【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

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「ほら、見てごらん。面白いことをやっているよ」

 精霊界で再び暮らし始めて、2年が経つ。
 以前、精霊宰相に連れてこられた時は、狭い部屋に閉じ込められていた。でも、今は、精霊王の溺愛を受けながら、大勢の召使いに傅かれる贅沢三昧な日々を送っている。

 私の夫、青銀の髪を持つアスラン様の姿の精霊王は、水鏡の向こうを指さした。
 そこには、人間界の様子が映っている。エヴァン王国の宮殿の大広間だ。大勢の人が、紫色の炎を囲んで立っていた。

 以前は、天井まで燃えあがっていた炎は、半分の大きさになっている。
 先日、国王が亡くなった。酒を飲みすぎたせいだろうと言われている。何者かに怯えるように、うわ言を叫びながら、血を吐いて死んだそうだ。

 紫色の炎の前に立つのは、王冠をかぶった赤茶色の髪の女性。
 即位したばかりのカレン女王だ。隣には、女王の母の王太合とレドリオン公爵がいる。

 カレンは悲劇の女王と呼ばれている。結婚してすぐに、夫のアーサーが謎の病で死んでしまったからだ。何の病だったのか。髪は抜け落ち、目玉は飛び出し、死に顔は苦痛に歪んでいたそうだ。

 妊娠中だったカレンは、悲しみを乗り越えて、元気な赤子を産んだ。こげ茶色の髪と目をした女の子だ。その容姿は、なぜか彼女の隣に立つ護衛騎士によく似ていた。

「今から炎の中に入るみたいだよ。あはは。楽しみー」

 アスラン様の顔をした精霊王は、意地の悪い笑い声をあげる。
 私のアスラン様は、そんな笑い方はしないわよ。
 横目で睨むと、精霊王はあわててアスラン様らしい知的な笑顔を作った。

「さあ、ショーの始まりだよ」

 水鏡の中で、女王は演説をしている。
 帝国に嫁ぐはずだった王女が突然消えて、その賠償金を払うために、王国はさらに負債を重ねた。

 カレン女王が炎の中に入り、聖女の残した遺産を手に入れれば、全ては上手くいくはずだ。
 見守る貴族たちは、そんな顔をしている。

 カレンは紫の炎の前で一度立ち止まり、恐怖に打ち勝つように目を閉じた。
 そして、一歩目を踏み出す。

 その瞬間。

 建国の炎は、偽物の女王を焼き尽くした。
 悲鳴が上がる。

 大勢の人々が見守る中で、彼女は消滅した。

 女王を飲み込んだ紫の炎は、一瞬だけ大きく燃え上がり、それからどんどん小さくなっていった。

 泣き叫んで暴れる王太合。レドリオン公爵は、がっくりと膝をつく。
 
 やがて、小さくなった紫の炎は、ふっと消えた。


 そして……、
 国中に豪風が吹いた。



 建国女王によって作られた土地は変貌する。

 川は流れを止め、湖は枯れはてる。
 森は消滅し、乾いた砂が舞い上がる。

 結界の外と変わらない砂漠に戻っていく。


「助けなくていいの?」

 民の嘆きが、水鏡から伝わってくる。崩壊したエヴァン王国の民を、帝国人が奴隷として連れて行く。それを止められるものはもういない。
 レドリオン公爵家の者たちは、処刑された。不貞を行い、偽りの女王を産んだという理由で、暴徒化した国民に殴り殺された。建国の炎が消えたのは、カレンが王の血筋ではなかったから。偽物の女王だったからだと。



 ――この国の民を守りなさい。

 建国女王の叫びが耳に残っている。

「人のことは、人がするべきだわ」

 人の世の理に、精霊は手を出さない方がいい。
 自分たちの身は、自分たちで守るべきだから。

 建国女王のように、守ってあげるだけでは、彼らはどこにも行けなくなるのだから。

「それに、ここに残るよりも、奴隷になった方がまだマシかもしれないわ。とりあえず生きていけるもの」

 砂漠になったこの国には、作物は育たない。どこにも水がない土地で、力がない者が生きるのは難しい。
 奴隷になったとしても、運が良ければ、そこから這い上がってこられるかもしれない。才能を認められれば、帝国の市民権が与えられるそうだ。

