黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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ダグドの怒り 動きだす水迅断

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 水迅断の幹部ダグドは怒っていた。部下たちはその怒りを敏感に感じ取り、ひたすら頭を下げている。

「なぁんでこんな一瞬で、黒狼会なんていう新しい組織が出来上がっているんだぁ!? あぁん!?」

 原因は黒狼会だ。ボス不在の地区をさっさとかすめ取ろうとした時、既に別の組織に横から奪われていた事に怒り狂っていた。

「しかも元青鋼と灼牙の連中も従っているだとぉ!? どうなってんだ、その二つがくっつくことなんてありえねぇだろうが!」

「そ、それが……。どうやら黒狼会の幹部たちは、たった6人で青鋼を潰したらしく……。元青鋼の連中はその力にビビッているみたいです。灼牙の連中からすると、自分たちボスの仇を討ってくれた新たなボスとして認識しているらしく……」

「んな嘘を鵜呑みにすんじゃねぇ! 黒狼会の背後にはどこかの組織が後ろ盾についているはずだ! それを調べろ!」

 ダグドは当初、黒狼会は自分たちの敵対組織が送り込んできた新参の組織だと考えていた。どこかで灼牙と青鋼の抗争を知り、自分と同じ様に漁夫の利を得ようとした連中がいたと想像していたのだ。

 このままでは自分がお膳立てして、まんまと敵対組織に美味しいところを奪われた間抜けだと陰口を叩かれるだろう。

「一体どこのどいつだ……! こんな舐めた真似をした奴らは……!」

 絶対に許さん。そう強く決意する。こんな挑発をかましてくるくらいだ、確実に自分たちとは別派閥の組織だろう。繋がっている組織によっては、水迅断より上の組織から応援を頼む可能性もある。

 帝都に巣くう二つの巨大組織は、少し前から表立っての全面抗争を避けているが、この事をきっかけに大きな戦いが始まるかもしれない。そう考えてもいた。しかし。

「どこの組織も関与していないだと……!?」

「へい。黒狼会のボスの名はヴェルトというのですが。調べたところ、何日か前にふらっと帝都にきたばかりの奴でした。ここに来たばかりの頃は金も無かったらしく、得物である大剣を売っています」

「……もしどこかの組織に所属している奴であれば、そんなことして金は作らんか」
「構成員も元青鋼と灼牙のメンバーだけです。全体で50人もいません」

「それじゃなんだ。帝都生まれでもない流れ者が、いきなり組織を立ち上げたってのか?」

「へい……」

 そう思うと中々見込みがある奴だとも思う。しかしこのままでは自分が笑い者になるだけだ。ダグドは徹底的に黒狼会を潰すと決意する。

「おい。明日から黒狼会の縄張りを荒らせ」

「は……よろしいんで?」

「どこの後ろ盾もない、単独組織だろう。仲たがいしていた二つの組織を短期間でまとめた手腕は買うが、新参が調子に乗り過ぎだ。とにかく店を荒らせ。途中応援に来たら最悪殺してもかまわん」

