26 / 67
第2章第十話 氷姫がご褒美をくれた
しおりを挟む
第2章第十話 氷姫がご褒美をくれた
氷姫が、兵士たちに尋ねた。
「十三時の鐘は、鳴ったか?」
兵士たちは、押し黙った。
数秒の沈黙の後、一人の兵士が口を開いた。
「戦いに没頭していたので、分かりません」
トッキロが、左腕の腕時計を見た。デジタルではなく、アナログの時計だ。家電量販店で買った。九百八十円で。
腕時計のバンドは黒いプラスチック製で、時計の部分は左手首の内側にしている。
そのため、よく見ないと、黒いリストバンドをしているだけにしか見えない。
「もうすぐ、十三時の鐘が鳴ります」
その直後、鐘が鳴った。
兵士たちが、鐘の数を数え始めた。
七回、鳴った。十三時だ。
王都では日中、一時間おきに、「時の鐘」が鳴る。朝七時が一回で、その後、鐘の回数が増えていく。正午は六回で、十八時は十二回だ。
氷姫が、トッキロに視線を向けた。
「魔王軍の攻撃は、一日三回だ」
「知りませんでした」
「第一波は十時頃、第二波は十二時頃、第三波は十四時頃だ。いずれも二時間ほどで撤退する」
「なぜ二時間で撤退するのですか?」
「アース・ドラゴンも、疲れがたまるのだろう。あるいは、再生能力の限界に達するのか」
東城壁には、アーミアたちが残っている。東城壁に第二波攻撃があれば、彼女たちが危ない。
氷姫が、言葉を続ける。
「魔王軍との戦いは、消耗戦だ。アース・ドラゴンの再生能力は無限ではないし、魔王軍の攻撃には、制限時間がある」
「制限時間?」
思わず、聞き返した。
「そうだ。魔王軍には、いくつかの制限時間がある。一つ目は、一日の制限時間だ。攻撃は日中だけだ。しかも、早朝や夕方には、攻撃はない」
理由は、聞かなくても分かる。
アース・ドラゴンは爬虫類で変温動物だからだ。気温が高くならないと、活発に動けない。そのため、夕方になる前に撤退するのだろう。
説明を続けた。氷姫が。
「二つ目は、魔王軍の攻勢期間だ。魔王軍は八月末になれば撤退するはずだ。過去と同様に。ゆえに、我々の勝利条件は、八月末まで生き残り、戦い続けることだ」
今日は、八月十日だ。魔王軍が王都への攻撃を開始してから、まだ十日目だ。
十日しかたっていないのに、もう、学生を徴兵している。
王都を防衛する騎士団も魔法師団も、それだけ、戦力が枯渇している。
それなのに、あと、二十日間も戦い続けなければならない。
絶望的な状況に、頭が少しクラクラした。真夏の暑さのせいもあるが。
氷姫が、兵士たちに呼びかけた。
「兵士諸君、ここへ来て、両手を出せ。ちょっとした褒美をやろう」
褒美?
銀貨か銅貨でもくれるのかな、と思った。
兵士たちは、嬉々とした表情で、一列に並んだ。
氷姫が、視線を向けた。
「トッキロも、両手を出せ」
杖を右脇の下にはさんで、両手を出した。
氷姫は、右腕を上に向かって伸ばし、右人差し指で頭上に円を描いた。魔法詠唱しながら。
頭上五メートルほどの高さに、雲が出現した。
氷姫が、魔法詠唱を続けている。指で円を描きながら。
雹が降ってきた。バラバラと。
飴玉くらいの大きさだ。
兵士たちは喜びながら、顔や首筋にあてたり、口に含んだりした。
「生きかえる!」
雹を口の中に入れた兵士が、そう言って、歓喜の声をあげた。
「ありがとうございます」
そう言ってから、トッキロも雹を一つ口に含み、手にした雹を首筋にあてた。体温を冷やすために。
氷姫は、十五センチほどの氷柱を出現させ、自分の首筋を冷やし始めた。
美しい少女だ。氷姫は。
眺めながら、そう思った。
死なせるには、惜しい。
彼女を守り、自分も生き残らなければ。
あと、二十日間も。
他にも、気がかりなことがあった。
そこで、尋ねた。氷姫に。トッキロが。
「南城壁を越えて、王都内に侵入したアース・ドラゴンは、いますか?」
