白雪様とふたりぐらし

南條 綾

文字の大きさ
14 / 16
第二章 のんびりとした日常

14話 白雪様と迎えるお盆

しおりを挟む
 8月13日。

 お盆の入り口の日。
 
 朝、目が覚めた瞬間、部屋がいつもより静かに感じた。
 カーテンの隙間から夏の光が差し込んで、床に細い線が伸びている。
 蝉の声はしてるのに、どこか遠く聞こえる感じがしていた。

 ベッドの隣で、白雪様はまだ眠っていた。
 銀色の髪が枕に広がって、朝日を受けて淡く光ってる。
 寝息は静かで、規則正しい。その音を聞いてるだけで、胸の奥が少し落ち着いた。

 私はそっと起き上がって、白雪様の額に軽くキスをした。

「ん……綾……?」

 白雪様は目を細めて、眠たそうに笑った。

「おはよう、白雪様」

 声が思ったより小さくて、自分でも少しだけ照れた。

「おはよう……今日は、お盆の入り口の日だね」

 私はうなずいた。胸の奥が、少しだけきゅっとなる。

「うん。今日は、みんなを迎える準備をする日だよ」

 白雪様はゆっくり体を起こして、私の手を探すみたいに握った。指先が、あったかい。

「綾……今日、寂しくならないように、私、ずっとそばにいるよ」

 その言葉が嬉しくて、胸の奥がふわっとほどけた。
 私は白雪様の手を握り返した。

「ありがとう……白雪様がいるから、寂しくないよ。一緒に準備しよう」

 朝食の後、お盆の準備を始めた。まず、お仏壇を開ける。
 埃を払う布を取り出して、ゆっくり拭いていく。
 白雪様は私の隣で、布を手に持って埃を払っていた。
 小さな布が仏壇の隅まで丁寧に滑って、埃がふわっと舞い上がる。
 私は白雪様の横で、同じように布を動かしながら、静かに言った。

「白雪様、ありがとう。ひとりじゃ、こんなに丁寧にできなかったかも」

 白雪様は手を止めて、私の顔を覗き込んだ。

「綾……私、綾の大事な場所だから、ちゃんと綺麗にしたいんだ」

 その言葉に、胸が温かくなって、私は白雪様の肩に軽く頭を寄せた。

「白雪様……優しいね」

 白雪様は少し照れくさそうに笑った。

「綾が優しいから、私も優しくなれるよ」

 白雪様はキュウリを手に取った。
 少しぎこちない手つきで、足になる楊枝を一本ずつ刺していく。
 出来上がった精霊馬は形がちょっと不格好だったけど、白雪様は満足そうに微笑んだ。