「へい。……おいお前ら! 行くぞ!」

 まずは徹底して縄張りを荒らす。そこで泣きついてくれば良し。こちらに怪我人が出れば、武闘派を連れて直接乗り込む。万が一歯向かってくれば、それこそ返り討ちだ。

「ふん……水迅断は金回りも良いんだ。武器も上等な品を揃えている。できたばかりの組織じゃ、まともな武具も用意できていないだろう」

 何しろボス自ら剣を売るくらいだからな、とダグドはほくそ笑んだ。
 



 
 ある日の夜。アックスとガードンは、若い女が席に付いてくれる酒場へと繰り出していた。

「いやぁ、俺たちがいた頃よりも酒が美味くなってねぇか!?」

「そうだな。時代が進むにつれ、職人たちがその技術に研鑽を積んできたのだろう」

「まったく! 頭が下がるぜ!」

 アックスとガードンは大いに楽しんでいた。二人にはそれぞれ別の女が隣に座る。

「すごい筋肉ー。ねぇ、何してる人なのー?」
「お兄さん、ここらじゃ見かけない顔だね。帝都には最近来たの?」

 ゼルダンシア王国時代にもこうした店はあったが、こうして客として楽しむのは随分久しぶりだった。二人とも上機嫌だ。

「おう、本当に最近来たばかりだぜぇ! 来て早々にこの辺りで戦いがあったから、びっくりしたがな!」

「ああ、あれね。前までこの辺りを仕切っていた組織があったんだけど、最近変わってさ。それでいろいろあったんだよ」

「おう、聞いてる聞いてる! 帝都は人が多いし、こんな事は日常茶飯事なんだろ?」

「いや、さすがに日常茶飯事とまではいかないけど……。でもこういう店だから、変な客は多くてさ。店長もいざという時、力を貸してくれる後ろ盾が欲しいみたいで。うちの店もその新しい組織の傘下に入ったんだよねぇ」

