、萌恵ちゃんとエッチしたいとか」

「え、そうなのっ?」

 かなり驚いているらしく、ふにゃふにゃの寝起き声が一気にシャキッとなった。

「軽蔑、するよね」

「するわけないじゃん。むしろ、まったく気付かなかったあたしの鈍感さに呆れちゃうよ~。ごめんね、真菜」

「も、萌恵ちゃんが謝ることじゃないよっ」

 萌恵ちゃんの優しすぎる反応に慌てつつ、以前なら絶対に言えなかったようなこともあっさり打ち明けられる関係になったのだと実感する。

「年中発情期な私だけど、これからもよろしくね」

 そう言いもって不意打ちでチュッとキスをすると、萌恵ちゃんは「こちらこそ」と微笑みながらキスを返してくれた。
 すっかり目が覚めてしまった私たちは、唇同士はもちろん、頬や額、首筋や鎖骨にもキスをし合う。
 こんな風にイチャイチャできる日が来るなんて、一年前は妄想の中だけの話だと思っていた。

「萌恵ちゃん、大好きっ」

「んふふっ、あたしも真菜のこと大好き~っ」

 笑顔を浮かべ、ぎゅう~っと熱い抱擁を交わす。
 以前はどれだけ強く想っても、無理やり心の奥に仕舞っていた。
 こうして素直に愛の言葉を伝えられる幸せは、キスやエッチに勝るとも劣らない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...