【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜

白崎りか

文字の大きさ
5 / 6

5 真実の愛が見えたなら

しおりを挟む
「お、おっ、王太子殿下がっ! お見えになりましたっ!」

 突然訪問した王族に、執事は大慌てで食堂に駆け込んできた。

 私の前には、赤髪の女によってグチャグチャに混ぜられた食事が並んでいる。
 たまには一緒に食事をしようと婚約者に言われて食堂に来てみれば、このざまだ。赤髪の愛人は、男爵と仲良く食事をする姿を私に見せつけたかったらしい。
 でもそれは、突然の訪問者に中断された。

「急にすまないね。ああ、食事時だったか。悪いね、続けてくれ」

 全然悪いとは思っていない態度で、食堂に入って来た銀色の髪の王太子様は、私とリオンに目配せをした。王太子様の後ろから側近のサイラスとブラザーとシスターたちがぞろぞろとついてきている。誰にも咎められずに部屋に入り込んだ彼らは、私とリオンに深々とお辞儀をして、壁際に静かに立った。

 高貴な客人の乱入に驚いた男爵は立ち上がる。その膝から滑り降りた赤髪の愛人は、逃げるように扉の方に行った。
 でも、この部屋からは出ることは許さないというように、ドアの前にはサイラスが立って、出口をふさいでいる。

「な、なぜ、王太子殿下が?」

「やあ、爵位を与えて以来だね。約束通り、貴族の婚約者を迎えたようだが、元気にしているかい? ソフィア」

 あたふたと礼をとる男爵に、王太子様は鷹揚にうなずいてから私に紫の瞳を向ける。

「エドワード殿下におかれましては、お変わりないようで」

「うん。最近とても調子がいいんだ。全て順調でね」

 王太子様は腕にくっついているピンク髪の女性を嬉しそうに見た。女性はパチパチとまばたきをして、うっとり微笑み返す。

「あ、あのぉ。本日はどういったご用件で?」

 貴族の世界に慣れていない平民上がりの男爵は、無礼にも王太子様から用件を聞き出そうとした。

「ああ、これだよ」

 その態度が気に障ったのか、王太子様は刀をいきなり抜いた。刀身がギラギラと光っている。

「な! 何をなさるのです?」

「珍しい刀を手に入れてね。見せびらかしたくなったんだ。氷の剣と呼ばれる男爵なら、この刀の価値を分かってくれるんじゃないかってね。突然訪ねて悪かったね」

「は? え? 刀?」

 訳が分からないと言う風に、口を開けて男爵は王太子様を見る。

「そうだよ。ほら、切れ味はどうかな?」

 ビュン ビュン

 音を立てながら、王太子様は、刀を振り回して、部屋を歩きまわる。

「ひっ」

「きゃあ」

 召使いたちは王太子様の刀から、あわてて逃げまどう。
 赤髪の女と目があった王太子様は、迷わず彼女の方へ足を向けた。

「きゃ、いやぁ!」

 自分に刀が向けられている。
 そう悟った女は、赤い髪を振り乱して逃げようとして、何かに足をとられて転んだ。

「ひっ、いやぁ!!」

 ザンッ

 銀色に光る刀身が彼女の胸から腰を斜めに切り裂いた。
 女の赤い口から、かすれた声と血が零れ落ちる。

「あ、ジョー たすけ……」

「アンナ!!」

 男爵が恋人に走り寄る。そして、あふれる血を止めようと胸に手をあてて、絶望した顔で王太子様を見上げる。

「なぜこんなことを!! なんでアンナを!」

「なんのことかな? ああ、虫でも切った? 汚れてるね」

 床にたまっていく赤い血を気にも留めずに、王太子様はシュッと刀を一振りして、血を飛ばす。

「そこに誰かいるのかい? 僕には何も見えないんだけど。ねえ、サイラスには見える?」

 にっこりと笑った王太子様は、無表情で扉を守るサイラスに問いかけた。

「いいえ、私にも何も見えません」

「そうだよね」

 私は、恋人を抱く男爵をぼんやりと見ていた。血の匂いがする。彼女の長い赤い髪が、赤い血で染まっていく。

「ああ、アンナ死なないでくれ。アンナ!」

 男爵の悲鳴が響く中、赤髪の女の体から魂が抜けていくのが見えた。生まれたばかりの赤髪の女の幽霊は、宙に浮かび、困惑したように男爵に触れようとする。でも、その手は男爵の体をすり抜けてしまう。

 ――ジョージ。私はここよ、ジョージ。

 必死で訴えているけれど、その声は彼には聞こえない。

 彼には、彼女が見えないのだ。

 ここにいる使用人たちも、誰も彼女を見ることはできない。赤髪の女は、本者の「見えない」存在になったのだ。

「なぜ、こんなことを、よくも!」

 恋人を殺された男は、ゆらりと立ち上がって、王太子様の方へふらふらと歩く。壁に立てかけられていた剣を手に取って。

「王族だからって、罪もない女を、俺のアンナを!」

 氷の剣と呼ばれた男は、戦場で鍛えた剣を振るう。通常であれば王太子様には防ぐことは不可能だっただろう。

 でも、側近のサイラスが、いつの間にか王太子様の前に立って、その剣を受け止めていた。

 キンッ カキン

 鋭い音が何度かした後、サイラスの剣が男爵の胸に突き刺さっていた。

 ゴボッ

 口から血を吐きながら、男爵は床に転がった。

「きゃぁ!」「いやぁ!」「助けてくれ!」

 召使いたちが出口へ走る。でも、それを一人も見逃さずにサイラスが切りつける。
 部屋中に赤い血が飛び散った。

 生まれたばかりの幽霊たちが、ふらふらと不安そうに部屋の中に漂っている。

 ふと、男爵の幽霊と目があった。赤髪の女を守るように腕に抱いた男は、私の隣に立つ彼に、やっと気がついてくれた。私を守るように剣を構えるリオンを見て、青い瞳が驚愕に見開かれる。

