【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

文字の大きさ
38 / 41

38 婚約破棄

しおりを挟む
 今日は婚約者とのお茶会だ。
 どうせ、カレンとイチャイチャしてるだろうけど、仕方ないから行ってみる。
 離宮の庭は、あちこち掘り返されて穴が開いていた。
 私が見つけたことになっている結界石を探すのは、ようやくあきらめたようだ。これだけ掘り返しても、見つけられないものね。

「遅いぞ!」

 アーサーとカレンが並んで私を待っている。
 珍しい。今日は遅刻しなかったのね。

 テーブルには、二人分のお茶の用意がしてある。そして、二脚だけ用意された椅子に座って、二人は親密そうに笑いあっていた。

 私の場所なんてないじゃない。もう帰っていい?

「フェリシティ! おまえと婚約破棄をする!」

 自分の部屋に戻ろうとしたら、アーサーがまたバカみたいなことを言いだした。

「俺たちは、賢者アスランと聖女フェリシティの生まれ変わり。真実の愛の恋人たちだ。偽物の王女のおまえとは結婚しない!」

「ごめんなさーい。お姉さま。私が次期女王に決まったのよ」

 カレンは心底嬉しそうな顔をして、私に駆け寄ってきた。

「真の王女の私が、この国を導いていくのよ。ブルーデン家は私に付くことになったのよ」

 私を見下すカレンの赤茶色の瞳は、優越感に光っていた。

「やっと、私は自分の居場所に戻れるんだわ。王位も婚約者も全部返してもらったわよ」

 私の耳元で囁くカレンの声は、憎しみに満ちていた。王妃と同じだ。

「偽物は退散してちょうだい」
 
 私は何もしていないのに、逆恨みもいいところだわ。それに、私は偽物だけど、本物。だから逃げられないっていうのに……。

「役立たずのおまえに、レドリオン家が新しい結婚相手をみつけてくれたぞ! 喜べ、おまえは帝国へ嫁ぐのだ!」

「うふふ。おめでとう。お姉さま」

 帝国?

「かわいそうなお姉さま。何にも知らないお姉さまに教えてあげる。帝国人はね、妻を何人も娶るのよ。お姉さまは、ハーレムに入れられるんだわ」

「妻がたくさんとは、うらやまし……いや、いや、真実の愛に対する冒とくだな」

 ハーレムね。
 帝国では女性の地位が低いことは、知っているわ。
 女は男に従属して、自分の意見を言うことは許されない。男の欲を満たし、子供を産むための道具にされる。

 その点では、女王が建国したこの国は、女性にとっては恵まれているわね。カレンは、この国の女王になって、自分の好きなように生きられると思っているのね。

「婚約破棄は受け入れました。二人を祝福して、一言教えてあげます」

 私は、笑みを浮かべて見せた。

「離宮の庭では、結界石は見つからなかったでしょう? あれはね、本当はね、別の場所にあったのよ」

「なんだと! 俺の部下がどれだけ捜索したと思ってるんだ!」

「どこで見つけたの! 言いなさいよ! 聖女の遺産は、本物の王女の私のものよ!」

 アーサーとカレンが詰め寄ってくる。
 私はにっこり笑って告げる。

「建国の炎よ。あの中に入れば、結界石も治癒石も、いくらでも手に入れることができるわ。建国の炎が、真の王族を祝福してくれるの。紫の炎は、建国女王の後継者を決して傷つけないわ。力を与えてくれるのよ」

「だったら! もっと取って来い! もう一度、炎の中に入れ!」

 アーサーが鞭を取り出し、私を脅そうとする。

 私はそれを躱して、告げる。

「私生児で偽物の私には、小さな結界石一個しかもらえなかったわ。でも、……真の王女ならきっと、建国女王は大いなる祝福を授けてくれるでしょうね」

 小さな嘘をついて、私は二人に背を向けて部屋に戻った。
 もしも、カレンが自分を正当な王女だと思っているのなら。
 もしも、炎に入る勇気があるのなら……。

 まあ、もう、どうでもいいわ。

 私を帝国に売りつけようとしているこの国の人たちなんて。
 本当に、どうなってもいい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。 ……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。 「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」 「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」 ※※※ 冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

私との婚約を破棄して問題ばかり起こす妹と婚約するみたいなので、私は家から出ていきます

天宮有
恋愛
 私ルーシー・ルラックの妹ルーミスは、問題ばかり起こす妹だ。  ルラック伯爵家の評判を落とさないよう、私は常に妹の傍で被害を抑えようとしていた。  そんなことを知らない婚約者のランドンが、私に婚約破棄を言い渡してくる。  理由が妹ルーミスを新しい婚約者にするようなので、私は家から出ていきます。

処理中です...