【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

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「アーサー様!」

「カレン! 待っていたよ」

「私も、お会いできて嬉しいです!」

 定例のお茶会の日、遅れて来たアーサーに会いにカレンがやって来た。私のことはそっちのけで、二人でイチャイチャしだす。

「今日も美しいな。そのドレスは良く似合っている」

「アーサー様のセンスがいいのですわ。この生地は最高級品でしょう?」

「まあな。最近、我がブルーデン家は潤っているから、それぐらいいくらでも買ってやるよ。カレンは何を着ても似合うから贈りがいがあるな」

 それ、一度も贈り物をしたことがない婚約者の前で言う?
 私のことを無視して、アーサーとカレンは二人で会話する。
 胸元が深く開いたドレスを着たカレンに、アーサーは鼻の下を伸ばして、にやにやと気持ち悪い笑いを浮かべている。

 ああもう、やめて。
 アスラン様に似た姿で、そんな醜い顔をしないで。もう見たくない。

 顔をしかめて目を背けた。

「まあ、どうしましょう。ごめんなさい。お姉さま」

 不機嫌そうに座っている私に、カレンは困ったような顔をした。でも、口元はうれしそうに上がっている。

「今日も椅子が足りないみたいですわ。私、お邪魔かしら?」

 こんなこともあろうかと、テーブルには椅子を三つ用意させていた。でも、少し前にカレンの護衛騎士が、一つ持って行ってしまった。

「おい、おまえ、ちょっと遠慮しろ。俺とカレンの邪魔をするな」

 自分が誰の婚約者なのかも忘れてしまったアーサーは、私に退席するように促した。
 私は喜んで立ち上がる。

「さあ、カレン。立ちっぱなしで疲れただろう。その綺麗な足を休ませよう」

「ありがとう。アーサー様。ごめんなさーい。お姉さま」

 カレンは申し訳なさそうなふりをして、私に歪んだ微笑みを向けた。

 まったく、何がしたいのやら。
 私がアーサーのことを、何とも思ってないことぐらい分かるだろうに。
 そんなことして楽しいの?

 軽く礼をして、その場を離れようとしたら、

「アーサー様。ブルーデン公爵家傘下の商会で、あの飴を作っているんでしょう?」

 カレンが聞き捨てならないことを言いだした。

「あの飴?」

「帝国に輸出している飴のことですわ。一度食べたらやめられなくなる美味しさで、それに、とっても幸せな夢が見られるって噂ですわ」

「ああ、あれか。なんだ。欲しいのか? だが、あれは中毒性が高いから、俺も食べるのは禁止されてるんだ」

 私は足を止めて、二人の会話を聞いた。

「食べてみたいですけど、それよりも。もっとたくさん売ることはできませんか? 私の家と協力したら、もっともっとたくさん作ることができますわ。ねえ、一緒にしましょうよ。一緒に」

 カレンは一緒にと繰り返しながら、アーサーの腕に自分の手を絡めた。そして、自慢の大きな胸をぎゅっと押し付ける。

「い、いっしょ……いい」

 真っ赤になったアーサーは、デレデレと締まりのない顔を見せた。

「ねえ、どうやって作ってますの? 今度、工場を見学に行ってもいいです? 私、アーサー様と一緒にお出掛けしたいわ」

「いい、いい、一緒……」

 カレンはアーサーを上目遣いで見つめる。アーサーは顔を真っ赤にして「いい、いい」とつぶやいている。
 ……気持ち悪い。

 気持ち悪さはもっとある。アーサーの従者も、細めた目でじっとカレンを見ている。カレンは時々、従者にも流し目を送る。糸目の男は、目元を染めて、彼女に見惚れている。   

 カレンは近くにいる男性を全て虜にしているみたいね。

 100年前の妹のカルミラを見ているようだ。まるで魅了の力でもあるかのように、男たちを次々と攻略していた。

 あまりにもおぞましいので、さっさと部屋に戻ることにした。


 ◇◇◇◇◇


「お茶会はもう終わったのか?」

 部屋に戻ると、ジンが来ていた。今日はマリリンには仕事を与えているので、私の側にはだれもいない。
 どうやって入り込んだのか、彼は椅子に座ってくつろいでいた。

「何しに来たの?」

 ジンは時々、離宮に来るようになった。多分、私のことをかわいそうな王女だと思っているのだろう。

「チェリーケーキを持ってきた。好きだろう?」

「別に……」

 そう答えながらも、テーブルの上のつやつやしたチェリーのシロップ煮から目が離せなくなる。おいしそう。

「本当は帝国で流行している飴を持って来たかったんだがな。この国では手に入らなかったから」

「飴?」

「ああ、幸せな夢が見られるそうだ。……知らないのならいい」

 かまをかけられたのかな?
 ブルーデン家は、国内では飴が出回らないように、ちゃんと決まりを守ってくれているのね。

「それを食べたら、ちょっと出かけないか?」

「どこへ?」

「精霊教会。行ったことないって言ってただろう?」

「どうして?」

「裏門に馬車を停めてある。離宮は人がほとんどいないから、こっそり抜けたら分からないさ」

 なぜ、彼は私に会いに来るんだろう。どうして、私を連れ出したがるの?

 魔物と同じ黒い瞳の男は、私に手を差し伸べる。一緒に行こうと。

 少しためらってから、私はその手を取ることにした。彼が私に何を見せたいのか。興味があったから。
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