黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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ヴェルト教師

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「ヴェルトさま……! お久しぶりです……!」

「おう、アデライア。ディアノーラも」

 俺は今、例によっていつもの劇場に来ていた。ここでアデライアに、当時の幻魔歴について教えてやってほしいと、ウィックリンから依頼を受けたのだ。

 何でも近く帝都に来る、フォルトガラム聖武国の王女に関連する事らしい。

 俺自身当時の歴史に特段詳しいという訳ではないのだが、簡単な内容で構わないという事と。俺もアデライアに聞きたい事があったので、この話を引き受ける事にした。

「それにしてもここ、使われ過ぎじゃないか……?」

 今はいつもと違って何も劇は行われていない。客も入っておらず、静かなものだった。

 まぁ皇宮に俺みたいな奴を招く訳にもいかないし、エルヴァールの屋敷で待ち合わせしても、何故皇女が一貴族の家を訪ねているんだ、と噂になる。そういう意味では使いやすい場所なのかな。

 俺はアデライアたちと今日までの事を簡単に話しつつ、本題に入る。といっても、話せる事は本当に少ないのだが。

「実は今、フォルトガラム聖武国の歴史書に目を通しているのです」

「へぇ、あの国の歴史書ねぇ。興味あるな」

「大陸で出版されたものなので、そこまで詳細な訳ではありまんが。でもここに群狼武風の名前が出てきたのです」

「どれどれ……」

 俺はアデライアの指さす部分に目を通す。そこには確かに群狼武風の事が記載されていた。ついでにガーディンの名も出てきている。

「確かに書いてあるな……」

「群狼武風の皆さんは、かつてガラム島にいたのですか……?」

 俺は幻魔歴に居た時の事を思い出す。確かにそういう話は聞いた事があった。

「ああ。鍛冶師のガーディンとはしばらく一緒に旅していた時期もあるらしいからな。その時の縁で、ガーディンは群狼武風の面々にいろいろ武具を打ってくれたって聞いたな」

「……? ヴェルトさまは……?」

「ああ、俺が群狼武風に入ったのはその後だ。多分じいさんとガードンはガラム島にも渡っていたと思うが……」

 ゼルダンシア王国に雇われる前の群狼武風について簡単に話す。俺が群狼武風に入った時はすでにそこそこの規模になっており、領主に雇われる事が多くなっていた。

 だが群狼武風を立ち上げた当初は、商人の護衛や村の自警団代行みたいなことをしながら日銭を稼いでいたらしい。

 本格的に戦場に出る様になったのは、しばらくしてからだと聞いた事があった。

「群狼武風がガラム島にいたのは俺が入る前だな。ガラム島にも大幻霊石があった時代もあるしな。いろいろ稼ぐ機会があったのか、それともガラム島の職人が鍛えた武具が欲しかったのか。なんにせよ一国という立場で、正式に俺たちを雇ったのはゼルダンシア王国が初めてだ」

 そうして数年間は南方の戦場で戦い続けていた。今思い出しても血なまぐさい時代だったな。

「ではフォルトガラム聖武国の王族と懇意の間柄ではなかったのですね」

「多分な。ローガたちからそういった話は聞いた事がないし。というか当時で王族と繋がりを持とうと思えば、戦場で誰もが知っている様な英雄でもなければとても不可能だ」

 腕っぷし一つで成り上がれる時代ではあったが、誰でもという訳でもない。ゼルダンシア王族と接点を持てたのは、やはりローガという英雄と群狼武風という傭兵団が揃っていたからこそだろう。

「ガラム島について俺から答えられることは少ないな。じいさんでも連れてこようか?」

「い、いえ……」

 アデライアにはその後も簡単に当時の話をしていく。なるべく各国の情勢や政治方面、それに大幻霊石の位置づけなどに話題を絞るが、やはり血なまぐさい話になりがちだった。

「まぁこんなところか。あまり参考にならなかったんじゃないか?」

「そんなことありません。当時の光景が目に浮かぶようでした……!」

 退屈な話になったんじゃないかと思っていたが、どうやら満足いただけた様だ。一応金を貰っているしな。それなりの働きは示さないと。

「そうだ、アデライア。実は聞こうと思っていた事があるんだ」

「私に、ですか? なんでしょう」

「皇族に昔から伝わる歴史書……というほど厳格でなくてもいいか。何かしらの資料とかって残されていないか?」

 俺はアデライアとディアノーラに、今は幻魔歴よりもさらに昔……幻想歴の時代について情報を集めていると事情を話した。

 きっかけになったのは、レクタリアによって放り込まれた謎世界。そこで出会った人物であると話す。

「三女神……」

「どこまで本当の話かは分からないし、自称女神だからな。全てを鵜呑みにする訳でもないが。しかし時限付きとはいえ、俺に新たな魔法を授けたのは確かだ。それもあって、ちょっとこの世界の昔が気になってな。ゼルダンシアは大陸で現存する国の中でもかなり歴史は長いし、幻想歴時代の資料が何か残されていないかと思ったんだ」

