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「先輩の彼氏になりたい」
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「そうだ、今日は先輩に渡したいものがあって」
「ん? なに?」
水筒をひとくち飲んだ瀬名が、気を取り直したようにそう言った。もういつもの表情に見える。それに安堵しながら尋ねると、弁当とは別のひと回り小さな容器を瀬名が取り出した。その蓋を開け、差し出される。
「これ、よかったら食べてください」
「わ、エビフライじゃん」
レタスの上にミニトマト、それからエビフライが三本。思わず感嘆の声が出た。
なにを隠そう、エビフライは桃輔の好物だ。母がたまに弁当のおかずにもしてくれるが、今日のメインは桜輔の好きな唐揚げだ。
「俺、エビフライ好きなんだよなー」
「ですよね」
「え?」
「あー、いや……ほら、お弁当にエビフライ入ってる時嬉しそうだったから」
「うわ、俺そんなだった? なんか恥ずいな……えっと、食っていいの?」
「もちろんです。先輩に食べてほしくて頑張ったんで」
「え……もしかしてこれ、瀬名が作ったのか!?」
「はい。初めて作ったし、ちょっと焦げちゃったけど……」
「初めて? マジ? これもうプロが作ったみたいじゃん」
「大袈裟っすよ」
「そんなことないって。えっと、じゃあいただきます」
誰かの手料理なんて、母や祖母のものしか食べたことはないのに。できたばかりの後輩の、ましてや自分のために作ってくれた好物、だなんて。
容器を受け取って箸で持ち上げてみたけれど。そのまままじまじとエビフライを見つめてしまう。
「モモ先輩? どうしたんすか?」
「いやなんか、食べるの勿体ないなって」
「はは、なんでですか」
「瀬名が作ってくれたって思うとそうなんだよ」
「っ、モモ先輩……」
「でも、食べないほうが勿体ないよな。食う、マジで。うん」
覚悟を決めるようにそう言って、ひとくち齧ってみる。気合を入れたくせに、普段より小さなひとくちになってしまった。せめて長く味わいたい気持ちの表れだ。
口の中に広がる衣の香ばしさと、エビの食感。たしかに多少の焦げはあるが、なにも問題はない。丁寧に咀嚼しながら、ついうんうんと頷く。
「どう、すか?」
「美味い」
「マジすか!?」
「すげーマジ。うわー、やっぱ食い終わるの勿体ないなこれ」
「よかったー……一応味見用にもう一本揚げて食べて、多分大丈夫だとは思ったんすけど。モモ先輩の口に合うかなって、かなり緊張した」
天井を仰ぎ安堵の息を大きく長く吐きながら、瀬名は後ろの壁に背を凭れた。
一体、どれだけこの瞬間のことを考えていたのだろうか。これを作った今朝から? 買い物もわざわざしてくれたのだろうかと考えると、胸がくすぐったい。緩む口角をどうにも抑えられない。
「ありがとな、瀬名。これすげー嬉しい」
「こちらこそありがとうです」
「はは、なんでだよ」
「モモ先輩の喜んでくれた顔見れたから」
「そ、そっか」
「はい、そうっす」
胸いっぱいで食欲どっかいった、という瀬名に、絶対に食べなきゃだめだと勧めた。
音楽が流れる中、最後の一本のエビフライを噛みしめるように食べて。容器は洗って返すと言ったのに、気にしないでと押しの強い瀬名に負けて言葉に甘えることにした。
ごちそうさまともう一度礼を言ったら、あと十分ほど昼休みが残っていることを確認した瀬名は、今なぜか、桃輔の膝の上に気持ちよさそうに頭を乗せている。
「いや、さすがに近すぎん?」
「そこはエビフライのご褒美ってことでひとつ」
「あ、自分から言っちゃう感じ?」
「はは、はい。ここぞとばかりに付け入ってます」
「ふ、お前なあ」
初めて手を繋いだ日以来、瀬名が言うところのアピールであるスキンシップは、日々の定番になってしまっていた。
とは言っても以前のように手を繋いだり、寄りかかるようにくっつかれて一緒にスマホで音楽情報を見たりと、その程度だったのだけれど。いわゆる膝枕を求められたのは初めてだ。だが、戸惑いはするが嫌ではない。それがまた厄介だな、なんて桃輔は思う。
