【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

文字の大きさ
35 / 41

35 結界の魔石

しおりを挟む
 果物が実らなくなったブルーデン公爵家は衰退していく。
 そんな公爵家の状況を知らないのか、アーサーは、今日ものんきに婚約者の妹とお茶会をしている。

「なんだ。まだいたのか? 何の用だ?」

 お茶会が終わり、一人になったアーサーを呼び止めた。

「私たちの婚約を解消しましょう」

 もうアーサーに、アスラン様の影を追うのはやめる。
 こんな偽物の姿に、アスラン様を追憶するのは無駄なこと。
 だって、ちっとも似ていないもの。内面が違いすぎて、外面も全く似ていないと思うようになった。

「何を言っているんだ? 最近相手をしてやってないから拗ねてるのか?」

「いいえ。あなたには妹がお似合いです。私は身を引きます」

 私の気遣いは、彼には通じなかったみたいだ。
 運命の恋人たちが生まれ変わったなどと、気持ち悪い話を語り出した。

 やめて。アスラン様の生まれだ変わりなんて、そんな侮辱は許さない。

「私は、あなたとは結婚しません」

 はっきりそう言うと、彼は鞭をとりだした。

「ふざけたことを言うと、お仕置きだぞ!」

 鞭から身を守るために、私は結界を張る。手の中に握った魔石に結界の魔法を込めてから、力を使う。

 私が神聖力を使えることは、誰にも知られたくない。魔石の力だと思わせるためだ。

 虹色の結界が私を包み込んだ。

 あ、やりすぎた。結界の力を使うのって、久しぶりだったもの。

「な! なんだ! これは!?」

 真っ二つに割れた鞭を持ったまま、アーサーはうろたえて後ずさった。

「結界魔法?」

 後ろで控えている彼の従者が細い目を開いた。

「なぜ? まさか、神聖力?!」

「こ、怖かったから、これを使ったんです」

 すぐに否定するために、私は手の中の魔石を見せる。まだ少しだけ力が残っているのか、わずかに銀色に光っている。

「それは! まさか、結界の魔石? どこで見つけたんです? いや、なんでこんなことに使うんですか?! もったいないでしょう! そんなくだらないことに使うなんて。渡してください!」

 魔石を見たとたん、血相を変えた従者は、私に詰め寄った。

「結界の魔石だと? なんでおまえがそんな宝を持っているんだ! どこで盗んだ!」

 アーサーも恐ろしい顔をして、私の腕をつかんだ。

「痛い。やめて。中庭に埋まってたの。何か銀色に光る石があったから、掘り出したら、……、これは結界石だったの?」

「どこです! 他にもあるかもしれない? どこにありました?」

 顔色を変える従者に、私は適当な場所を指で示す。

 翌日から、ブルーデン公爵家の使用人たちが、庭中を掘り返す姿を見ることになった。

 そして私は離宮を追い出された。
 離宮には聖女の遺産が眠っている。そんな噂が立ったからだ。



「汚い部屋ね」

 王宮で与えられたのは、使用人の部屋だった。ずっと掃除していないのか、ほこりが積もっている。

「掃除します!」

 雑巾を持ったマリリンがビシッと言ったけど、私はそれを断って、彼女を使いに出す。

「おいしいお茶とお菓子がほしいわ。買ってきてちょうだい」

「え? 今すぐですか? いや、掃除が先でしょう?」

 マリリンは安っぽいテーブルに積もったほこりを拭う。ふっと吹き飛ばして、ゴホゴホと咳き込む。

「いいから、すぐに買ってきて」

 こほんと私も空咳をして、袖口で口を覆う。
 早く掃除しないとね。

 マリリンを追い出した後、私はルリを呼び出した

「聖女さま~、なあに?」

 青い鳥の姿の精霊に命令する。

「ここにあるほこりと塵を全部アーサーの部屋に転移してちょうだい。それから、ベッドや家具をレドリオン家から盗って来て」

「はーい」

 ルリのおかげで、綺麗になった新しい部屋には、豪華な家具が置かれることになった。


「ふう」

 ふかふかのベッドの上で寝返りを打つ。
 誰が使っていたのか分からないので、ちゃんと浄化はしたわよ。本来なら、魔物の瘴気をきれいにする聖女の能力だけど、消毒効果もあるから有用ね。

 昔は、自分のために神聖力を使うことは許されなかったけど。
 今はもう、自分以外に力を使おうとは思わない。

 このままベッドで寝ていたら、またアスラン様の夢を見られるかしら?
 起きていたって何もいいことはないもの。
 この国を守る王女であることをやめたら、私は何をしたらいいの?
 何もやりたいことなんてない。
 それなら、いっそこのまま……。

 ゴロゴロとベッドで転がる。

 え?

 何か目の端で光った。

 金色の光。
 良く知っている輝きの……

「えええ?! なんで?」

 床の上には、大きな金色が転がっていた。

「なんで、なんで、どうして?」

 これ、あれだよね。
 精霊界にあったやつ。
 私がいつも温めていた。

「精霊王の卵がなんでここにあるの?!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

妹は聖女に、追放された私は魔女になりました

リオール
恋愛
母の死と同時に現れた義母と異母妹のロアラ。 私に無関心の父を含めた三人に虐げられ続けた私の心の拠り所は、婚約者である王太子テルディスだけだった。 けれど突然突きつけられる婚約解消。そして王太子とロアラの新たな婚約。 私が妹を虐げていた? 妹は──ロアラは聖女? 聖女を虐げていた私は魔女? どうして私が闇の森へ追放されなければいけないの? どうして私にばかり悪いことが起こるの? これは悪夢なのか現実なのか。 いつか誰かが、この悪夢から私を覚ましてくれるのかしら。 魔が巣くう闇の森の中。 私はその人を待つ──

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま
恋愛
薄暗い部屋の隅、背の高い本棚に囲まれて一人。エリシアは読書に耽っていた。 周囲の貴族令嬢たちは舞踏会で盛り上がっている時刻。そんな中、彼女は埃の匂いに包まれて、分厚い薬草学の本に指先を滑らせていた。文字を追う彼女の姿は繊細で、金の髪を揺らし、酷くここには場違いのように見える。 「――その薬草は、熱病にも効くとされている」 低い声が突然、彼女の背後から降ってくる。 振り返った先に立っていたのは、辺境の領主の紋章をつけた青年、エルンだった。 不躾な言葉に眉をひそめかけたが、その瞳は真剣で、嘲りの色はなかった。 「ご存じなのですか?」 思わず彼女は問い返す。 「私の方では大事な薬草だから。けれど、君ほど薬草に詳しくはないみたいだ。——私は君のその花飾りの名前を知らない」 彼は本を覗き込み、素直にそう言った。 胸の奥がかすかに震える。 ――馬鹿にされなかった。 初めての感覚に、彼女は言葉を失い、本を閉じる手が少しだけ震え、戸惑った笑みを見せた。 ※拙い文章です。読みにくい文章があるかもしれません。 ※自分都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。 ※本作品は別サイトにも掲載中です。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め! “聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。 グォンドラ王国は神に護られた国。 そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。 そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた…… グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、 儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。 そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。 聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく…… そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。 そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、 通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。 二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど─── 一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた…… 追記: あと少しで完結予定ですが、 長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)

処理中です...