「できた……!綾、見て!」

 私は白雪様の作った精霊馬を見て、自然と笑みがこぼれた。

「可愛い……これ、走るの速そうだね。ご先祖様、喜んでくれるよ」

 白雪様は少し照れくさそうに頬を赤らめて、もう一度だけ馬を見直した。
 それから、小さな声で言った。

「綾……ありがとう。私、ちゃんと作れたかな」

 私はその不格好な形が、白雪様の真剣さそのものみたいに見えて、胸が温かくなった。

「ちゃんと作れてるよ。これなら、ご先祖様も喜んで乗って帰ってきてくれる」

 白雪様は私の言葉を聞いて、目を細めて微笑んだ。
 金色の瞳が少し潤んでいて、
 嬉しさが溢れてるのがわかった。

 お供えのお菓子や果物も丁寧に並べていく。スイカ、桃、梨……を揃えてみた。
 白雪様は桃を手に取って、皮のふわふわした感触を指でなぞりながら、静かに聞いた。

「これ、お母さんが好きだったの?」

 私は桃を並べながら、小さく頷いた。

「うん。お母さん、桃が大好きで、いつも『綾、甘いね』って笑いながら、一緒に食べてくれた」

 白雪様は桃を丁寧に置いて、

「じゃあ、今日はたくさんお供えしよう。お母さん、喜んでくれるね」

 私は線香立てに線香を一本立てて、マッチで火をつけた。
 小さな炎が揺れて、線香の先が赤く光る。
 煙がゆらゆらと立ち上って、部屋に優しい匂いが広がっていく。

 私は線香立てに線香を一本立てて、マッチで火をつけた。
 小さな炎が揺れて、線香の先が赤く光る。
 煙がゆらゆらと立ち上って、部屋に優しい匂いが広がっていく。

 白雪様は線香の煙を見つめて、静かに微笑んだ。

「この煙、みんなに届くね……ご先祖様の道しるべになるんだよ」

 私は白雪様の横顔を見て頷いた。

「うん……帰ってきてくれたら、嬉しいな」

 白雪様は私の隣で、線香の煙をそっと見つめた。
 煙がゆっくり部屋に広がっていくのを、静かに見守っている。
 私はその横顔を見て、胸の奥がじんわり温かくなった。

 白雪様は神様の分け身なのに、こんな人間らしいお盆の準備を、一緒に楽しんでくれているのがすごく嬉しくて、少し泣きそうになった。

白雪様は私の視線に気づいて、そっと私の手を握った。

「綾……今日、みんなに会えるね」

私は白雪様の手をやさしく握った。

「うん……白雪様と一緒に、みんなに会える」

 線香の煙が、お仏壇の前でゆっくり揺れている。
 部屋の中が、懐かしい匂いと白雪様の温かさで満ちていく。
 このお盆は、ただの行事じゃない気がした。
 白雪様と一緒に、家族へ「今、幸せだよ」って伝えられる。
 そんな日になっていくんだって、思えた。

 夕方近くになって、ふたりで近くのお墓に向かった。
 お墓は街外れの丘の上にあって、石段を上るたびに、夏の風が涼しく感じる。

 白雪様は私の手を握ったまま、石段をゆっくり上った。

「綾……ここに、みんな眠ってるんだね」

 私はうなずいた。

「うん。毎年、お盆とお正月に来て、手を合わせてた」

 石段を上りきると、空気が少しだけ変わった気がした。
 私たちはそのまま歩いて、お墓の前に立った。

 白石のお墓に、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹の名前が刻まれている。

 白雪様は私の手を強く握って、

「お墓……きれいだね。みんな、静かに眠ってる」

 私はお線香を上げて、花を手向ける。
 白雪様は私の隣で、静かに手を合わせて、目を閉じた。

「綾のお父さん、お母さん、お兄さん、妹さん……綾をこんなに優しく育ててくれて、ありがとう。綾は今、幸せです。これからも、私が綾を守ります」

 その声は、いつもの白雪様と少し違った。
 柔らかいのに、まっすぐで。
 白雪様のまわりの空気まで、ふわっと温かくなった気がした。

 私はそれを聞いた瞬間、涙が止まらなくなった。

「みんな……ありがとう。あの時、みんなの所に行こうとしてた。でも今は、白雪様と一緒に生きててよかったった……心配かけたよね。もう大丈夫だから、見守ってください」

 白雪様は私の手を握って、静かに寄り添ってくれた。お墓の前で、ふたり並んでしばらく座る。
 風が木の葉を揺らして、夏の終わりの匂いがした。

 私の肩に、そっと頭の重みが乗る。少しだけ頬が寄って、胸の奥が静かになる。

「綾……ご家族、みんな優しい人たちだったんだね」

「うん……優しかったよ。だから、私も優しくなれたのかなって思う」

 頬に、やわらかい手が触れた。指先が軽く撫でてくれる。

「綾は今も優しいよ。それが、みんなから受け継いだものだね」

 その言葉が胸に残って、私は小さく息を吐いた。

 家に戻ってからも、お仏壇の前で手を合わせた。
 隣で白雪様が小さく笑って、煙を見つめている。

「お盆、温かいね。ご家族が近くに感じる」

 私は白雪様を抱き寄せた。

「うん……白雪様がいるから、寂しくないよ。これからも、ずっと一緒に」

 白雪様は私の胸に顔を埋めて、甘えるみたいに言った。

「うん……ずっと、一緒だよ」

 夜はベッドでくっついたまま。耳元に、やわらかい囁きが落ちてくる。

「綾……お盆、ありがとう。綾のご家族に、会えた気がした」

 私はその銀髪を撫でて、そっと返した。

「私も……一緒に迎えられて、嬉しかった」

 指先が絡んで、胸の奥がふっと静かになる。

「おやすみ、綾……大好き」

「おやすみ……大好き」

ご先祖様が、ふたりを見守ってくれている気がする。
お盆の間は、家族と白雪様に抱かれてるみたいで、ずっと温かかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。 紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。 根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。 しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。 おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。 犯人候補は一人しかいない。 問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...