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26 生まれ変わり?
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「家庭教師はもう必要ないわよ」
ジンがたくさんの荷物を持って離宮に来た。
「本日は、王女様に帝国のドレスと宝石を持ってまいりました」
黒い瞳をきらりと光らせてジンは笑顔を見せる。相変わらずの男らしい美貌に、私の後ろに控えたマリリンの目が釘付けになっている。
「先日の誕生パーティでは、ドレスと宝石を燃やしてしまわれたようで。代わりにこちらを献上させてください」
私の前に、紫色のドレスと宝石を並べる。
「わあ! どれもすてき!」
マリリンがうっとりと見つめる。ドレスと宝石とそして、ジンを。
「誕生パーティでは、王族であることを証明されたとか。その体当たりの幻想的な儀式は、民の間でも評判になっています」
体当たりの幻想的な儀式?
私が裸になったことをからかってるの?
「俺もぜひ見たかった」
私の裸を?!
「ジンさん! 王女様は、本当にすごかったんですよ! まるで建国女王のようでした。こう、『私が王女であることを証明します!』ってビシッて言って、パッと火の中に飛び込んで、サッと出てきて! ビシッ、パッ、サッで、もう、みんなびっくり!」
マリリンまで、私をバカにしてるの?
炎に入るのは三度目だから、絶対大丈夫だって分かってたけど、それなりに怖かったんだから。
一度目は、100年以上前。まだ幼い時に、王妃に放り込まれた。
王族の血をひくことを証明しろって。
私を殺したかったんだろうけど、炎は私を焼かなかった。
その時のことはあまり覚えていない。
二度目は兄に意地悪されて……。
とても怖かった。
そして、三度目は自分から入った。
「王女様、せっかくだからこのドレスを着てみましょうよ? パーティの時のドレスも似合ってましたけど、このジンさんが持ってきてくれたドレスもすごく綺麗です。紫の生地に黒い刺繍がいい働きをしてますよね」
「黒ダイヤのペンダントも王女様にお似合いだ。うちの商店の中で一番いいものを持ってきた」
ジンが私の首に大きな黒い宝石のついたペンダントを掛けようとする。私は手を振ってそれを断った。
「黒は魔物の色だわ」
「もう、王女様ったら。いつの時代の話ですかぁ」
私の態度をマリリンはあきれたように咎める。
「おばあちゃんのお母さんぐらいの時代だと、そんなことを信じてたかもしれないけど。魔物にだって、いろんな色があるんですよ。王女様って考えが古いです。それに、うふっ。黒って素敵な色ですよ。だって、ジンさんの黒髪は、すっごくかっこいいですもん。あ、やだ。言っちゃった。うふふ」
照れて、くねくね笑っているマリリンにちらりと眼を向けてから、私はジンを観察した。
私の拒絶に傷ついた様子はない。いつものように、黒い瞳をキラキラさせて私をじっと見ている。
「王宮のカレン王女にも会いに行ったの?」
私に挨拶に来るぐらいだもの。当然、王宮の方にも賄賂を贈りに行ってるわよね。捨てられた王女の私よりも、お金持ちのレドリオン公爵家に取り入った方がいいわよ。
「いや、その必要はないから」
ジンはそれをあっさり否定する。
「俺が来たかったのは、フェリシティ様の所だけだ」
そう言って、彼はもう一度私に黒ダイアのペンダントを渡してきた。仕方ないので受け取ってマリリンに渡す。マリリンはあっという間に、私の首にその大きな黒い宝石をかけた。
ずっしりと重い。
「来る途中で、ブルーデン公爵家の子息と新しい王女が茶会を開いているのが見えた」
ジンは私の婚約者の浮気について教えてくれた。
「王女様は行かなくていいのか?」
「今日は、定例茶会の日ではないから」
アーサーに会いたくなんてないし。
カレンはアーサーへのアピールを続けているようだ。でも、なぜ、わざわざ離宮の中庭でお茶会をするの? 王宮で堂々と会えばいいのに。
「カレン様は、アーサー様をフェリシティ様から取り上げたいんですよ。もう、何なのでしょうね! そりゃあ今まで帝国で苦労してきたのかもしれないけど、人の婚約者を取ろうとするなんて!」
ぷんぷん怒りながら、マリリンはカレンへの不満を口にする。
「見た目は聖女フェリシティ様にそっくりだけど、全然もう、中身は違って幻滅です! 知ってます? 二人の様子を見た人は、運命の恋人たちの生まれ変わりなんて言ってるんですよ! 全然、違うったら!」
「生まれ変わり?」
「はい、だってカレン様は聖女フェリシティ様にそっくりで、アーサー様は賢者アスラン様に似ているでしょう? だから、二人は前世で結ばれなかった恋人たちが、生まれ変わったんだって噂されてて。もう、ありえないですよね。顔は似てても、中身は全然違いますよ! あんまりです!」
あんまりだわ!