 私の侍女だったマリリンには、ルリを通じて治癒石をたくさん渡した。
 それを売って、マリソル商会は、外国に移住して新しい商売を始めた。マリリンはきっと、どこに行っても上手くやっていくだろう。

「建国女王って、何だったのかしらね?」

 ずっと疑問に思っていたことを問うてみる。

「さあ? アスランの知識によると、女神の末裔の可能性が高い。この世界を作った慈悲深い女神だ。僕たち精霊を呼び寄せたのも女神かもしれないね」

 神々のなさることは良く分からない。
 この世界には、分からないことばかり。

 精霊とは、精霊界とは何なのかも、よく分からない。
 人間と精霊との違いについても。
 精霊界で100年以上も暮らしていた私はもう、人間とは呼べない者になっているのかもしれない。

 だから、あれほど守ろうとしたエヴァン王国の民たちが、どんな苦境にあろうとも、心底どうでもよくなったんだろう。
 精霊は、人間にあまり関心がないのだ。

 それに、私が本当に知りたいことは、たった一つだけだ。

 私は隣にいる青銀の髪の青年を見上げる。
 私を見つめ返した紺碧の瞳が近づいてくる。
 どちらからともなく、口づけを交わし合う。

 この人は、私のアスラン様なの?
 アスラン様の魂を持っているけれど、それはアスラン様だと言えるの?

 2年前からずっとその疑問を繰り返している。
 答えは出ないけれど……。

 精霊王は私を甘やかして、どんな願いも叶えてくれる。
 そして、毎日私への愛をささやく。

 私のアスラン様とは、違っていることも多いけれど。

 でも……。
 彼の腕にくるまれながら、私は愛される幸せをかみしめる。
 ここは、やっと手に入れた私だけの居場所。幸せな夢のような場所だから。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ろん
2024.02.14 ろん
ネタバレ含む
2024.02.14 白崎りか

一気読み♪ありがとうございます!

そうですよね。スカッとざまぁしたいですよね。

国王とアーサーの場合、おそらく多分、謎の病死に精霊王が関わっているので、そのあたりで、
「なんだ?! 精霊王だと?」「そんな! あれが聖女だったなんて」的な話があったかなと。
でも、多分おそらく、精霊王のざまぁは、スプラッタ的な血みどろどろどろ展開になっていたと思うので、(国王の方は精神的ホラー)、ごめん。私の文章力では、怖い話を書くのは無理でした。( ´艸`)

後日談で身バレするとしたら、マリリンかな。
神聖教国で新しい商売を始めたマリリン一家の元へ、フェリシティと精霊王がお買い物に行く。
あ、これなら書けそう。
でも、それをマリリン父が、聖女マニアで文通仲間の帝国皇子に教えてしまって……。
うん。妻子持ちの皇子がストーカーする話って需要あるかな???

感想ありがとうございます。新しいアイデアが浮かんできそうです。!(^^)!

解除
明子
2024.02.14 明子

面白かったです。
ポチしました。

2024.02.14 白崎りか

うわぁ~、ありがとうございます(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
いつも、ドキドキしながら投稿しているので、そう言ってもらえると嬉しいです(⁠^⁠^⁠)

解除
はらり𓃠
2024.02.09 はらり𓃠

【承認不要です】

あちこちで精霊[協会]と[教会]が混在してます

教会だと思って読んできたのですが、ちょっと数が多いのでお知らせしておきますね

誤字の指摘のみなので承認不要ですが、とても面白く読ませてもらってます

2024.02.09 白崎りか

ああっ!本当だ。
自分では、全然気が付かなかったから、教えてもらえて助かります。

面白く読んでもらえて、嬉しいです。
ちょっと設定凝りすぎたかな?とか不安だったので、その言葉に励まされました。^⁠_⁠^
あと10話ほどで終わりますので、よかったら最後までお付き合いください(⁠^⁠^⁠)

解除

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