「犬みたいだよな、瀬名って」
「ええ、犬?」
「ん? なに?」
水筒をひとくち飲んだ瀬名が、気を取り直したようにそう言った。もういつもの表情に見える。それに安堵しながら尋ねると、弁当とは別のひと回り小さな容器を瀬名が取り出した。その蓋を開け、差し出される。
「これ、よかったら食べてください」
「わ、エビフライじゃん」
レタスの上にミニトマト、それからエビフライが三本。思わず感嘆の声が出た。
なにを隠そう、エビフライは桃輔の好物だ。母がたまに弁当のおかずにもしてくれるが、今日のメインは桜輔の好きな唐揚げだ。
「俺、エビフライ好きなんだよなー」
「ですよね」
「え?」
「あー、いや……ほら、お弁当にエビフライ入ってる時嬉しそうだったから」
「うわ、俺そんなだった? なんか恥ずいな……えっと、食っていいの?」
「もちろんです。先輩に食べてほしくて頑張ったんで」
「え……もしかしてこれ、瀬名が作ったのか!?」
「はい。初めて作ったし、ちょっと焦げちゃったけど……」
「初めて? マジ? これもうプロが作ったみたいじゃん」
「大袈裟っすよ」
「そんなことないって。えっと、じゃあいただきます」
誰かの手料理なんて、母や祖母のものしか食べたことはないのに。できたばかりの後輩の、ましてや自分のために作ってくれた好物、だなんて。
容器を受け取って箸で持ち上げてみたけれど。そのまままじまじとエビフライを見つめてしまう。
「モモ先輩? どうしたんすか?」
「いやなんか、食べるの勿体ないなって」
「はは、なんでですか」
「瀬名が作ってくれたって思うとそうなんだよ」
「っ、モモ先輩……」
「でも、食べないほうが勿体ないよな。食う、マジで。うん」
覚悟を決めるようにそう言って、ひとくち齧ってみる。気合を入れたくせに、普段より小さなひとくちになってしまった。せめて長く味わいたい気持ちの表れだ。
口の中に広がる衣の香ばしさと、エビの食感。たしかに多少の焦げはあるが、なにも問題はない。丁寧に咀嚼しながら、ついうんうんと頷く。
「どう、すか?」
「美味い」
「マジすか!?」
「すげーマジ。うわー、やっぱ食い終わるの勿体ないなこれ」
「よかったー……一応味見用にもう一本揚げて食べて、多分大丈夫だとは思ったんすけど。モモ先輩の口に合うかなって、かなり緊張した」
天井を仰ぎ安堵の息を大きく長く吐きながら、瀬名は後ろの壁に背を凭れた。
一体、どれだけこの瞬間のことを考えていたのだろうか。これを作った今朝から? 買い物もわざわざしてくれたのだろうかと考えると、胸がくすぐったい。緩む口角をどうにも抑えられない。
「ありがとな、瀬名。これすげー嬉しい」
「こちらこそありがとうです」
「はは、なんでだよ」
「モモ先輩の喜んでくれた顔見れたから」
「そ、そっか」
「はい、そうっす」
胸いっぱいで食欲どっかいった、という瀬名に、絶対に食べなきゃだめだと勧めた。
音楽が流れる中、最後の一本のエビフライを噛みしめるように食べて。容器は洗って返すと言ったのに、気にしないでと押しの強い瀬名に負けて言葉に甘えることにした。
ごちそうさまともう一度礼を言ったら、あと十分ほど昼休みが残っていることを確認した瀬名は、今なぜか、桃輔の膝の上に気持ちよさそうに頭を乗せている。
「いや、さすがに近すぎん?」
「そこはエビフライのご褒美ってことでひとつ」
「あ、自分から言っちゃう感じ?」
「はは、はい。ここぞとばかりに付け入ってます」
「ふ、お前なあ」
初めて手を繋いだ日以来、瀬名が言うところのアピールであるスキンシップは、日々の定番になってしまっていた。
とは言っても以前のように手を繋いだり、寄りかかるようにくっつかれて一緒にスマホで音楽情報を見たりと、その程度だったのだけれど。いわゆる膝枕を求められたのは初めてだ。だが、戸惑いはするが嫌ではない。それがまた厄介だな、なんて桃輔は思う。
「犬みたいだよな、瀬名って」
「ええ、犬?」
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