アスラン様が生まれ変わってたら、アーサーになる訳ないじゃない!
ひどい! ひどすぎる!
「その噂をする者を懲らしめてやりたいわ!」
「そうですよ! 聖女様に対する侮辱ですよね! だって、聖女様は国のために犠牲になるような崇高な方なんですから! 人の男を取るような淫乱女じゃないですってば!」
「アスラン様は、アーサーみたいに頭が悪くないわ。本当に、最大の侮辱ね!」
「いや、もう噂はかなり広まっているぞ。レドリオン家が積極的に流しているようだ」
「なんですって!」「なんで?!」
私とマリリンの叫びが重なった。
「王妃はカレン王女を女王にしたいのだろう。聖女の小説を利用して、カレン王女の人気を高めたいようだ。フェリシティ様の体当たりの儀式と同じくらい、カレン王女の聖女の生まれ変わり説が、国民の間で評判になっている」
「ひどいです! 聖女様を利用して人気取りするなんて!」
マリリンはキイキイと怒り続けた。
ジンがたくさんの荷物を持って離宮に来た。
「本日は、王女様に帝国のドレスと宝石を持ってまいりました」
黒い瞳をきらりと光らせてジンは笑顔を見せる。相変わらずの男らしい美貌に、私の後ろに控えたマリリンの目が釘付けになっている。
「先日の誕生パーティでは、ドレスと宝石を燃やしてしまわれたようで。代わりにこちらを献上させてください」
私の前に、紫色のドレスと宝石を並べる。
「わあ! どれもすてき!」
マリリンがうっとりと見つめる。ドレスと宝石とそして、ジンを。
「誕生パーティでは、王族であることを証明されたとか。その体当たりの幻想的な儀式は、民の間でも評判になっています」
体当たりの幻想的な儀式?
私が裸になったことをからかってるの?
「俺もぜひ見たかった」
私の裸を?!
「ジンさん! 王女様は、本当にすごかったんですよ! まるで建国女王のようでした。こう、『私が王女であることを証明します!』ってビシッて言って、パッと火の中に飛び込んで、サッと出てきて! ビシッ、パッ、サッで、もう、みんなびっくり!」
マリリンまで、私をバカにしてるの?