氷姫が、兵士たちに尋ねた。
「十三時の鐘は、鳴ったか?」
兵士たちは、押し黙った。
数秒の沈黙の後、一人の兵士が口を開いた。
「戦いに没頭していたので、分かりません」
トッキロが、左腕の腕時計を見た。デジタルではなく、アナログの時計だ。家電量販店で買った。九百八十円で。
腕時計のバンドは黒いプラスチック製で、時計の部分は左手首の内側にしている。
そのため、よく見ないと、黒いリストバンドをしているだけにしか見えない。
「もうすぐ、十三時の鐘が鳴ります」
その直後、鐘が鳴った。
兵士たちが、鐘の数を数え始めた。
七回、鳴った。十三時だ。
王都では日中、一時間おきに、「時の鐘」が鳴る。朝七時が一回で、その後、鐘の回数が増えていく。正午は六回で、十八時は十二回だ。
氷姫が、トッキロに視線を向けた。
「魔王軍の攻撃は、一日三回だ」
「知りませんでした」
「第一波は十時頃、第二波は十二時頃、第三波は十四時頃だ。いずれも二時間ほどで撤退する」
「なぜ二時間で撤退するのですか?」
「アース・ドラゴンも、疲れがたまるのだろう。あるいは、再生能力の限界に達するのか」
東城壁には、アーミアたちが残っている。東城壁に第二波攻撃があれば、彼女たちが危ない。
氷姫が、言葉を続ける。
「魔王軍との戦いは、消耗戦だ。アース・ドラゴンの再生能力は無限ではないし、魔王軍の攻撃には、制限時間がある」
「制限時間?」
思わず、聞き返した。
「そうだ。魔王軍には、いくつかの制限時間がある。一つ目は、一日の制限時間だ。攻撃は日中だけだ。しかも、早朝や夕方には、攻撃はない」
理由は、聞かなくても分かる。
アース・ドラゴンは爬虫類で変温動物だからだ。気温が高くならないと、活発に動けない。そのため、夕方になる前に撤退するのだろう。
説明を続けた。氷姫が。
「二つ目は、魔王軍の攻勢期間だ。魔王軍は八月末になれば撤退するはずだ。過去と同様に。ゆえに、我々の勝利条件は、八月末まで生き残り、戦い続けることだ」
今日は、八月十日だ。魔王軍が王都への攻撃を開始してから、まだ十日目だ。
十日しかたっていないのに、もう、学生を徴兵している。
王都を防衛する騎士団も魔法師団も、それだけ、戦力が枯渇している。
それなのに、あと、二十日間も戦い続けなければならない。
絶望的な状況に、頭が少しクラクラした。真夏の暑さのせいもあるが。
氷姫が、兵士たちに呼びかけた。
「兵士諸君、ここへ来て、両手を出せ。ちょっとした褒美をやろう」
褒美?
銀貨か銅貨でもくれるのかな、と思った。
兵士たちは、嬉々とした表情で、一列に並んだ。
氷姫が、視線を向けた。
「トッキロも、両手を出せ」
杖を右脇の下にはさんで、両手を出した。
氷姫は、右腕を上に向かって伸ばし、右人差し指で頭上に円を描いた。魔法詠唱しながら。
頭上五メートルほどの高さに、雲が出現した。
氷姫が、魔法詠唱を続けている。指で円を描きながら。
雹が降ってきた。バラバラと。
飴玉くらいの大きさだ。
兵士たちは喜びながら、顔や首筋にあてたり、口に含んだりした。
「生きかえる!」
雹を口の中に入れた兵士が、そう言って、歓喜の声をあげた。
「ありがとうございます」
そう言ってから、トッキロも雹を一つ口に含み、手にした雹を首筋にあてた。体温を冷やすために。
氷姫は、十五センチほどの氷柱を出現させ、自分の首筋を冷やし始めた。
美しい少女だ。氷姫は。
眺めながら、そう思った。
死なせるには、惜しい。
彼女を守り、自分も生き残らなければ。
あと、二十日間も。
他にも、気がかりなことがあった。
そこで、尋ねた。氷姫に。トッキロが。
「南城壁を越えて、王都内に侵入したアース・ドラゴンは、いますか?」
41
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる