隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫

文字の大きさ
48 / 56

48. 男には譲れない何かを必ず1つは持ち合わせているものだ

しおりを挟む
 48. 男には譲れない何かを必ず1つは持ち合わせているものだ



 そして2日後。レースゲームでのまさかの敗北から、本当に白石とともに新しくできた遊園地に行くことになった。

 昨日、白石がわざわざ「明日の遊園地デート、何時に先輩の部屋に行けばいいですか?」と聞いてきた時、改めてこの計画が現実になったことを思い知らされた。そこまでしてオレと遊園地に行きたいのかと思うと、面倒な気持ちと同時にほんの少しだけ複雑な嬉しさも感じた。

 待ち合わせの時間になり部屋のチャイムが鳴る。扉を開けると、そこに立っていた白石は、夏らしい水色を基調とした可愛いワンピースを着ていた。その姿に一瞬目を奪われる。こいつ可愛いのは可愛いんだよな……

「ねぇ先輩。今日の私の格好どうですか? デートだから張り切っちゃいました!」

「まあ……似合ってんじゃね?」

「やった!じゃあ行きましょうか!」

 白石は、オレの言葉を聞くなりパッと顔を輝かせた。そして、オレの腕に掴みかかり、玄関から外へと引っ張って行く。その無邪気にはしゃぐ姿は、まるで小さな子供のようだ。そして、その横顔は本当に楽しそうで、この笑顔を見れただけで無理矢理連れてこられたとはいえ、まぁ連れてきて良かったと思えるほどにはいい顔で笑っている。

 最寄りの駅から電車に乗り、目的地の駅に到着。遊園地へ向かう人の流れに乗って歩く。ゲートが見えてきた。新しい遊園地で夏休みということもあり、ゲートの前にはものすごい数の人が集まっていた。

「うわ~すごい人ですね」

「ああ、こんなにいるとは思わなかったな。学校の奴らに会わなきゃいいけど……」

 オレは、周りをキョロキョロと見回しながらそう呟いた。こんなに人がいるとなると知り合いに会う可能性も高くなる。特にこの遊園地は話題になっているだろうから、学校の奴らも結構来ているかもしれない。万が一、白石と一緒にいるところを見られたら……また面倒なことになる。

「もう。堂々としてればいいじゃないですか。別に悪いことしてるんじゃないんですし。ただの彼氏彼女のカップルのデートなんですから!」

 白石はそう言った。そして、またしてもこの状況を「カップルのデート」だと断定する。お前は平気かもしれないがオレは困っているんだ。

「オレとお前はただの先輩と後輩だ」

「またそんなこと言っちゃって~!ほら、行きますよ!まずはどこに行きましょうか?」

 白石は、オレの反論を無視し遊園地の案内図を広げた。案内図を見ながら、白石が指差したのはひときわ大きく描かれたアトラクション。

「先輩。まず、このジェットコースターに乗りませんか?私乗ってみたいです!」

 ジェットコースター?なんでいきなり一番ヤバそうなところを選ぶんだよ。いきなり絶叫系か?オレは絶叫系は得意ではない。苦手だ。

「おい待て。 なんでいきなり一番ヤバそうなところを選ぶんだよ。 普通はお化け屋敷とかじゃないか?」

 少しでも刺激の少ないものを選ばせようと、別の提案をする。お化け屋敷も怖いが肉体的な恐怖ではない。

「えぇ~だって怖いのが苦手ですもん。それに私は絶叫系なら全然大丈夫ですよ!」

 しかしだ。ジェットコースターは違うだろう。あれは乗り物に乗った瞬間から物理的な恐怖が始まる……

「いや、でもさすがにそれは無理があるんじゃないか?」

「先輩。もしかしてジェットコースター怖いんですか?意外ですね~」

「ちげぇよバカ。あんなの怖くなんかねぇし」

 オレは反射的に否定した。ここでジェットコースターが怖いなんて、白石に弱みを見せたら負けだ。プライドが邪魔をする。子供の頃、家族旅行で行った遊園地で一度だけジェットコースターに乗ったことがある。その時の体が宙に浮くような感覚、落ちていく時の内臓がひっくり返るような感覚がトラウマになり二度と乗らないと決めていたのだ。それなのに今ここで、白石相手に怖いなんて言えるわけがない。

「本当ですか~?じゃあ一緒に乗りましょうよ。 出発!」

 白石はそのまま迷うことなくジェットコースターの列へと向かい始めた。

 ……もう、逃げ場はない。白石に弱みを見せたくないという意地のために、オレは自分が最も苦手な絶叫マシーンに乗らなければならなくなった。

 白石は楽しそうに列に並んでいる。その横顔はこれからジェットコースターに乗る人間とは思えないほど期待に満ちている。オレはその後ろに重い足取りでついて行った。列は結構進みが早い。あっという間にオレたちの順番が近づいてくる。

「あっ次ですよ!楽しみですね!」

「おっ、おう……」

 生返事をするのが精一杯だった。係員のお姉さんがオレたちを乗り場へと誘導する。ジェットコースターの車両に乗り込みシートに座る。そして、安全バーがゆっくりと下ろされる。カチャン、と重い音が響く。これでもう後戻りはできない。いよいよ始まる。子供の頃のトラウマが蘇ってくる。

『発車しまーす』

 係員の声が遠くに聞こえる。ガタンガタン、と独特の音と共にジェットコースターが動き出した。最初はゆっくりと、次第にスピードが増していく。そして上り坂に差し掛かり、ガタンガタン、とチェーンの音を立てながらどんどん高くなっていく。景色がみるみる小さくなっていく。隣からは白石のキャッキャと喜ぶ声が聞こえる。

「せんぱーい!楽しいですね!!」

 白石がオレの方を向いて言った。その顔は恐怖など微塵も感じさせていない。

「……」

「あれ?先輩?」

 返事をする余裕がない。声を出したら、何か別のものまで出てきてしまいそうだ。ダメだ。上を見ても下を見ても恐ろしいだけだ。意地を張ったばかりに。くそっ。早く、早く終わってくれ。

 この苦痛な時間が一秒でも早く終わることだけを、オレは心の中で願い続けることしかできなかったのだった。意識が遠のきそうになるのを必死に堪える。ジェットコースターの恐怖が、オレの体を支配していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗利は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...