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38 婚約破棄
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今日は婚約者とのお茶会だ。
どうせ、カレンとイチャイチャしてるだろうけど、仕方ないから行ってみる。
離宮の庭は、あちこち掘り返されて穴が開いていた。
私が見つけたことになっている結界石を探すのは、ようやくあきらめたようだ。これだけ掘り返しても、見つけられないものね。
「遅いぞ!」
アーサーとカレンが並んで私を待っている。
珍しい。今日は遅刻しなかったのね。
テーブルには、二人分のお茶の用意がしてある。そして、二脚だけ用意された椅子に座って、二人は親密そうに笑いあっていた。
私の場所なんてないじゃない。もう帰っていい?
「フェリシティ! おまえと婚約破棄をする!」
自分の部屋に戻ろうとしたら、アーサーがまたバカみたいなことを言いだした。
「俺たちは、賢者アスランと聖女フェリシティの生まれ変わり。真実の愛の恋人たちだ。偽物の王女のおまえとは結婚しない!」
「ごめんなさーい。お姉さま。私が次期女王に決まったのよ」
カレンは心底嬉しそうな顔をして、私に駆け寄ってきた。
「真の王女の私が、この国を導いていくのよ。ブルーデン家は私に付くことになったのよ」
私を見下すカレンの赤茶色の瞳は、優越感に光っていた。
「やっと、私は自分の居場所に戻れるんだわ。王位も婚約者も全部返してもらったわよ」
私の耳元で囁くカレンの声は、憎しみに満ちていた。王妃と同じだ。
「偽物は退散してちょうだい」
私は何もしていないのに、逆恨みもいいところだわ。それに、私は偽物だけど、本物。だから逃げられないっていうのに……。
「役立たずのおまえに、レドリオン家が新しい結婚相手をみつけてくれたぞ! 喜べ、おまえは帝国へ嫁ぐのだ!」
「うふふ。おめでとう。お姉さま」
帝国?
「かわいそうなお姉さま。何にも知らないお姉さまに教えてあげる。帝国人はね、妻を何人も娶るのよ。お姉さまは、ハーレムに入れられるんだわ」
「妻がたくさんとは、うらやまし……いや、いや、真実の愛に対する冒とくだな」
ハーレムね。
帝国では女性の地位が低いことは、知っているわ。
女は男に従属して、自分の意見を言うことは許されない。男の欲を満たし、子供を産むための道具にされる。
その点では、女王が建国したこの国は、女性にとっては恵まれているわね。カレンは、この国の女王になって、自分の好きなように生きられると思っているのね。
「婚約破棄は受け入れました。二人を祝福して、一言教えてあげます」
私は、笑みを浮かべて見せた。
「離宮の庭では、結界石は見つからなかったでしょう? あれはね、本当はね、別の場所にあったのよ」
「なんだと! 俺の部下がどれだけ捜索したと思ってるんだ!」
「どこで見つけたの! 言いなさいよ! 聖女の遺産は、本物の王女の私のものよ!」
アーサーとカレンが詰め寄ってくる。
私はにっこり笑って告げる。
「建国の炎よ。あの中に入れば、結界石も治癒石も、いくらでも手に入れることができるわ。建国の炎が、真の王族を祝福してくれるの。紫の炎は、建国女王の後継者を決して傷つけないわ。力を与えてくれるのよ」
「だったら! もっと取って来い! もう一度、炎の中に入れ!」
アーサーが鞭を取り出し、私を脅そうとする。
私はそれを躱して、告げる。
「私生児で偽物の私には、小さな結界石一個しかもらえなかったわ。でも、……真の王女ならきっと、建国女王は大いなる祝福を授けてくれるでしょうね」
小さな嘘をついて、私は二人に背を向けて部屋に戻った。
もしも、カレンが自分を正当な王女だと思っているのなら。
もしも、炎に入る勇気があるのなら……。
まあ、もう、どうでもいいわ。
私を帝国に売りつけようとしているこの国の人たちなんて。
本当に、どうなってもいい。
どうせ、カレンとイチャイチャしてるだろうけど、仕方ないから行ってみる。
離宮の庭は、あちこち掘り返されて穴が開いていた。
私が見つけたことになっている結界石を探すのは、ようやくあきらめたようだ。これだけ掘り返しても、見つけられないものね。
「遅いぞ!」
アーサーとカレンが並んで私を待っている。
珍しい。今日は遅刻しなかったのね。
テーブルには、二人分のお茶の用意がしてある。そして、二脚だけ用意された椅子に座って、二人は親密そうに笑いあっていた。
私の場所なんてないじゃない。もう帰っていい?
