隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫

文字の大きさ
35 / 56

35. 白石夏帆という制御不能の暴走機関車がオレの近くを走っている

しおりを挟む
35. 白石夏帆という制御不能の暴走機関車がオレの近くを走っている



 うだるような暑さの日が続いている。夏休みが始まったばかりでまだ数日しか経っていない。オレの部屋はエアコンのおかげで快適だが、窓の外からは真夏の容赦ない陽射しが降り注いでいるのが見える。

 そして、いつものように白石が部屋にいる。明後日は、白石と二人でプールに行くことになっている。夏休みの予定を立てた時に、白石が強引にねじ込んできた予定の一つだ。正直、気が重いが約束してしまった以上行くしかない。

 白石はプールが楽しみなのか、いつも以上にソワソワしているように見える。そして、またしてもオレに面倒な質問を投げかけてきた。

「ねぇねぇ先輩?私って、どんな水着が似合うと思いますか?」

 白石は、水着特集のページでも見ているのかスマホをいじりながらそう言った。その、当たり前のように意見を求めてくる態度に少しうんざりする。

「そんなことオレに聞くなよ……自分で好きなの着たらいいだろ?」

 オレは、興味なさそうにそう答えた。人に水着の似合い方なんて聞かれても困る。ましてや、お前との関係はそういうことを聞かれたり答えたりするような関係じゃないだろう。

「むぅ……こういう悩んでいる時は、彼氏の意見が欲しいじゃないですか!」

「その彼氏はどこにいるんだろうな?オレではないから間違いなく」

 オレは、事実を淡々と述べた。白石は、オレの言葉を聞いても、特に反論せずニヤリと笑った。

「そうだ!じゃあ、先輩!私の水着姿を想像して下さい!」

 そして、さらに無茶な要求をしてきた。想像しろ? なんでオレがお前の水着姿を想像しなきゃならないんだ。

「いや無理だな。お前が水着を着ている姿なんて想像できないし」

 思わず反射的に否定した。想像なんてできるわけないだろう。そしてしたくもない。面倒なことになるだけだ。

「えぇ!?そこは頑張るところですよ!?ほらほら、ちゃんと思い浮かべて下さいよ!」

 白石はオレの言葉を全く受け入れない。それどころか、オレの顔の前にぐいっと自分の顔を近づけてきた。近い近い。顔のすぐそこに白石の顔がある。彼女の息遣いが感じられるほどの距離だ。そしてふわっといい匂いがする。何の匂いだ? シャンプーか、それとも柔軟剤か。鼻腔をくすぐる甘い香りに、なんだか少しだけ意識が遠のきそうだ。

「分かったよ……だから少し離れろ」

 白石のそこまで言われたら想像するしかないような強い圧に負けて、オレは目を瞑った。仕方ない。言われた通り、頭の中で白石の水着姿をイメージしてみる。白石は髪が肩にかかるくらいの長さだから、髪を下ろして、ショートパンツ型の水着も似合いそうだな。ビキニもいいかもしれない。健康的な体型だし、きっと似合うだろう。

 あるいは……露出少なめで髪型をポニーテールにしても似合いそうだ。清楚な感じだな。どちらにせよ、どんなデザインでもなんでも似合いそうな気がする……普通に可愛いしこいつ。想像してみると、意外と簡単にイメージできた。

「どうでした?」

 目を開けると目の前には期待に満ちた、ニコニコ顔の白石がいた。その、全てお見通しだとでもいうような笑顔。その顔やめろウザいから。想像できてしまったことがなんだか負けたみたいで悔しい。そして、可愛いと思ってしまったことも認めたくない。だから黙っておくのが一番だ。

「あー……ダメだな、想像つかないな」

 オレは平静を装ってそう答えた。白石の笑顔から視線を逸らし、わざとらしく天井を見上げる。

「本当ですか?顔赤いですよ先輩?きちんと想像できたんですよね!教えてくださいよ~!」

「うるせぇ。そういうことは自分の力で何とかしろ!男のオレに聞くな!」

「……そうですか。わかりました。……じゃあ、今すぐ下着姿になります。先輩が想像できないみたいなので!水着も下着も一緒ですもんね。 先輩が教えてくれないなら脱ぎますから!」

 白石は、真顔のまま服に手をかけようとする。水着も下着も一緒?どこがだ!全然違うだろうが!マジで意味が分かんねぇぞこいつ!暴走機関車か!?

「おい待てバカ。それは本当にマズイから。 頼むからやめて下さい、お願いします」

 オレは慌てて白石の手を掴み止めようとした。焦りで、声が裏返りそうになった。お願いだからそれだけはやめてくれ。本当に冗談抜きでヤバいことになる。

「じゃあ教えてくださいよ~!」

 白石は、オレの焦った様子を見て勝ちを確信したらしい。下着姿になる、という最悪の事態だけは避けなければならない。そのために多少の犠牲は仕方ない。オレはため息をつきながら観念したように答えた。

「……わかったよ。お前は、どんな水着でも似合うんじゃないか?」

 棒読みのような、投げやりな言葉だったかもしれない。白石はオレの返事を聞くと、真顔だった表情をパッと明るい笑顔に変えた。

 本当に、このくだらないやり取りでこんなにも疲れるなんて。夏休みが始まったばかりだというのに、もうすでに心底疲労困憊だ。白石の予測不能な言動とそれに振り回される自分。そして少しだけ彼女を可愛いと思ってしまう自分との葛藤。この夏は一体どうなることやら。考えただけで、またため息が出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗利は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

処理中です...