カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ

文字の大きさ
5 / 9

生贄

しおりを挟む
 もしかしたらこれが最後になるかもしれないと思い、いつもより少し良いお酒を持って神社に行った。

椿ツバキ様。俺がここに来ることによって椿ツバキ様が消えるというのであれば俺はもうここには来ません!」
「チッ、テンのやつ余計なことを言いおったな。おミツ、お主が来なくても我はここを動くつもりもないし、我がいずれ消滅する事実も変わらん。」
「そんな⋯」

 なぜここの場所にこだわるのだろう。あの狛狐こまぎつねは神社を移れば良いと言っていた。椿ツバキ様は自分が消えてしまうことは怖くないのだろうか。

椿ツバキ様、何か方法はないのかのぅ?ワシも椿ツバキ様に消えてほしくはないし、温泉にも入れなくなってしまうのはまっこと残念じゃ。」
「⋯あるにはある。」
「なんですか!?俺、何でもします!」
「ほぉ?」

椿ツバキ様はニヤリと笑った。

「おミツ、雨乞いをするには何が必要だと思う?」

 雨乞いって雨を降らせるために祈ることだよな?お供え物とか?

「生贄だ。」

 現代社会では聞くことのない言葉に背筋がゾクリとした。

「自然のことわりを曲げることはいくら神でも難しい。信仰心だけでは力が足りない。だから足りない力を命で補うのだ。生きている人間の生命力は絶大で、その力をこの場に封じて神社ここを閉じれば我の消滅は免れるであろう。」

 それは

 つまり

「おミツ、贄となり我の力となれ。」

 今、椿ツバキ様は何と言った?
 つまり俺の命をよこせってこと?
 目眩がする。
 声が出ない。

 俺が何も言えずに固まっているとシゲじいが呆れながら椿ツバキ様に話しかけた。

「こりゃ椿ツバキ様、言い方が悪い。そこは"嫁に来い"と言うべきじゃろ。」

 今なんて?

わっぱ、生贄になるとは言い方を変えると神の嫁、または眷属になるということじゃよ。神に捧げられた人間は人のことわりを外れ、新たに人じゃないモノに生まれ変わるのじゃ。」

 嫁?嫁ぇ!?
 あと人じゃないモノって何?
 怖すぎるんてすけど!

「ふむ、なるほど。よし!おミツ、我の嫁になれ。」

 偉そうな求婚プロポーズだなぁ!

「フォフォフォ。こりゃめでたい。祝言には温泉仲間たちを呼ぼうかのぉ。」
「婚礼衣装は稲荷イナリが持ってるだろ。テンに持ってこさせよう。」

 お気付きだろうか。
 俺はここまでで一切声を出していない。
 しかし勝手に話を進める神とカピバラ。

「ちょっ!ちょっと待って下さい!いきなり嫁に来いと言われても困ります!」

 なぜ?と言う顔をしている神とカピバラ。
 いや、逆になんですぐに受け入れられると思ってんだ。

「と、とりあえず落ち着いて、落ち着いて考えさせて下さい。消滅とか生贄とか嫁とか情報量が多すぎる!持ち帰り検討させて頂きます!」

 営業の常套句を述べてひとまずその場から逃げた。
 家に帰ってからも今日の出来事を考えて考えて結局まとまらなかった。
 それから数日はあえて椿ツバキ様のことを考えずに仕事に没頭した。
 少し気持ちが落ち着いたところで改めて考えてみる。つまるところ俺が椿ツバキ様の嫁になれば椿ツバキ様は消滅しないということだよな。
 椿ツバキ様の嫁か⋯嫌ではないな。
 神の嫁というのがピンとこないが、椿ツバキ様とは一緒にいたいと思う。
 そして「人じゃないモノに生まれ変わる」というシゲじいの言葉がずっとひっかかる。
 俺、妖怪にでもなるのか?

「おい人間。」

 うんうん唸っていると窓から声がした。
 ギョッとして見ると窓からテンと呼ばれていた狛狐こまぎつねが入ってきた。
 ちょっと土足!その下駄は脱いで!

八峯乃海石榴ヤツヲノツバキミコトがお呼びだ。付いて来い。」

 今まで呼び出されたことなんて一度もないのに?しかももう夜の10時を過ぎている。

「明日に行くつもりですがそれではダメですか?」
「ボクは知らない。それよりいいのか?もう時間はないぞ。」
「え!?まさか椿ツバキ様が消滅するとか?そんなに切羽詰まった話だったの!?」

 そういえばタイムリミットを聞いていなかった。シゲじいと嫁だのなんだの楽しそうにしていたからそこまで時間がないなんて予想だにしなかった。

「すぐ行く。」

 俺は取る物も取り敢えず家を飛び出した。

**************************
 暗い!夜の山怖い!
 スマホのライトを頼りにいつもの山道に来たけれど街灯のない山道がこんなに何も見えないなんて思わなかった。
 少し先にいる狛狐こまぎつねくんがうっすら光っているのではぐれることはないが如何せん足元が暗すぎる。
 歩き辛いからか、神社までが遠く感じる。
 すると狛狐こまぎつねくんが立ち止まった。

「どうしたの?早く神社まで行かないと。」
「しっ。静かに。」

 人さし指を立てた狛狐こまぎつねくんが辺りを見回した。

「来た。」

 と呟くと草の影から黒いモヤが飛び出したと思ったときには俺の意識は途切れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q矢(Q.➽)
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記

天田れおぽん
BL
 ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。  だけどオズワルドには初恋の人がいる。  でもボクは負けない。  ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ! ※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。 ※他サイトでも連載中 2026/01/28 第22話をちょっとだけ書き足しました。

異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで

0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。 登場人物はネームレス。 きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。 内容はタイトル通りです。 ※2025/08/04追記 お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

処理中です...