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生贄
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もしかしたらこれが最後になるかもしれないと思い、いつもより少し良いお酒を持って神社に行った。
「椿様。俺がここに来ることによって椿様が消えるというのであれば俺はもうここには来ません!」
「チッ、天のやつ余計なことを言いおったな。おミツ、お主が来なくても我はここを動くつもりもないし、我がいずれ消滅する事実も変わらん。」
「そんな⋯」
なぜここの場所にこだわるのだろう。あの狛狐は神社を移れば良いと言っていた。椿様は自分が消えてしまうことは怖くないのだろうか。
「椿様、何か方法はないのかのぅ?ワシも椿様に消えてほしくはないし、温泉にも入れなくなってしまうのはまっこと残念じゃ。」
「⋯あるにはある。」
「なんですか!?俺、何でもします!」
「ほぉ?」
椿様はニヤリと笑った。
「おミツ、雨乞いをするには何が必要だと思う?」
雨乞いって雨を降らせるために祈ることだよな?お供え物とか?
「生贄だ。」
現代社会では聞くことのない言葉に背筋がゾクリとした。
「自然の理を曲げることはいくら神でも難しい。信仰心だけでは力が足りない。だから足りない力を命で補うのだ。生きている人間の生命力は絶大で、その力をこの場に封じて神社を閉じれば我の消滅は免れるであろう。」
それは
つまり
「おミツ、贄となり我の力となれ。」
今、椿様は何と言った?
つまり俺の命をよこせってこと?
目眩がする。
声が出ない。
俺が何も言えずに固まっているとシゲじいが呆れながら椿様に話しかけた。
「こりゃ椿様、言い方が悪い。そこは"嫁に来い"と言うべきじゃろ。」
今なんて?
「童、生贄になるとは言い方を変えると神の嫁、または眷属になるということじゃよ。神に捧げられた人間は人の理を外れ、新たに人じゃないモノに生まれ変わるのじゃ。」
嫁?嫁ぇ!?
あと人じゃないモノって何?
怖すぎるんてすけど!
「ふむ、なるほど。よし!おミツ、我の嫁になれ。」
偉そうな求婚だなぁ!
「フォフォフォ。こりゃめでたい。祝言には温泉仲間たちを呼ぼうかのぉ。」
「婚礼衣装は稲荷が持ってるだろ。天に持ってこさせよう。」
お気付きだろうか。
俺はここまでで一切声を出していない。
しかし勝手に話を進める神とカピバラ。
「ちょっ!ちょっと待って下さい!いきなり嫁に来いと言われても困ります!」
なぜ?と言う顔をしている神とカピバラ。
いや、逆になんですぐに受け入れられると思ってんだ。
「と、とりあえず落ち着いて、落ち着いて考えさせて下さい。消滅とか生贄とか嫁とか情報量が多すぎる!持ち帰り検討させて頂きます!」
営業の常套句を述べてひとまずその場から逃げた。
家に帰ってからも今日の出来事を考えて考えて結局まとまらなかった。
それから数日はあえて椿様のことを考えずに仕事に没頭した。
少し気持ちが落ち着いたところで改めて考えてみる。つまるところ俺が椿様の嫁になれば椿様は消滅しないということだよな。
椿様の嫁か⋯嫌ではないな。
神の嫁というのがピンとこないが、椿様とは一緒にいたいと思う。
そして「人じゃないモノに生まれ変わる」というシゲじいの言葉がずっとひっかかる。
俺、妖怪にでもなるのか?
「おい人間。」
うんうん唸っていると窓から声がした。
ギョッとして見ると窓から天と呼ばれていた狛狐が入ってきた。
ちょっと土足!その下駄は脱いで!
「八峯乃海石榴の命がお呼びだ。付いて来い。」
今まで呼び出されたことなんて一度もないのに?しかももう夜の10時を過ぎている。
「明日に行くつもりですがそれではダメですか?」
「ボクは知らない。それよりいいのか?もう時間はないぞ。」
「え!?まさか椿様が消滅するとか?そんなに切羽詰まった話だったの!?」
そういえばタイムリミットを聞いていなかった。シゲじいと嫁だのなんだの楽しそうにしていたからそこまで時間がないなんて予想だにしなかった。
「すぐ行く。」
俺は取る物も取り敢えず家を飛び出した。
**************************
暗い!夜の山怖い!
