黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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皇帝陛下との対談

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 ウィックリンの言葉に、ロイたちは再び驚いた反応を示す。だがクインたちは平然としていた。どうやらあらかじめ聞いていた様だな。

「それは俺たち6人に……という意味ですか?」

「そうだ。いきなり6人は難しいから、折を見て1人ずつという形になるが……」

 結社の狙いはアデライア。そのアデライアをどう守るかを考えた結果なのだろうか。

 実際、複数回に渡って皇族の危機を救っているのだし、これまでの黒狼会の貢献も考えると、妥当な提案なのかもしれないが……。アックスは驚きつつも口を開く。

「そういや元々ヴェルトは、幻魔歴でも貴族になるはずだったんだよな? いろいろあって結局今に至るけどよ」

「ああ……そういやそうだったな」

 ノンヴァード王国との戦争が終われば、群狼武風の隊長格には貴族位が与えられる予定だった。

 まぁアックスたちも魔法の祝福を受けた訳だし、みんなまとめて貴族になる可能性も高かったと思うが。
 
 だがウィックリンの提案に対し、俺の答えは決まっている。

「ありがたいお言葉ですが。謹んでお断りします」

 はっきりと拒否の意思を示す。これにはウィックリンを始め、エルヴァールたちも驚いていた。

「……理由を聞いても?」

「今さら……てやつですね。俺の出生はご存じでしょうが、もう貴族としての作法なんてとうに忘れています。正直言って、今の方が楽なんですよ。第一、貴族位を得たところで、帝国に心から忠誠を誓える自信もない。何より。俺たちは貴族になるために黒狼会を作ったんじゃあない。ここは群狼武風団長、ローガの夢を叶える場所でありその手段だ。黒狼会でなければできない事もある」

 もっと言うと、貴族になっていろいろ縛りの多い生活をするのもうんざりなのだ。

 せっかく黒狼会を今の良いポジションにつけたのに、どうして自分から苦労と義務を背負いこむ真似をしなくてはいけないのか。

「ですが何かしら、帝国の力になりたいと思っているのも事実です。黒狼会は黒狼会として、その立場を使い。これまで通り連携していく方が、互いのためかと思います」

 俺は一応みんなにも視線を向ける。答えは分かっているが、聞くだけ聞いてみる。

「一応聞くが。お前らはどうだ? 貴族になりたいのなら止めないが……」

「はは。ばか言え」

「じゃの」

「僕たちが仕えるのは、あくまでヴェルトさんですからね」

 ま、そういう事だよな。だがこのままウィックリンの顔に泥を塗るだけの結果にするのもまずい。一応体裁は整えておく。

「心配しなくとも、ここには私の家族もいますからね。皇族を守りたいという気持ちにも偽りはない。他国に移って魔法の力を振るうつもりはありませんよ」

「……そうか。残念だが、私では彼の群狼武風を仕えさせるには役不足だろうしな」

「そういう訳ではありませんが。少なくとも無暗に戦火を広げないという、そのお考えには賛同していますよ」

 普通なら平民が、皇帝の好意を断るなんてあり得ないだろう。だがウィックリンはあくまで群狼武風としての俺たちに用があった。

 そして俺たちはもはや、帝国においてただの平民ではない。他に代用の利かない、魔法という力を現在に伝える元傭兵だ。

 今も伝説として語り継がれる群狼武風という事もあり、その立場はある意味で確立されている。

「いや、よいのだ。そもそも貴公らほどの者を臣下として迎え入れたとして、十分にその実力を活かせる環境を作れるのかという疑問はあったのだ」

「……騎士団に入り、アデライア殿下を守ってほしいとの事でしたね?」

 そのための手段として、貴族位の話が出てきたのだ。だがアデライアを守るだけであれば、無理して貴族になる必要はない。

 そもそも結社を潰せばそれで終わる話でもある。それはウィックリンも分かっているはず。その上で今回の話を持ちかけてきた意図は何だったのか。

「実は今、宮中では少しややこしいことになっていてな」

 ウィックリンの言葉をエルヴァールが引き継ぐ。

「地方へ行ったハイラントだが、再びその影響力を行使しだしているのだ」

「ほう……こりない方ですね。ですが今は、エルヴァール殿の方が優勢なのではないのですか?」

「少し前まではな。だがそうも言っていられない事態が起こったのだ」
 
 エルヴァールは難しい表情で言葉を続ける。

「実は先日、かつての魔法を今の世に復元させる研究を進めたいと言ってきたのだよ」

「それは……」

 見え透いた……というか、今のタイミングではあまりにも出来過ぎた話だ。確実に結社と何かしらの取引をしている。むしろ結社との繋がりが濃厚過ぎて、笑いすら出てくる。

「情報部も結社の情報は当然ご存じなのですよね? クインは結社の魔法使いもどきとも交戦した。今、結社が帝国にいるのは事実。そんな時期に、魔法の研究をしたいと話しだすとは……」

