【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

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27 幸せの夢

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「フェリシティ。おいで」

 アスラン様が私を呼んでいる。
 ああ、幸せな夢だ。
 おかしいな。私はあの果物は食べていないのに。
 こうしてアスラン様が夢に出てきてくれる。

「フェリシティ大好きだよ」

「私も大好き」

 二人で向かい合って見つめ合う。

 精霊王様が降臨され時、儀式を見学に来ていたカルミラが、その美貌に目をつけた。
 そして、考えなしに愛を告げた。今まで彼女のとりこになった男たちのように、自分の側に侍らすために。
 純真な精霊王様は、その言葉に感激し、彼女を伴侶にすると決めた。そして、教会はカルミラを聖女に認定し、私は勤めから解放された。

「君が聖女になると思ったのに。あんな女を選ぶなんて」

「ううん。私はね、聖女にならなくて良かったって思ったの。だって、カルミラの代わりに、私がアスラン様の婚約者になれたから」

「それは僕も嬉しいよ。ずっと、君が婚約者だったらいいのにって願っていたから」

「うれしい」

 私たちはそっと抱き合った。本当に幸せな瞬間だった。


「ねえ、フェリシティ。僕は永遠に君が好きだよ」

「私も同じです」

「違うよ。僕の方がずっと君を愛している。もしも生まれ変わっても、また僕を選んでくれる?」

 生まれ変わる? アスラン様が?
 あ、今、すごく嫌な現実を思い出した。
 だめだめ。アスラン様との幸せな夢の時間は、あんな嫌なやつのことを考えたくない。

「フェリシティ?」

 綺麗な紺碧の瞳が私を映している。違うよね。アスラン様はアレとは違う。

「どうしたの? 僕が生まれ変わるまで待っててくれないの?」

 寂しそうな声。大好きなアスラン様の優しい息遣い。

「私にはアスラン様だけです!」

 力いっぱい告げる。私が好きなのは、アスラン様だけなんだから。
 大好きなアスラン様なら、どんな姿に生まれ変わっても、きっと私には分かる。絶対に、アーサーは違う。

「約束だよ。僕にはフェリシティだけだから。絶対に待ってて」

「はい!」

 アスラン様の綺麗な顔が近づいてきて、私の唇に触れる。
 大好きなアスラン様と100年ぶりのキスを交わす。

 幸せな夢はそこで終わった。

「ああ……」

 夢から覚めてしまった。
 暗いベッドの中で、静かに涙を流す。

「ずっと眠っていたかった。目覚めたくなかったのに……」

 もしも、今、目の前に幸せの夢を見せる果物があったなら。
 私は戸惑わずに食べるだろう。ずっとアスラン様の夢を見ていたい。永遠に眠っていたい。
 こんなつらい現実に、私を一人で残さないで。お願い。アスラン様。私を一人にしないで。

 自分で選んだくせに。
 今更、私は後悔する。
 あの時、国民なんか見捨てればよかった。
 精霊に頼り切る堕落した民たちを守る義務なんてなかった。
 アスラン様と一緒に、逃げればよかったのに。

 精霊教会で受けた洗脳に近い教育が、私に王女の務めを果たさせた。
 あの時、もしも精霊界に行かなければ……。
 それより前にも、精霊王の滅びの炎を防いだりしなければ……。
 アスラン様とともに、死ぬことができたのに。
 ただ一人生き残ってしまっうなんてことを、避けられたのに。

 今なら、彼の言っていたことが分かる。
 愛する人のいない世界に、たった一人でいることのつらさが。
 それなら私は、……。

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