「フェリシティ! おまえと婚約破棄をする!」
自分の部屋に戻ろうとしたら、アーサーがまたバカみたいなことを言いだした。
「俺たちは、賢者アスランと聖女フェリシティの生まれ変わり。真実の愛の恋人たちだ。偽物の王女のおまえとは結婚しない!」
「ごめんなさーい。お姉さま。私が次期女王に決まったのよ」
カレンは心底嬉しそうな顔をして、私に駆け寄ってきた。
「真の王女の私が、この国を導いていくのよ。ブルーデン家は私に付くことになったのよ」
私を見下すカレンの赤茶色の瞳は、優越感に光っていた。
「やっと、私は自分の居場所に戻れるんだわ。王位も婚約者も全部返してもらったわよ」
私の耳元で囁くカレンの声は、憎しみに満ちていた。王妃と同じだ。
「偽物は退散してちょうだい」
私は何もしていないのに、逆恨みもいいところだわ。それに、私は偽物だけど、本物。だから逃げられないっていうのに……。
「役立たずのおまえに、レドリオン家が新しい結婚相手をみつけてくれたぞ! 喜べ、おまえは帝国へ嫁ぐのだ!」
「うふふ。おめでとう。お姉さま」
帝国?
「かわいそうなお姉さま。何にも知らないお姉さまに教えてあげる。帝国人はね、妻を何人も娶るのよ。お姉さまは、ハーレムに入れられるんだわ」
「妻がたくさんとは、うらやまし……いや、いや、真実の愛に対する冒とくだな」
ハーレムね。
帝国では女性の地位が低いことは、知っているわ。
女は男に従属して、自分の意見を言うことは許されない。男の欲を満たし、子供を産むための道具にされる。
その点では、女王が建国したこの国は、女性にとっては恵まれているわね。カレンは、この国の女王になって、自分の好きなように生きられると思っているのね。
「婚約破棄は受け入れました。二人を祝福して、一言教えてあげます」
私は、笑みを浮かべて見せた。
「離宮の庭では、結界石は見つからなかったでしょう? あれはね、本当はね、別の場所にあったのよ」
「なんだと! 俺の部下がどれだけ捜索したと思ってるんだ!」
「どこで見つけたの! 言いなさいよ! 聖女の遺産は、本物の王女の私のものよ!」
アーサーとカレンが詰め寄ってくる。
私はにっこり笑って告げる。
「建国の炎よ。あの中に入れば、結界石も治癒石も、いくらでも手に入れることができるわ。建国の炎が、真の王族を祝福してくれるの。紫の炎は、建国女王の後継者を決して傷つけないわ。力を与えてくれるのよ」
「だったら! もっと取って来い! もう一度、炎の中に入れ!」
アーサーが鞭を取り出し、私を脅そうとする。
私はそれを躱して、告げる。
「私生児で偽物の私には、小さな結界石一個しかもらえなかったわ。でも、……真の王女ならきっと、建国女王は大いなる祝福を授けてくれるでしょうね」
小さな嘘をついて、私は二人に背を向けて部屋に戻った。
もしも、カレンが自分を正当な王女だと思っているのなら。
もしも、炎に入る勇気があるのなら……。
まあ、もう、どうでもいいわ。
私を帝国に売りつけようとしているこの国の人たちなんて。
本当に、どうなってもいい。
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