「おう、そりゃおっかねぇなぁ。俺もつまみ出されない様に、大人しくしないとな!」

 アックスの話を聞きながら、ガードンも静かに笑う。

「あ、今笑ったー! おじさま、怖い顔してるし笑わないのかと思ったよー!」

「ふ……。笑いがなければ、人生を華で彩るのは難しいからな。俺とて笑うさ」

 そう言うとガードンはロックをぐっと飲み干す。

「わぁ、見た目通りお酒に強いんですね!」
「どうかな。この酒の美味さに、舌が耐えられなかっただけかもしれん。……お前も何か頼むと良い」

「え、いいの!? やったー! オーダーお願いしまーす!」

 二人は多いに楽しんでいたが、半分は仕事だ。……いや、仕事だった。気づけば二人とも仕事を忘れて楽しんでいる。

「アックスさん。私も頼んでいいかしら?」
「おう、頼みな頼みな! ついでに適当なつまみも出してくれよ!」

 そうしてアックスたちに新たな酒が届いた時だった。少し離れた席から大声が響き渡る。

「あぁ!? てめぇ、なんのつもりだぁ!?」

「それはこっちのセリフよ! ここはそういうお店じゃないんだって!」

「はっ! 金を払ってんのは俺たちだぞ! 乳くらい大人しく揉ませろよ!」

 アックスたちが視線を向けると、そこには4人の大男たちが喚いていた。どう見ても一般人には見えない。

 アックスとガードンは、一目で暴力を生業とする者たちだと見抜く。男たちの行動はさらにエスカレートしていった。

「なんだその態度は! ぶっ殺されたいのか!」

 大声を上げながら、机の上にある酒を床にぶちまける。また別の男は壁を強く叩き、穴をあけた。

 しかし流石に看過できず、カウンターの裏から若い男たちが出てくる。その男たちは黒狼会に所属する者たちだった。

「おい。さすがにそれ以上は見過ごせねぇぞ」

「ここが黒狼会傘下の店だと分かっているのか?」

「弁償代と迷惑料を入れて70万エルクにまけておいてやる。さっさと金を置いて出ていきな」

 やっと来たか。アックスは直前まで酒が入っていた事など嘘の様な目で男たちを見る。

 だがやっと来たかという感想は、4人の大男たちに向けられたものだった。大男たちは当然、そんなことで引き下がらない。

「黒狼会だぁ!? 聞いたことがねぇなぁ! どこの弱小組織だぁ!?」

「俺たちは水迅断のもんだぞ! そしてここは俺たちの縄張りだ! 他所者こそ出ていきな!」

「あぁ!? 何言ってやがる、ここは黒狼会の縄張りだ!」

 だがその様子を見て、アックスは溜息を吐いた。

「やれやれ。こんなところでおっぱじめるつもりかよ。スマートじゃねぇなぁ」

「ああ。もしここでやるなら、言い争いになる前に一撃で鎮めるべきだ」

 他の客たちも遠巻きに言い争いを見ている。だが暴力沙汰になるまで、そう時間はかからなかった。

 4人の大男たちは暴力を振るいながら意図的に店の物を破壊していく。黒狼会の男たちは一方的にやられていた。アックスとガードンはそれを見て席を立つ。

「ま、ここまで派手に暴れられたら十分だろ」

「ああ。ヴェルトから修繕費に、特別手当は受け取ってある」

「ならここで黒狼会の名を高めておきますかね」

「……アックスさん。今は席を立たないほうが……」

 止める女性に対し、アックスはウインクで返す。

「まぁ見てなって。……おいおい、そこの兄さんたち。少し暴れ過ぎじゃないか?」

「あん!? なんだ、てめぇらは!」

「さすがに見てられなくてね。あんたら、水迅断のもんだって言ってたけど……」

「そうだ! なんか文句でもあんのか!?」

 アックスは軽薄な笑みを浮かべながら、男たちに近づく。

「大ありだよ」

 一瞬だった。目にも追えない速度で繰り出された右腕が、男の下あごを砕く。男は意識を狩られ、その場に崩れ落ちた。

「かへ……」

「んな……!?」

「てめぇ!」

 続いて二人の男が動く。一人はアックス、もう一人はガードンに向かって駆けだした。しかしアックスは向かってきた男も一撃で鎮める。ガードンに至っては。

「……へ?」

 男は刃物を取り出し、ガードンに突き立てていた。だがその刃がガードンの肉体を貫くことはなく、まったく傷をつけられていない。あっけにとられる男を、ガードンは拳骨一つで黙らせた。

「な……!?」

「おうおう、水迅断だか何だか知らねぇが、よくもここまで荒らしてくれたな!」

「な、なんだ、お前ら……!」

 残った男は、さすがにアックスとガードンが只者でないことには気付く。まるで大人と子供。そう思えるくらい、圧倒的な差があった。

「俺は黒狼会の幹部、アックス!」

「同じくガードンだ」

「!!!!」

 幹部が客として酒を飲んでいたとは。なんというタイミングかと男は冷や汗を流す。

「てめぇの顔、そして水迅断の名は覚えたぜ! この借りはきっちり返してもらう!」

「それが嫌なら、弁償代と迷惑料を合わせて200万エルク包んでくることだ」

「に……!? ふざけ……」

 ガードンは巨体に似合わぬ自然な動作で男に距離をつめると、その右腕を掴む。

「へ……」

 そのまま握力にものをいわせて腕の骨を折った。

「ぎゃああああああ!!」

「ふん……さっさと出て行くんだな。そして金を持ってこい」

「お……覚えていろ……! 俺にこんなことをして、ただで済むと思うなよ……!」

「先にここを荒らしたのはお前たちの方だ。おら、さっさと仲間を連れて出ていけ。おい、お客様のお帰りだ! 運んでさしあげろ!」

「へ、へい!」

 アックスの指示を受け、黒狼会の者たちは大男たちを店の外へと運び出す。静かになった店内で、アックスは残った客たちに向けて声をあげた。

「どうも、ご迷惑をおかけしてすみませんねぇ! お詫びに、今いるお客様方のお代は我々黒狼会がもたせていただきます! 今夜は心ゆくまでお楽しみください!」

 客やスタッフたちは酔いがさめていたが、アックスたちの強さと気前の良さを前に、心がいくらか弛緩する。中には拍手を送る者もいた。

 いつかこういう事態がくることは分かっていた。そのため、ヴェルトはあらかじめいくらか予算を割いていたのだ。

 アックスとガードンの表情は明るく、心も弾んでいる。

 だがそれはごろつきをノックダウンさせたからでも、気前よく振る舞ったからでもない。これから始まる戦いの予感に、胸を躍らせた笑みだった。
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