「ああ。裏で糸を引いているのは結社だろう。だがここで大きな問題もある。結社の存在は、多くの貴族は知らないのだよ」

 言われて思い出す。影狼を取り仕切っているフィアナも、結社の名を出す時は慎重だった。

 俺たちは冥狼と正面からやり合う様になった都合上、その存在を知ったに過ぎない。

「そしてヴィンチェスター殿は実際、いくつか大幻霊石の破片を所有していてね。それらを用いた研究を、この帝都で進めたいと進言してきたのだ」

「……まさかそれを素直に聞き入れになられた?」

「素直に……とはいかないとも。だが結社の存在を知らず、音楽祭での騒ぎを知る者からすれば、そういう超常の力を帝国のものとして発展させたいと考える。むしろその技術を他国が完成させる前に、帝国のものとして確立したいと思うだろう」

 段々何が言いたいのか分かってきた。ウィックリンも頷きながら口を開く。

「既にハイラント派は研究所を作るために動いていた。派閥としては金も持っている。それにテンブルク領で完成させたという試作品の槍も見せられたのだ」 

「槍……ですか?」

「うむ。その槍は見た目は少しごついだけの槍なのだが。柄の部分にカートリッジを差し込むと、矛先が高熱を帯びる仕組みになっているのだ。これには大幻霊石の破片を材料として組み込んでいると話していた」

 実際の成果物を見せられ、これはすごいと話に乗っかる貴族が予想よりも多かったのだろう。中には自分もこの魔法染みた力が欲しいと考える者もいたはずだ。  

 とにかくヴィンチェスターはそういう連中も利用して、帝都に研究所を作るという意見を大きくした訳だ。

 エルセマー領から帰ってから今日までの間で、そこまで動いていたとは。さすがに貴族の舞台では戦えないため、黒狼会ではどうしようもないな。

「結社の存在を明るみに出すというのは?」
「それも考えはしたが。やはりリスクの方が大きいと判断した」

 結社は暗殺組織である閃刺鉄鷲を傘下に収めている。相手は帝国の威光など全く通じず、白昼堂々と皇族の姫をさらおうとする連中だ。下手に動くと、今はなりを潜めている結社がどう動くかは分からない。

 加えて貴族の中には冥狼といった裏組織ではなく、結社と直接繋がっている者もいるかもしれない。

 現にヴィンチェスターがこうして堂々と魔法の研究を唱え出したのだ。どこで結社に情報が筒抜けになるかも分からない。

 そうした諸々のリスクを考え、結社の存在を公表するのはストップしたとの事だった。

「現に音楽祭では、貴族に犠牲者が出ていますからね。確かに下手にその存在を表に引きずり出すと、どう動いてくるか分かりませんか……」

「うむ。実際、結社の戦闘員は1人1人が精鋭騎士以上だったと聞く。なりふり構わず、正面から堂々と仕掛けられて困るのはこちらなのだ」

 これも分からないでもない。戦場での戦いとは違い、少人数でゲリラ戦を仕掛けられては、騎士はその本領を発揮しづらい。

「事情は分かりました。じりじりと距離を詰めてきた結社に対し、どうアデライア殿下を守るか。それを考えての提案だったのですね」

「そうだ。先代皇帝であれば、一喝してヴィンチェスターとその取り巻きの権勢を大きく削いでいただろうが。私にはそこまでの力がない。結社がヴィンチェスターを利用して距離を詰めてきていると分かっていながら、何も有効な手を打てずにいるのだ……」

 まぁ何となく優し気な雰囲気のある人だしな。皇帝としての強権を振るいづらいのだろう。 
 
 下手な行動に出ると、貴族たちの不満があふれ出る。そして先代とは違い、自分ではその不満を上手くコントロールできないと考えてもいる。

 自分の能力がよく見えている分、余計に行動に移しづらいのだろうな。

「ヴィンチェスターは今、テンブルク領に身を寄せている。テンブルク領の領主であるガリグレッドと結社の関係は定かではないが、全くの無関係とも言えないだろう。だがわざわざ危険だと分かっていながら、ヴィンチェスターの研究を帝都で認める訳にもいかぬ。そこで研究は認めざるを得なかったが、帝都で行うにはもう少し具体的な成果を出してから……という条件を設けた」

 研究部門の設立自体はヴィンチェスターの根回しもあり、止められなかった。だが帝都への帰還は拒んだ様だ。

「そもそもヴィンチェスターが帝都を出たのは、公表はされていないものの音楽祭での責任を取っての事だ。あの事件と無関係だったとはいえ、事を起こした冥狼と関係を持っていたのは事実。今も冥狼に恨みを抱いている貴族は多いのだ」

 多くの貴族が亡くなったからな。ヴィンチェスターは魔法の研究というカードを手にしたが、弱みを握られているのも事実。冥狼との関係を明るみにされれば、もう帝都で暮らせないだろう。

