黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

文字の大きさ
15 / 174

草原の6人 新鋼歴再び

しおりを挟む
「ここは……!?」

「神殿じゃ……ない……?」

 回りを見ると、アックスたち5人も立っていた。

 日は完全に落ちており、僅かに星の照らす明かりが周囲に満ちている。ガードンは俺に視線を合わせて口を開いた。

「ヴェルト。お前が未来から来たというのは……」

「ああ……そうだな。みんなには改めて俺の事を話しておくよ」

 俺は改めて自分の過去を話す。魔法の存在しない新鋼歴388年に生まれ、12才の時に争いに巻き込まれたこと。気づけば幻魔歴410年の世界に流れ着いていたこと。

 じいさんやガードンには話したことがあったが、初めて聞くアックスやフィン、ロイは興味深そうに聞いていた。

「それじゃ、姫さんがその首飾りを手渡したという貴族は、ヴェルトのご先祖様って訳か?」

「どうだろう。領地はゼルダンシア帝国と隣接していたが、家はゼルダンシア貴族ではなかった。まぁこっちじゃゼルダンシアは王国じゃなくて帝国だし、いろいろ変わっているんだとは思うが……」

「ふーん。なんにせよお姫様の力で、私たちは未来にやってきたって訳よね! ……で、ヴェルト。ここからどうするの?」

 これからどうするか……か。俺は改めて5人の顔を見る。

「団長の最後の願いを……叶えたいと思う。みんな。ついてきてくれるか?」

「は、はい! もちろんです!」

「言ったろ。俺たちの命はお前に預けるって」

「そうじゃの。それにローガの願いを聞いてやりたいのはわしも同じじゃ」

「だがどうする? 俺もローガとの付き合いは長いが、あいつの夢なんて何か分からないぞ」

 ……そうなんだよな。生きて欲しいという願いは分かるんだが、団長の夢が何かは分からない。

 ったく。他人に夢を託すんなら最後まで話せってんだ。

「都合の良い様に解釈しても良いんじゃないー?」

「いいのかな……」

 良いかは分からないが、それしかないのも確かだ。だがまぁ、おおよその想像はついている。 

「あの団長の事だからな。きっと戦乱に巻き込まれる民を守ってくれとか、平民たちが安心して暮らせる様に……とかじゃないか?」

「ああ。それはありそうじゃのう」

「ま、おいおい考えていけばいいさ。今はとりあえず休まねぇか?」

「そうだな……」

 こう暗いと周囲を見渡せないからな。俺たちは交代で見張りを立てながら眠りについた。

 そして夜が明けた次の日。小高い丘の上まで移動し、周囲の地形を観察する。

「おいヴェルト。ありゃクロークス山脈じゃないか? あの山の形、見覚えあるぜ」

「……確かに。それじゃここは……」

「ゼルダンシア王国領。いや、この時代では帝国だったか?」

 ゼルダンシア王国の王都はクロークス山脈の近くに築かれていた。そしてここから見える山脈は、これまで何度も見たものと同じ様に見えた。

「どうすします、隊長」

「ロイ。俺はもう隊長じゃない。普通にヴェルトで構わないよ」

 とりあえずここが本当にゼルダンシア領なのか。そして元の新鋼歴の時代なのかを確める必要があるだろう。

「今は俺たちの置かれた状況を整理するのが優先だ。行こう。王都ゼルダスタッドへ」

 道すがら、俺は改めて新鋼歴の話をする。元いた時代とはいろいろ常識が違うからな。ここが本当に新鋼歴の世界であれば、みんなに予備知識は必要だ。

「魔法が消えた世界ねぇ……」

「ああ。だが俺たちが戦っていた時代とそう大きく文明は変わっていない。魔法で国が栄えていた時代なんて、相当昔の話だったしな」

 大幻霊石に濁りが生じ、祝福を受けられる者をより制限していき、幻魔歴の最後にはその大幻霊石を巡って長い戦乱の時代が続いた。 
  
 あの時点で既に、人にとって魔法なんてものは珍しい存在になっていたからな。

「でも私たち、魔法使えるよね?」

「だな。俺のおかげで飲み水には困らなかっただろ?」
「さっすが給水係!」

「やめろ! 今は結構戦闘向きに使えんだから!」

 そう。祝福を受けた俺たちから、魔法の力は消えていなかった。

