ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

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第224話 『西中まつり』(11) at 1995/9/15

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 どれくらい時間が経ったのだろう。
 重苦しい空気に根を上げたのはロコだった。


「悪かった……わよ……」


 しかし、かなりふてくされたような、ぶすり、とした表情をしていて、謝りたい気持ちとはねつけたい気持ちがないまぜになっているようだった。消え入りそうだった語尾が急に上がる。


「で、でも! 余計な手出しをしたのはあんたなんだからね! 怪我しなくて済んだのに……」

「でもな、ロコ?」


 言われた僕は特段怒るでもなく、むしろ優しい声でロコに言い聞かせてやる。


「もし僕が止めなければ、さぞすっきりしたんだろうな。……でも、どっちにも一生消えない傷が残っていたはずだ。向こうは顔に、お前はココロに。よくて停学か、悪けりゃ退学だろ」

「――っ!?」

「それでも、あたしは正しい――」


 きっ、とようやく顔を上げ僕を見返したロコの瞳は鋭かった。僕はロコのココロを代弁してやる。


「――きっとロコはそう言うんだろうな。わかってる、長い付き合いだから。……でもさ、世の中、正しいから正義ってわけじゃない。間違えているから悪ってわけでもない。そうなんだ」

「……」


 ロコは一度合わせた視線をすっと外してしまって窓の外を見た。そして呟く。


「あたし、そういうの苦手。合宿の時にも言ったじゃん。良い子ぶるのってできないんだもん」

「あのな……別に僕は良い子ぶってるわけじゃないぜ? 無茶しすぎだ、って言ってるんだよ」

「はぁ!? 大切な友だちのために無茶しないで、いつやるわけ!?」

「だったら、僕のこの傷も、、って言ったら通じるか?」


 ぐ、とロコは言葉を詰まらせた。

 でも、僕だって何も言い負かしたいわけじゃない。
 この気持ちをわかって欲しかっただけだ。


「僕だって、あの子たちのことは大嫌いだし、絶対に好きになんてなれないよ。でもさ――?」


 僕はそこで息苦しさのあまりに一旦セリフを区切ると、鼻に詰められていた真っ赤に染まった綿球を引きずり出してみた――うん、血はもう出てこないみたいだ。反対側も取ってしまおう。


「大嫌いな、好きになれない連中だからこそ、そんな奴らのせいでロコが傷つくのは嫌なんだ」

「あんな奴ら、手なんて出して来ないって」

「違う。違うんだってば」


 小馬鹿にしたように鼻で笑ったなんとも男らしいロコの顔を見つめて大真面目な顔で告げた。


「なぁ、さっきも言ったろ? 傷つくのはココロだよ。傷つけられてぼろぼろになるのはロコのココロの方だ。正義のヒーローだって完璧じゃない。無敵じゃない。ココロは弱いんだよ」

「……」

「カラダが傷つけばすぐわかるよな? 痛いし、血は出るし……。でも、ココロは傷ついてもなかなか気がつけない。気づいた時にはもう遅い、手遅れになってる。僕はそれを


 それは中学二年生の『僕』ではなく、齢四〇で退職寸前の『俺』の体験したことだ。それを今のロコに理解しろと言ったところで難しいだろう。それでも僕はロコに伝えたかったのだ。



 この世界には、どうやっても避けようのない理不尽だってある。
 この世界には、どうしたって関わらざるを得ない負け戦がある。



 負けるものかとどこまでも意地を通せば、やがて折れて怪我をしてしまうのは自分の方だ。
 必死で守っているつもりでも、気がついた時には周りには誰もおらず、ひとりぽっちだ。



 そんな危うさがロコにはあるのだ。
 あったのだ。



「わ、わかったわよ……。でも、二度としないなんて無理な約束、あたし、できないから」

「うん。それでいい。でも、覚えておいて欲しいんだ。のために」


 その、いつか、なんて、永遠にこなければいい――そうロコのために願いながら。


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