隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫

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7. 理解不能な後輩を気づいたらだいぶ構っていた件

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7. 理解不能な後輩を気づいたらだいぶ構っていた件




 はぁ。今日も来た。しかも信じられないものを抱えてやってきた。あれは大きな額縁だろうか。妙な形をしている。

「ああ重い。」

 白石はドアを閉めるなり、手にした荷物の重さに呻き声をあげた。そしてオレの方を見る。

「先輩ちょっと運ぶの手伝ってください。」

 当然のことのように、手伝いを要求してくる。一体、何を持ってきたんだ?しかもオレの部屋に?

「お前、何を持ってきたんだよ?それ?」

「額縁です。あと、この箱の中身なんですけど……」

 箱を開け、中身を見せる。ぎっしりと詰め込まれた大量の小さなピースの山。

「ジグソーパズル。なんとこれ、2000ピースあるんですよ!結構時間かかるかなって思って。」

 そして、その理由を語る。それがまたオレの理解の範疇を超えるものだった。

「先輩が、私が部屋にいるのに全然構ってくれないから、手持ち無沙汰でやろうかなって思って持ってきました。」

 は?構ってくれないから?人の部屋に、自分の趣味を持ち込んで、時間潰しを始めようってのか?一体、ここはどこだと思ってんだこいつは。

 ここはオレのプライベートな空間なんだが?許可なく、自分の都合で、他人の空間で、他人の時間を奪おうとする。迷惑極まりないにも程があるだろ!

 白石は、オレの内心の怒りに気づく様子もなく、パズルを置く場所を探し始めた。部屋を見回し、そしてある一点に目を留める。オレが普段、床に座って本を読んだり、寛いだりしている、ソファーの目の前。

「このあたりでいいかな?」

「おい!ちょっと待て!何でわざわざいつもオレが座ってる、一番よく見える真正面に置くんだよ!?」

 この部屋の中でオレが最も落ち着ける、そして最も視界が開ける場所。そこに、巨大なパズルのスペースを確保しようとしている。

「だって、ここくらいしか広い場所ないですよ?先輩の部屋、物少ないですけど意外とスペースないですし」

 白石はいたって冷静に物理的な理由を述べる。確かにオレの部屋は物はないが広いわけでもない。だが問題はそこじゃない

「それに、パズルしながら、いつでも彼女のこと見れて嬉しいですよね?」

 そしてまた「彼女」を、当然のことのように付け加える。嬉しいだと?誰が!お前の顔を延々見て、嬉しいわけあるか!

「嬉しいと言うより、キレそう……いや、もうキレてるかもしれない。」

「えっ!?そっちですか!?普通、ドキドキするんじゃないんですか!?なんで先輩がキレそうになってるんですか!?」

「しねぇよ!なんでオレがお前見てドキドキしなきゃならないんだ!あと構ってくれない?言っとくが、毎日毎日部屋に来て、訳の分からないことばかり言われて、宿題教えてやって、もうだいぶ構ってるからな?」

「まあ、細かいことは気にしないで、とにかくやりましょうよ。」

 オレの反論を聞き流して、白石は再びパズルに視線を戻した。そして、箱の中のピースを容赦なく床にばらまき始める

「おいっ!まだやるとは言って……」

 声を上げたが、遅かった。カラカラと軽快な音を立てて、大量の小さなピースがオレの部屋の床一面に広がっていく。

「あーあ……お前、本当にばらまくなよ……」

「そんなこと言っても無駄ですよ。もう始めちゃったんですから。ほらほら、早く始めないと、今日中に終わらないじゃないですか?」

 そして、またしても余計な一言を付け加える。

「もしかして、今日中に終わらせないで、私がお泊まりするの期待してますか?いやーん。先輩ったら!」

 うるせぇよ!誰がお前のお泊まりなんか期待するか!そんな期待、微塵もねぇから!いいから、さっさと始めて、さっさと終わらせて、さっさと自分の部屋に帰れよ!

「うるせぇ!さっさと終わらせろよ!」

「もう、照れちゃって可愛いですね~。」

 ……ダメだ。何を言っても全てポジティブに変換される。オレはもう、この状況を受け入れるしかないのかもしれない。目の前の床に広がる2000ピースの山を見る。これを白石1人でしかも今日中に片付けるのは無理だ。巻き込まれるしかない。

 はぁ……なんでこんなことになったのか……なんでオレは今、この状況でこいつと一緒にジグソーパズルを始めようとしているんだ。

 白石は既に床に座り込み、ピースを眺めている。オレもその隣に少し離れて腰を下ろした。

「白石。こういうのは、まず端っこのピースから揃えるんだ。フレームを作るのがセオリーだ。あと、色ごとにピースをわけろ。そうしないと、絶対終わらない。この絵柄だと、青い空の部分とか、緑の森の部分とか。真ん中とか、手当たり次第にやろうとしても無理だからな?効率考えろ、効率。」

 自然と指示を出す形になっていた。白石は「へー」とか「なるほど」とか言いながら言われた通りにピースを分け始める。

 そして、結局。オレと白石は、散々文句を言って、嫌々始めたはずだったあの2000ピースのジグソーパズルを、なんだかんだで完成させた。夜遅くまで、二人で黙々とピースを探し、時には見つけられずに唸り、時にはぴったりはまった時の小さな快感を味わった。そして最後のピースがようやく空いた場所に収まった瞬間。

「おお……!」

「やったー!」

 ふとお互いに声が出て完成した絵柄を見つめながらちょっとした達成感を味わってしまった。人の部屋に勝手に上がり込んで、自分の趣味を始めて、無理やり付き合わせるという滅茶苦茶な状況だったはずなのに。嫌々始めたはずなのに。なぜか、こんなことでこいつと達成感を共有している。この状況の異常さとそこから生まれる奇妙な一体感に、オレはまた困惑するしかなかった。
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