 アデライアは少し考えこむ仕草を見せる。そしてその赤い眼を俺に向けてきた。

「ない訳ではないのですが……」

「ですが?」

「幻想歴の資料が残されているかは分かりませんが……城の一部に、昔からの資料を残している部屋はあるのです」

 アデライアが言うには、皇族か皇族から許可された学者のみが立ち入りを許される部屋があるらしい。

 そこには昔からの資料の他、今も学者が書いたおおよその記録を保管しているとの事だった。

「入れるのは皇族か学者のみか……」

「いえ、ヴェルトさまならどうにかなるとは思うのです。ですが部屋の資料自体が、時系列に整理されている訳でもないので、どこにどんな資料があるのか誰も把握していないのです。その上、中には昔の表現が多く使われているものもありまして」

「読みにくい上にいつの時代のものかも分からない、か」

 アデライアはこくりと頷く。せっかく貴重な資料を残していても、それを時系列ないし分類別に分けて保存していなければ、宝の持ち腐れだな。

 もったいない気はするが、それだけ必要とされてこなかったのだろう。

「しかし詳しいな。アデライアはその部屋に入ったことがあるのか?」

「いえ。私は入ったことがないのですが。お姉さまの1人にそういう研究が好きな方がおられるのです。その方に少し聞いたことがありました」

 どうやら勉強好きな皇族がいるらしい。しかしお姉さまの1人ってなかなか斬新な表現だな。それだけ皇子や皇女の数が多いのだろうが。

「もしよければ、一度その部屋の資料を読ませてくれないか? どれくらいのものなのか、確かめてみたい」

「分かりました。お父様に相談してみますね」

 実際に見てみて、読めなさそうだったら諦めよう。

 しかし民間の考古学者は、まずゼルダンシア帝国が保管している資料なんて読める機会がないだろうからな。この話を聞けば羨ましがるだろう。

 そう考えていると、ディアノーラは小さく笑った。 

「ふふ。ヴェルト殿は歴史好きなのだな」

「好きというかなんというか。だがそうだな。少なくとも幻魔歴に飛んでいなければ、俺に学習意欲なんてものは身についていなかっただろう」

 自分からいろいろ知識を求める様になったのも新鋼歴に戻ってからだ。知識はいつ自分の身を助けるか分からないからな。それに実際面白いと感じているのも確かだ。

「お前たちもいつ幻魔歴に飛ばされてもいい様に、日ごろから勉強しておいた方が良いぞ」

「それは少し笑えないな……」

 ディアノーラは苦笑しているが、アデライアは柔らかく微笑んだ。

 その後は最近城であった話など雑談を交える。その中に少し気になるものがあった。

「フォルトガラム聖武国の王女が、予定よりも少し早く帝都に来る?」

「はい。連日早馬による報告が入っていると聞きます。途中で寄った領地で何か機嫌を損ねる様な事をしたという訳でもなさそうなので、単純にはやく帝都を見たい様なのですが……」

「ふーん。せっかちな姫さんなのかねぇ」

 だが長年関係が悪かった帝国に乗りこんでくるくらいだ。フォルトガラム聖武国の国王も信頼して送り出しているはず。つまり能力は相応に高いと考えるのが普通だろう。

 ディアノーラはアデライアの言葉を引き継ぐ。

「それに王女殿下は自身が連れてくる騎士と、剣による親善試合も望まれていてな。こちらもその人選をどうするか頭を悩ませておるのだ」

「随分武闘派な姫様だな……」

 試合の組み方にもよるが、これは判断が難しいだろう。要するに大国として華を持たせるのか、徹底的に潰すのか、という判断が必要になるのだ。

 ウィックリンなら華を持たせる選択も選びそうではあるが、騎士団としてはそうはいかないだろう。間違っても騎士同士の試合で、ゼルダンシア帝国が負けたという経歴は残したくないはずだ。それが親善試合だったとしても。

「で、早く到着する姫様を建国祭までの間、どうもてなそうかという問題もある訳だ」

「はい。帝都滞在中は皇宮に泊まられるので、おそらく私たちが対応する事になると思うのですが……」

「そりゃ大変だ」

 数多くある貴族の義務の1つだな。やはり俺には今さら貴族なんてできそうにない。

「ヴェルトさまは建国祭時、迎賓館に来られないのですよね……?」

「ああ。辞退の方向で考えている。さすがにそんな物騒な王女様がいる場に顔を出す気にはなれねぇって」

「そうですか……。できれば来ていただきたかったのですが……」

 と、言われてもな。ディアノーラも苦笑している。

「俺も黒狼会のことがあるからな。それにもうアデライアを狙う奴もいないだろう。ま、それでも不安だって言うのなら。また仮面でも付けて護衛してやるよ」

「……はい」

 あの仮面を付けている間は、俺はウィックリンの秘密部隊の一員という扱いになるからな。これはこれで便利なカムフラージュを手に入れたのかもしれない。
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