追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)

文字の大きさ
1 / 15

第一話①

しおりを挟む


「サーナ・ベルガ。本日をもって、『聖帝』の地位を剥奪するものとする!」

 聖イチア教団の教皇が高らかに叫んだ。五十路の、白髪混じりの金髪を持つ小太りの男性だ。
 俺、サーナは、苦々しく顔をしかめた。――くそっ、こうなるのかよ。
 聖宮の広場で、多くの聖騎士がいる中での断罪だった。理由は察しがつく。先日、教皇猊下から夜伽を命じられた際、断わったからだ。
 それで俺に腹を立てて、俺の『聖帝』という地位を奪い、追放しようとしているのだろう。

「……理由をお聞かせいただきたいのですが」

 地面に両膝をついたまま、教皇猊下を見上げて一応は訊ねる。すると、教皇猊下は「ふん」と鼻を鳴らし、忌々しいものを見る目つきで俺に視線を投げかけた。

「白々しい。『聖帝』という気高い地位にありながら、妻子のいるこの儂を誘惑しおって。そのような破廉恥な男、『聖帝』にふさわしいはずがないだろう」
「!?」
「よって、貴殿にはこの教団から追放を命じる。早々に出て行くがいい」

 教皇猊下は冷ややかに言い放ち、壇上から下りてそそくさと立ち去っていく。
 俺は放心したまま、その場から動けずにいた。意味が分からなかった。なんで勝手に俺が誘惑したことになっているんだよ。お前から誘ってきたんだろ、浮気野郎。
 という心のツッコミをする傍らで、居合わせた聖騎士たちがひそひそと話している。

「まさか、サーナ様がそのような破廉恥なことをするとは」
「それも相手は教皇猊下……顔に似合わず、大胆だな」
「お優しい方だと思っていたのに。幻滅した」

 聖騎士たちは愕然としている俺に侮蔑の眼差しを向けながら、さっさとその場からいなくなっていく。
 ぽつんと一人残された俺は……悔しさに歯噛みするしかなかった。
 要するに、教皇は自分が悪者にされないよう嘘をついて俺に追放を命じた。そういうことだった。こっちは……さすがに教皇の妻子の気持ちを慮って、誰にも口外しなかったのに。ただ一人の護衛騎士を除いては。
 先手を打たれてしまった。

「……なんなんだ、あのスケベ爺さん」

 村から強引に連れてきておいて、ほんの数ヶ月でこの仕打ち。最初から俺の『聖帝』としての力に興味はなく、ただ俺の顏と身体が目当てだったんじゃないのか?
 そう疑ってしまうほど、クズとしか言いようがない爺さんだ。

「ひとまず、戻ろう……」

 ぽつりと呟く。
 聖騎士のみんなに釈明しようとしても、信じてもらえるとは思えない。そもそも、教団の最高権力者を敵に回してしまった以上、たとえみんなが信じたとしてもここにはいられないわけで。だったら、もう諦めてここを去るしかない。
 俺は住まいである宮殿へと、とぼとぼと歩いて帰った……。




「申し訳ございません……! サーナ様」

 ――翌朝。
 荷造りを終え、宮殿を出ようとしたところで、護衛騎士……いや、『元・護衛騎士』であるエスリオさんがやってきて、俺に向かって頭を勢いよく下げた。
 俺は不思議に思って首を傾げるしかない。

「おはよう。何に謝っているんだ」
「昨日の件でございます。サーナ様をお守りできず、一緒についていくことができない私をお許し下さい……」

 申し訳なさそうに目を伏せ、真摯に謝罪するエスリオさん。

「別にいいよ。顔を上げてくれ」
「ですが……」
「エスリオさんには妻子がいるんだ。妻子のことを一番に考えたら、当然のことだ。気にしなくていい」
「サーナ様……」

 エスリオさんは顔を伏せたまま、ぐっと悔しげに唇を噛みしめる。しばらく押し黙っていたけど、やがて静かに面を上げた。

「ありがとうございます。……どうか、お元気で」
「うん」

 俺は努めて明るく笑う。知り合いが誰もいないこの聖宮で、護衛騎士であるエスリオさんだけが頼りになる人だった。この数ヶ月後、随分と支えられてきた。
 だから……もう心配をかけたくない。

「これからどちらへ行かれるのですか?」
「ルミルカ王国へ行くつもりだ」
「え?」

 エスリオさんは、目を丸くする。

「……ご実家には帰られないのですか?」
「俺はもう大人だ。親には迷惑をかけられない」
「ですが、これからの生活は……」
「どうにかする。せっかくだから異国暮らしをしてみたい」
「そう、ですか……」

 心配そうな顔をしているエスリオさんに、俺は精一杯の笑みを浮かべる。

「じゃあ、そろそろ行くよ。いつかまた会えたらいいな」

 多分、そのいつかはこないだろうけれど。聖騎士はあくまでこの国――ノルディーナ王国内を駆け回って魔獣討伐する仕事だ。俺はもう聖宮に立ち入ることができないし、もしどこかで再会できたとしたらそれはとんでもない奇跡的な確率だろう。
 そうして俺は、宮殿をあとにした。そのまま聖宮の敷地を出て、小高い山を下りていくと、やがて一台の箱形馬車が停まっている。
 教皇が情けで手配してくれたものだ。朝、メイドつてにそう聞いた。

「国境までお願いします」
「はいよ」

 初老の御者に声をかけてから、馬車に乗り込む。荷物を向かい側の席に置くと、ヒヒーンと馬のいななきが響いた。馬車がゆっくりと動き出す。
 国境に向かって。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

エリートαとして追放されましたが、実は抑制剤で隠されたΩでした。辺境で出会った無骨な農夫は訳あり最強αで、私の運命の番らしいです。

水凪しおん
BL
エリートαとして完璧な人生を歩むはずだった公爵令息アレクシス。しかし、身に覚えのない罪で婚約者である王子から婚約破棄と国外追放を宣告される。すべてを奪われ、魔獣が跋扈する辺境の地に捨てられた彼を待っていたのは、絶望と死の淵だった。 雨に打たれ、泥にまみれたプライドも砕け散ったその時、彼を救ったのは一人の無骨な男、カイ。ぶっきらぼうだが温かいスープを差し出す彼との出会いが、アレクシスの運命を根底から覆していく。 畑を耕し、土に触れる日々の中で、アレクシスは自らの体に隠された大きな秘密と、抗いがたい魂の引力に気づき始める。 ――これは、偽りのαとして生きてきた青年が、運命の番と出会い、本当の自分を取り戻す物語。追放から始まる、愛と再生の成り上がりファンタジー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...