 しかしそれはハイラント派閥の崩壊にも繋がりかねない。以前エルヴァールが話していた通り、崩壊後のリスクも考えて、ヴィンチェスターは今の形に落ち着いたのだ。

 やっぱり貴族というのはややこしい。それが大陸の覇者である帝国ともなれば尚更だろう。

「研究は認めざるを得なかったとおっしゃいましたね。どこで行われるのです?」

「ルングーザ領だ。研究所をどこに作るかという話になった時、一番に手をあげたのがルングーザだった」

 あの野郎……。ルングーザも外様とはいえ、大領地であり上級貴族だ。大貴族であるヴィンチェスターを迎え入れるには十分な格を有している。だがそうなると、しばらくは相手の出方を見るしかない様にも思えるな。

 アデライアが狙いの1つなのは間違いないが、それ以外にも目的はあるはず。そもそも結社はアデライアを具体的にどう利用するつもりなのか、それすら分かっていないのだ。

「ふん……ルングーザというのは気に食わないですが。一旦距離を離す事には成功したのでは?」

「一方で、相手に何かの準備期間を与える事にはなってしまった。すでに情報部をルングーザ領に忍ばせている。奴らがあの地で何を成そうとしているのか。それを探るのが先決であろう」

 それについては同意見だ。しかしここまでややこしい話になるとは。この未来が分かっていれば、音楽祭のどさくさに紛れてヴィンチェスターとルングーザをやっていたかもしれない。

 この話は帝国にとってメリットがあるという点も、複雑さを増している要因になっている。少なくとも結社由来である大幻霊石の破片……エルクォーツについてのデータを、帝国の公式記録として残す事が可能になる。ヴィンチェスターを通じて、その技術の一部を手にできる可能性があるのだ。

 結社以外にエルクォーツの研究が進んでいないという前提で話をすると、この事実は帝国を強くするだろう。大陸において、増々その地位を強固なものにするはずだ。

 だが時を与えすぎると、多くのデータと引き換えに結社は何かしらの準備を帝国内で進めていく。それはそれで業腹だろう。話を聞いていたじいさんはうんざりした様に口を開いた。

「面倒な話じゃのう。いっそわしらでその研究所を結社の連中もろとも潰す……というのはどうじゃ?」

「じいさん……相変わらず血の気が多いな……」

 俺もそれは少し考えたが、実行するにはいくつかの高いハードルが存在する。その事を説明する様に、クインは口を開いた。

「群狼武風の皆様であれば、確かにそれも可能でしょう。しかし相手は既に黒狼会の事を認知しています。もし1人でも取り逃せば、誰かしら繋がっている貴族を通じて、黒狼会を糾弾してくるはずです。帝国の未来を支える技術を研究している神聖な場を、黒狼会という賊が荒らしたとね。そしてその賊はエルヴァール殿を始め、今や多くの貴族と距離が近い……」

「そういう事か。本当に貴族というのは面倒じゃのう……」

 つまり黒狼会が何かへまをやらかすと、エルヴァール一派に大きな隙を作ることになりかねない。
 
 暴力がモノをいうステージであれば、黒狼会はほとんど無敵だろう。だがそのステージを整えずに行動に移すと、別のステージでの戦いを制する事ができない。

 その別のステージ……権力や金がモノ言う舞台での力を手にするため、エルヴァールとはある程度の付き合いができている。それが裏目に出る形だ。

「私たちがいた時代とは戦い方が違うっていう事だねー。下手打って帝都に住めなくなるのも嫌だしー」

「……アデライア殿下を守るのに、黒狼会の人手が必要なら言ってください。ですが現状、こちらから仕掛けられる事はなさそうですね」

 貴族のステージに黒狼会は干渉しづらいからな。しかしウィックリンとエルヴァールは政治に対する考えが近く、ここに黒狼会を交えて騎士団とも意見を調整できた。それだけでこの会合には大きな意味があったと言えるだろう。

 舞台ではアルグローガに扮した俳優が、4人の王たちに自分の築く国家像を訴えているところだった。

「結社の動向は可能な限り、こちらで追ってみよう。また時を越え、再びこうして群狼武風の力を借りる事。我ながら不甲斐ないとは思うが、どうかよろしく頼む」

「構いませんよ。帝国の繁栄は俺たちの望みでもありますから」

 ウィックリンは本当に時間が押していたらしく、俺たちに改めて挨拶をした後、個室を出て行った。残った俺たちにディナルドは語り掛ける。

「……ウィックリン陛下には幾人かの妻がおられるが。それも国内における貴族間でのパワーバランスを考えての事なのだ」

「大国ゼルダンシア帝国の為政者だからな。そこは理解できるが」

「だが中には、本当に愛されている方もおられる。その女性との間に生まれた子こそがアデライア殿下なのだ」

「……なるほど」

 アデライアには特別に気をかける理由があるという事か。おそらくアデライアも、ウィックリンを強く信頼している。だからこそ俺たちの事を話したのだろう。

「じいさんの提案、さっきはああ言いったが。手段を選べなくなった時は言ってくれ。体裁ばかり気にして気付いた時には遅かった……なんて事、避けたいだろ?」

「……そうならない様に、騎士団も務めるだけの事だ」

 まぁそうだな。とにかく現状では俺たちにできる事は少ない。今は冥狼亡き後の帝都の裏組織再編に尽力するとしよう。
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