 あくまで大幻霊石と個人に宿った魔法は別扱いなのか。それともここはまだ幻魔歴の世界なのだろうか。

 王都を目指すことしばらく。途中から整備された街道が見えてきた。

 おそらく近くの街と王都を繋ぐ街道なのだろう。綺麗に石がはめ込まれており、馬車が通った様な跡が残っている。

「これは……」

「ほっほ。わしらがおった王都の近くには、この様に舗装された街道は存在しておらんかったのぅ」

 確かにそうだ。それにこの街道もどこまで続いているのかは分からないが、これだけ広範囲に舗装されているんだ。相当な年月がかかったはず。

 しばらく真っすぐに街道を進んでいたが、後ろから何か音が近づいてくる。

「なんだ……?」

 遠目に何かが近づいてくるのが確認できる。しばらくしてそれが馬車だと気づいた。全部で4台。

「丁度良い。捕まえて話を聞いてみよう。……みんな。念のため魔法は使わない様に気を付けてくれ」

「あいよ」
 
 俺は御者に向かって手を振る。しばらくして馬車は減速してくれた。先頭馬車の御者が訝しむ様に俺たちを見る。

「なんだ、あんたらは。どこかの戦場帰りか?」

「ああ、そんなところだ。ところで変なことを聞くが。今って新鋼歴何年になる?」

「なんだそりゃ。馬車を呼び止めて聞くのがそれかよ、変な奴だな。今は新鋼歴430年だよ」

「よ……!?」

 御者の発言に、俺たちは全員驚く。だがみんなと俺では驚いている理由が違った。

 みんなは単純に未来世界に来た事に驚いているだろう。だが俺は、新鋼歴430年だという事実に驚いていた。

 俺が過去にさ迷った時は新鋼歴400年だった。つまりここは、ディグマイヤー領が侵攻されてから30年後の世界だという事だ。

(過去の世界で過ごした時は12年……俺は24歳になった。だが本来なら俺は、この時代だと42歳という事になる……)

「何驚いてんだ? ……ところで道を急ぐ俺たちを止めたんだ。チップくらい弾んだらどうだ?」

「あ。ああ……」

 幌の奥から数人の強面が顔を覗かせる。察するに、この一団の護衛といったところか。

 だが残念ながら俺たちは金を持っていない。何せ死ぬつもりだったからな。死地に金を抱いたまま向かう奴はいない。

 どうするかと迷っていると、アックスが助け船を出してくれた。

「悪いが俺たちは今、持ち合わせがないんだ。でもあんたら、この道を進むという事は、目的地は一つだろ?」

 探る様な問いかけ。この先には十中八九、ゼルダンシアの王都があるが、あえて具体名は伏せる。

「その間、俺たちが無償で護衛をしてやるよ。奥の作りの豪華な馬車を見るに、あんたらも護衛なんだろ?」

「はぁ!? 何をぬかしてやがる。無駄に俺たちの足を止めたばかりか、帝都まで馬車に乗り込もうという腹かよ!」

 御者の男は半分呆れ、半分怒った様な声色だった。だが特に誰かが場所から降りてくることは無かった。

「けっ。どきやがれ!」

 そのまま馬車は走りだす。あっという間に4台の馬車は俺たちの前を通り過ぎて行った。

「あちゃ。行っちまったか」

「おいアックス。お前、わざと怒らせて馬車を奪うつもりだっただろ」

「まぁな。どう見ても善良な一般市民には見えなかったからな。ありゃ俺たちの御同輩だぜ」

 だからと言って誰かれ構わず噛みつくのもどうかと思うが。それにもし帝都が近かったら、うかつにトラブルを起こす訳にもいかない。

 アックスたちの感覚は、まだ戦乱の幻魔歴なのだろう。

「でも興味深い単語が聞けましたね。確か帝都って……」

「ああ。おそらくこの先にはゼルダンシア帝国の帝都がある」

 再び俺たちは歩きだす。しかしここは新鋼歴430年だったのか……。

「坊。確かお前さんは新鋼歴400年から来たと言っておったの」

「ああ。シャノーラ殿下は多少ずれるかもと話していたが。ざっと30年。実際に経過した時を考慮しても、18年先の未来に来てしまった様だ」

 あれから30年後の世界か……。ディグマイヤー領がどうなったのかは気になるが、今はもっと優先しなければならないことがある。

 とまどいはあれど、俺たちの足が止まることは無かった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...