 ああ、彼らも、やっと見ることができたのね。
 いつもあなたたちの愛を見せつけられるばかりで、つまらなかったのよ。私だって、最愛の人を自慢したかったわ。

 彼女たちに、私の真実の愛を見せてあげたかったの。

 私達の方がずっと大きな愛で結びついているのよ、ってね。私のリオンの方が、ずっとかっこいいわって。

 ふらふらと向かってくる幽霊たちを、リオンは素早く真っ二つに切り裂いた。

 幽霊にも死はあるのだ。
 私のリオンにはそれができる。
 彼に切られた幽霊は、二度と生まれ変わることもできずに消滅するのだ。

 さらさらと砂のように光りながら、男爵と赤髪の女の幽霊は消滅していく。きっと、何が起きたのか彼らには分からないだろう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。 婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。 そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。 不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。 お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!? 死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。 しかもわざわざ声に出して。 恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。 けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……? ※この小説は他サイトでも公開しております。

不謹慎なブス令嬢を演じてきましたが、もうその必要はありません。今日ばっかりはクズ王子にはっきりと言ってやります!

幌あきら
恋愛
【恋愛ファンタジー・クズ王子系・ざまぁ】 この王子との婚約ばっかりは拒否する理由がある――! アレリア・カッチェス侯爵令嬢は、美麗クズ王子からの婚約打診が嫌で『不謹慎なブス令嬢』を装っている。 しかしそんな苦労も残念ながら王子はアレリアを諦める気配はない。 アレリアは王子が煩わしく領内の神殿に逃げるが、あきらめきれない王子はアレリアを探して神殿まで押しかける……! 王子がなぜアレリアに執着するのか、なぜアレリアはこんなに頑なに王子を拒否するのか? その秘密はアレリアの弟の結婚にあった――? クズ王子を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

婚約破棄は命を懸けて遂行するものですよ?

ともボン
恋愛
 それは、王城の大広間で行われた夜会のこと――。  婚約者である第一王太子レオンから私は告げられる。 「侯爵令嬢エリシア・レヴァント、お前との婚約を破棄する!」  だが、氷姫と呼ばれていた私は冷静だった。  なぜなら、これはすべて予期していたことだから。  そして案の定、レオンはミレーヌという貴族令嬢と新たに婚約すると言い出した。  馬鹿は死なないと治らない。  私は公衆の面前でとっておきの報復を始めた。  これは婚約破棄から始まる、痛快なざまぁと甘やかな逆転劇。  氷姫の仮面の下に秘めた想いは、愛か、それとも復讐か――!?

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

突然、婚約破棄を言い渡された私は王子の病気を疑う【短編】

キョウキョウ
恋愛
 卒業記念パーティーの最中、ディートリヒ王子から前触れもなく婚約破棄を告げられたオリヴィア。  彼女が最初に取った行動は婚約破棄を嘆くことでもなく、王子の近くに寄り添っている女性を責めることでもなく、医者を呼ぶことだった。  突然の心変わりに、王子の精神病を疑ったからだ。  婚約破棄に至る病、突然の心変わりは一つの病として知られていた。

婚約破棄を「奪った側」から見たならば ~王子、あなたの代わりはいくらでもいます~

フーラー
恋愛
王子が「真実の愛」を見つけて婚約破棄をする物語を「奪ったヒロイン側」の視点で『チート相手に勝利する』恋愛譚。 舞台は中世風ファンタジー。 転生者である貴族の娘『アイ』は、前世から持ち込んだ医療や衛生の知識を活かして、世界一の天才研究家として名を馳せていた。 だが、婚約者の王子ソームはそれを快く思っていなかった。 彼女のその活躍こそ目覚ましかったが、彼が求めていたのは『優秀な妻』ではなく、自分と時間を共有してくれる『対等なパートナー』だったからだ。 だが、それを周りに行っても「彼女の才能に嫉妬している」と嘲笑されることがわかっていたため、口に出せなかった。 一方のアイも、もともと前世では『本当の意味でのコミュ障』だった上に、転生して初めてチヤホヤされる喜びを知った状態では、王子にかまける余裕も、彼の内面に目を向ける意識もなかった。 そんなときに王子は、宮廷道化師のハーツに相談する。 「私にアイ様のような才能はないですが、王子と同じ時間は過ごすことは出来ます」 そういった彼女は、その王子をバカにしながらも、彼と一緒に人生を歩く道を模索する。 それによって、王子の心は揺れ動いていくことになる。 小説家になろう・カクヨムでも掲載されています! ※本作を執筆するにあたりAIを補助的に利用しています

もう捕まらないから

どくりんご
恋愛
 お願い、許して  もう捕まらないから

処理中です...