炎に入るのは三度目だから、絶対大丈夫だって分かってたけど、それなりに怖かったんだから。
一度目は、100年以上前。まだ幼い時に、王妃に放り込まれた。
王族の血をひくことを証明しろって。
私を殺したかったんだろうけど、炎は私を焼かなかった。
その時のことはあまり覚えていない。
二度目は兄に意地悪されて……。
とても怖かった。
そして、三度目は自分から入った。
「王女様、せっかくだからこのドレスを着てみましょうよ? パーティの時のドレスも似合ってましたけど、このジンさんが持ってきてくれたドレスもすごく綺麗です。紫の生地に黒い刺繍がいい働きをしてますよね」
「黒ダイヤのペンダントも王女様にお似合いだ。うちの商店の中で一番いいものを持ってきた」
ジンが私の首に大きな黒い宝石のついたペンダントを掛けようとする。私は手を振ってそれを断った。
「黒は魔物の色だわ」
「もう、王女様ったら。いつの時代の話ですかぁ」
私の態度をマリリンはあきれたように咎める。
「おばあちゃんのお母さんぐらいの時代だと、そんなことを信じてたかもしれないけど。魔物にだって、いろんな色があるんですよ。王女様って考えが古いです。それに、うふっ。黒って素敵な色ですよ。だって、ジンさんの黒髪は、すっごくかっこいいですもん。あ、やだ。言っちゃった。うふふ」
照れて、くねくね笑っているマリリンにちらりと眼を向けてから、私はジンを観察した。
私の拒絶に傷ついた様子はない。いつものように、黒い瞳をキラキラさせて私をじっと見ている。
「王宮のカレン王女にも会いに行ったの?」
私に挨拶に来るぐらいだもの。当然、王宮の方にも賄賂を贈りに行ってるわよね。捨てられた王女の私よりも、お金持ちのレドリオン公爵家に取り入った方がいいわよ。
「いや、その必要はないから」
ジンはそれをあっさり否定する。
「俺が来たかったのは、フェリシティ様の所だけだ」
そう言って、彼はもう一度私に黒ダイアのペンダントを渡してきた。仕方ないので受け取ってマリリンに渡す。マリリンはあっという間に、私の首にその大きな黒い宝石をかけた。
ずっしりと重い。
「来る途中で、ブルーデン公爵家の子息と新しい王女が茶会を開いているのが見えた」
ジンは私の婚約者の浮気について教えてくれた。
「王女様は行かなくていいのか?」
「今日は、定例茶会の日ではないから」
アーサーに会いたくなんてないし。
カレンはアーサーへのアピールを続けているようだ。でも、なぜ、わざわざ離宮の中庭でお茶会をするの? 王宮で堂々と会えばいいのに。
「カレン様は、アーサー様をフェリシティ様から取り上げたいんですよ。もう、何なのでしょうね! そりゃあ今まで帝国で苦労してきたのかもしれないけど、人の婚約者を取ろうとするなんて!」
ぷんぷん怒りながら、マリリンはカレンへの不満を口にする。
「見た目は聖女フェリシティ様にそっくりだけど、全然もう、中身は違って幻滅です! 知ってます? 二人の様子を見た人は、運命の恋人たちの生まれ変わりなんて言ってるんですよ! 全然、違うったら!」
「生まれ変わり?」
「はい、だってカレン様は聖女フェリシティ様にそっくりで、アーサー様は賢者アスラン様に似ているでしょう? だから、二人は前世で結ばれなかった恋人たちが、生まれ変わったんだって噂されてて。もう、ありえないですよね。顔は似てても、中身は全然違いますよ! あんまりです!」
あんまりだわ!
アスラン様が生まれ変わってたら、アーサーになる訳ないじゃない!
ひどい! ひどすぎる!
「その噂をする者を懲らしめてやりたいわ!」
「そうですよ! 聖女様に対する侮辱ですよね! だって、聖女様は国のために犠牲になるような崇高な方なんですから! 人の男を取るような淫乱女じゃないですってば!」
「アスラン様は、アーサーみたいに頭が悪くないわ。本当に、最大の侮辱ね!」
「いや、もう噂はかなり広まっているぞ。レドリオン家が積極的に流しているようだ」
「なんですって!」「なんで?!」
私とマリリンの叫びが重なった。
「王妃はカレン王女を女王にしたいのだろう。聖女の小説を利用して、カレン王女の人気を高めたいようだ。フェリシティ様の体当たりの儀式と同じくらい、カレン王女の聖女の生まれ変わり説が、国民の間で評判になっている」
「ひどいです! 聖女様を利用して人気取りするなんて!」
マリリンはキイキイと怒り続けた。
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