スマホのライトを頼りにいつもの山道に来たけれど街灯のない山道がこんなに何も見えないなんて思わなかった。
少し先にいる狛狐くんがうっすら光っているので逸れることはないが如何せん足元が暗すぎる。
歩き辛いからか、神社までが遠く感じる。
すると狛狐くんが立ち止まった。
「どうしたの?早く神社まで行かないと。」
「しっ。静かに。」
人さし指を立てた狛狐くんが辺りを見回した。
「来た。」
と呟くと草の影から黒いモヤが飛び出したと思ったときには俺の意識は途切れていた。
「椿様。俺がここに来ることによって椿様が消えるというのであれば俺はもうここには来ません!」
「チッ、天のやつ余計なことを言いおったな。おミツ、お主が来なくても我はここを動くつもりもないし、我がいずれ消滅する事実も変わらん。」
「そんな⋯」
なぜここの場所にこだわるのだろう。あの狛狐は神社を移れば良いと言っていた。椿様は自分が消えてしまうことは怖くないのだろうか。
「椿様、何か方法はないのかのぅ?ワシも椿様に消えてほしくはないし、温泉にも入れなくなってしまうのはまっこと残念じゃ。」
「⋯あるにはある。」
「なんですか!?俺、何でもします!」
「ほぉ?」
椿様はニヤリと笑った。
「おミツ、雨乞いをするには何が必要だと思う?」
雨乞いって雨を降らせるために祈ることだよな?お供え物とか?
「生贄だ。」
現代社会では聞くことのない言葉に背筋がゾクリとした。
「自然の理を曲げることはいくら神でも難しい。信仰心だけでは力が足りない。だから足りない力を命で補うのだ。生きている人間の生命力は絶大で、その力をこの場に封じて神社を閉じれば我の消滅は免れるであろう。」
それは
つまり
「おミツ、贄となり我の力となれ。」
今、椿様は何と言った?
つまり俺の命をよこせってこと?
目眩がする。
声が出ない。
俺が何も言えずに固まっているとシゲじいが呆れながら椿様に話しかけた。
「こりゃ椿様、言い方が悪い。そこは"嫁に来い"と言うべきじゃろ。」
今なんて?
「童、生贄になるとは言い方を変えると神の嫁、または眷属になるということじゃよ。神に捧げられた人間は人の理を外れ、新たに人じゃないモノに生まれ変わるのじゃ。」
嫁?嫁ぇ!?
あと人じゃないモノって何?
怖すぎるんてすけど!
「ふむ、なるほど。よし!おミツ、我の嫁になれ。」
偉そうな求婚だなぁ!
「フォフォフォ。こりゃめでたい。祝言には温泉仲間たちを呼ぼうかのぉ。」
「婚礼衣装は稲荷が持ってるだろ。天に持ってこさせよう。」
お気付きだろうか。
俺はここまでで一切声を出していない。
しかし勝手に話を進める神とカピバラ。
「ちょっ!ちょっと待って下さい!いきなり嫁に来いと言われても困ります!」
なぜ?と言う顔をしている神とカピバラ。
いや、逆になんですぐに受け入れられると思ってんだ。
「と、とりあえず落ち着いて、落ち着いて考えさせて下さい。消滅とか生贄とか嫁とか情報量が多すぎる!持ち帰り検討させて頂きます!」
営業の常套句を述べてひとまずその場から逃げた。
家に帰ってからも今日の出来事を考えて考えて結局まとまらなかった。
それから数日はあえて椿様のことを考えずに仕事に没頭した。
少し気持ちが落ち着いたところで改めて考えてみる。つまるところ俺が椿様の嫁になれば椿様は消滅しないということだよな。
椿様の嫁か⋯嫌ではないな。
神の嫁というのがピンとこないが、椿様とは一緒にいたいと思う。
そして「人じゃないモノに生まれ変わる」というシゲじいの言葉がずっとひっかかる。
俺、妖怪にでもなるのか?
「おい人間。」
うんうん唸っていると窓から声がした。
ギョッとして見ると窓から天と呼ばれていた狛狐が入ってきた。
ちょっと土足!その下駄は脱いで!
「八峯乃海石榴の命がお呼びだ。付いて来い。」
今まで呼び出されたことなんて一度もないのに?しかももう夜の10時を過ぎている。
「明日に行くつもりですがそれではダメですか?」
「ボクは知らない。それよりいいのか?もう時間はないぞ。」
「え!?まさか椿様が消滅するとか?そんなに切羽詰まった話だったの!?」
そういえばタイムリミットを聞いていなかった。シゲじいと嫁だのなんだの楽しそうにしていたからそこまで時間がないなんて予想だにしなかった。
「すぐ行く。」
俺は取る物も取り敢えず家を飛び出した。
**************************
暗い!夜の山怖い!
スマホのライトを頼りにいつもの山道に来たけれど街灯のない山道がこんなに何も見えないなんて思わなかった。
少し先にいる狛狐くんがうっすら光っているので逸れることはないが如何せん足元が暗すぎる。
歩き辛いからか、神社までが遠く感じる。
すると狛狐くんが立ち止まった。
「どうしたの?早く神社まで行かないと。」
「しっ。静かに。」
人さし指を立てた狛狐くんが辺りを見回した。
「来た。」
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