61 / 79
四章 試練と不調と裸の付き合い
誰よりも最初に認めてもらいたい
しおりを挟む
どうやら無防備過ぎる辻口は、濱中にとっては刺激が強すぎたらしい。今も全裸で堂々とする辻口を直視できず、濱中の目が泳いでいる。これ以上は彼の目には毒だ。
「ありがとな、濱中。じゃあ辻口、さっさと入って出るぞ」
「分かった。じゃあ頼んだぞー濱中」
何も知らない辻口が濱中に近づき、肩をポンポン叩いてから浴場へ向かい出す。
罪作りな奴だ、と辻口に思う日が来るなんて……。息をついてから俺も立ち上がり、ライナスを見る。
「じゃあ行ってくる。しっかり休んでいてくれ」
「はい、待ってます。早く家に帰りたいです」
にこやかに微笑むライナスの目に、明らかな熱が宿っている。
俺だけに向けた、俺にしか分からない気配。危うく「コラ」と言いかけて、どうにか飲み込む。
頼むから不意打ちで俺を動揺させないでくれ。せめて人前だけはやめてくれ。頼むから。
切実にそう思いながら、俺は浴場へ向かった。
帰りの車の中は静かだった。いつもなら行きも帰りもライナスが俺に話しかけ、俺が相槌を打つなりツッコミを入れるなりするが、今日に限って無言だった。
山のほうへ向かう間際の信号で停まっている間、俺は横目で助手席のライナスを見やる。やけに引き締まった横顔でドキリとした。
真っ直ぐに先を見据えている目。総湯で倒れたことを落ち込んでいるようには見えない。ふと気になって俺からライナスに話を振った。
「何か考え事でもしているのか?」
「はい。カツミさんとの先を、考えていました」
「あんな豪雪でヘクサも多い辺境で、ずっと俺と一緒なんてつまらんだろ?」
「ずっと二人だけでいられるなんて、サイコーです!」
溜めなしの即答に思わず俺は吹き出してしまう。
「普通は俺みたいなおっさんと二人きりなんて、むさ苦しくて遠慮したいもんだがな」
「ワタシにとっては大切なミューズで、たったひとりの愛しい人です」
ライナスらしい答え。もう疑いも反論も俺からは出ない。そして普段なら恥ずかしくて何も言い返さないが、今日だけは俺の口も軽くなる。
「俺も……後にも先にも、お前だけだ」
「ではさっきの答えはイエスですか?」
「保留だ。まず目的を果たさんと、どうしようもないだろ」
「頑張ります! ローレンにも、他の人にも、認めてもらいます」
不意に視界の横で、ライナスがこちらを向く動きをとらえる。
そして身を乗り出し肩を叩かれて振り向けば――チュッ、と音を立てながら軽く唇を奪われた。
もう辺りは薄暗く、前後に車はない。それでも俺の羞恥を煽るには十分だった。
「ライナス、お前……っ」
「カツミさんにも、絶対に認めてもらえる物を作ります。誰よりも最初に、カツミさんに認めてもらいたいです」
言いたいことだけ言って、ライナスはさっさと助手席へ座り直す。停止中でも運転している時はやめろ、と言いたかったが、あいにく信号が青になり、走り出すしかなかった。
「ありがとな、濱中。じゃあ辻口、さっさと入って出るぞ」
「分かった。じゃあ頼んだぞー濱中」
何も知らない辻口が濱中に近づき、肩をポンポン叩いてから浴場へ向かい出す。
罪作りな奴だ、と辻口に思う日が来るなんて……。息をついてから俺も立ち上がり、ライナスを見る。
「じゃあ行ってくる。しっかり休んでいてくれ」
「はい、待ってます。早く家に帰りたいです」
にこやかに微笑むライナスの目に、明らかな熱が宿っている。
俺だけに向けた、俺にしか分からない気配。危うく「コラ」と言いかけて、どうにか飲み込む。
頼むから不意打ちで俺を動揺させないでくれ。せめて人前だけはやめてくれ。頼むから。
切実にそう思いながら、俺は浴場へ向かった。
帰りの車の中は静かだった。いつもなら行きも帰りもライナスが俺に話しかけ、俺が相槌を打つなりツッコミを入れるなりするが、今日に限って無言だった。
山のほうへ向かう間際の信号で停まっている間、俺は横目で助手席のライナスを見やる。やけに引き締まった横顔でドキリとした。
真っ直ぐに先を見据えている目。総湯で倒れたことを落ち込んでいるようには見えない。ふと気になって俺からライナスに話を振った。
「何か考え事でもしているのか?」
「はい。カツミさんとの先を、考えていました」
「あんな豪雪でヘクサも多い辺境で、ずっと俺と一緒なんてつまらんだろ?」
「ずっと二人だけでいられるなんて、サイコーです!」
溜めなしの即答に思わず俺は吹き出してしまう。
「普通は俺みたいなおっさんと二人きりなんて、むさ苦しくて遠慮したいもんだがな」
「ワタシにとっては大切なミューズで、たったひとりの愛しい人です」
ライナスらしい答え。もう疑いも反論も俺からは出ない。そして普段なら恥ずかしくて何も言い返さないが、今日だけは俺の口も軽くなる。
「俺も……後にも先にも、お前だけだ」
「ではさっきの答えはイエスですか?」
「保留だ。まず目的を果たさんと、どうしようもないだろ」
「頑張ります! ローレンにも、他の人にも、認めてもらいます」
不意に視界の横で、ライナスがこちらを向く動きをとらえる。
そして身を乗り出し肩を叩かれて振り向けば――チュッ、と音を立てながら軽く唇を奪われた。
もう辺りは薄暗く、前後に車はない。それでも俺の羞恥を煽るには十分だった。
「ライナス、お前……っ」
「カツミさんにも、絶対に認めてもらえる物を作ります。誰よりも最初に、カツミさんに認めてもらいたいです」
言いたいことだけ言って、ライナスはさっさと助手席へ座り直す。停止中でも運転している時はやめろ、と言いたかったが、あいにく信号が青になり、走り出すしかなかった。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる