黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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路地裏の戦い

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 世界新創生神幻会のディンとアニス。彼らはメニアの魔法で帝都に運んでもらい、フランメリアの捜索を行っていた。

 捜索と言っても、そう大したことではない。その居場所自体は既に掴んでいるのだ。ディンは建物から出てきたフランメリアたちを前に、安心したように口を開いた。

「ああよかった。こうして無事に見つけられて本当に安心したよ」

「グリノの言ったとおりだったね」

「私の移動魔法、その制限の範囲内で良かったわ」

 3人を前に、フランメリアとアーノックは素早く剣を引き抜く。そしてエルナーデとレイグは懐から短剣を取り出した。

「あなたたち……! どうやってここが……!?」

「言っても信じないよ。でもまさか本当に貴族街から逃げられていたなんてね」

「答えなさい! あなたたちの目的はなに!? どうしてこんな真似を!? 誰の指示で動いているの!?」

 ディンの実力は既に見ている。フランメリアたちは最大限の警戒心を以て接していた。

「さぁ……。でもここに来た目的は1つ。あなたの命です」

「……! あの時は私を殺さなかったのに、今さら私を狙うと……!?」

「はい。せっかく事が進んだのに、まだ両国は互いに戦争への本気度を探っている状態です。そこで決定的な材料を作ってこいと言われたのですよ。そうすれば王も決心せざるを得ないからと……」

 ディンの物言いにフランメリアは違和感を感じとる。その違和感の正体は少し考えて直ぐに分かった。

「まさか……聖武国の貴族の指示……!?」

「え!?」

「姫様、それはどういう……」

「帝国貴族であれば、ウィックリンの事は皇帝陛下と呼ぶわ。間違っても王などとは呼ばない。ここで王と呼ぶ人物がいるとすれば……!」

「聖武国の王、アーランディス国王陛下……!」

 裏で糸を引いているのは、帝国貴族ではなく聖武国の貴族。その想像も無かった訳ではない。

 だがこうして口に出されると、フランメリアは自分が考えていたよりも大きな衝撃を受けた。

「ディン。喋り過ぎよ」

「そうだね。でも何も知らずに死ぬというのも可哀そうだと思ってさ。……アニス」

「ええ。……ここに顕現せよ! 炎閃槍フェルニール!」

 アニスは両手を掲げて大きく叫ぶ。するとその全身が強く輝きだし、光は一点に集うとやがて1本の槍を形作った。

「な……!?」

「なに……!?」

 その槍はあの日、帝国騎士たちを殺した物と同じものだった。ディンはその手に槍を掴む。瞬間、右手の甲に何かの紋様が輝く。

「はっ!」

 続けてその場で軽く一振りする。すると槍の先端には実体を持たない赤い光の刃が生まれた。

 目の前で起こる超常現象を前に、フランメリアたちは理解が追い付かない。

「なにが……!?」

「お前たちは一体何者……!?」

「最後にお教えしましょう。僕はディン。世界新創生神幻会に所属する、お母さまの忠実な僕。残念ですが、駆者たる僕にあなたたちではどうしようもありません」

 メリアとアニスをその場から動かず、ディンだけ槍を手に近づいてくる。身構える中、最初に動いたのはアーノックだった。

「姫様! こいつは私が押さえます! どうかこの場からお逃げください!」

「アーノック!」

「おおおお!!」

 アーノックは気迫を漲らせ、ディンに突撃する。

 アーノックとて聖武国では上位に数えられる騎士。その剣腕は決して生易しいものではない。しかし。

「…………!?」

 そのアーノックの体重が十分に乗り切った一撃を、ディンは片手に持った槍でしっかりと受け止めてみせた。そればかりか真っ向から弾いてみせる。

 アーノックの腕には強い力が加わり、簡単に両手を上げてしまった。

「ば……!?」

 少年の腕力で雑に弾けるほど、アーノックの一撃は甘くはない。だというのに、この時点で両者の力に明確に差が見えてしまった。

「はっ!」

 ディンは槍を器用に回し、打撃と突きを織り交ぜた連撃を繰り出す。

 アーノックも対槍の訓練は十分に行ってきている。何とか対応してみせたが、ディンはその力だけで無理やりアーノックのガードをこじ開けた。そうして作らされた隙を突き、ディンはアーノックの握る剣を弾き飛ばす。

「そん……!?」

「これで……!」

 次の瞬間、ディンはアーノック右肩を強く槍で叩く。そうして体勢が揺らいだところに左足を上げ、蹴撃を胴体に叩き込んだ。

「ぐぅ……!」

 この一撃を受け、アーノックはフランメリアの足元まで転がされる。

 大の大人が蹴り飛ばされるなんて、互いの体格差からはあり得ない光景だ。それだけでディンの膂力のすさまじさが伝わってきた。

(そんな……!? アーノックの巨体をいともたやすく……!? いえ、それだけじゃない! あのアーノックがまるで赤子のような扱いだった……!)

 フランメリアも一瞬だったものの、今の戦いはしっかり見ていた。

 ディン自身、熟練した槍の使い手という訳ではない。その技量にはまだ拙さと荒さが目立つ。しかし常識外れの力で、その技量をカバーして余りある実力を発揮したのだ。

「アーノック……!」

「ぐ……! すみ、ません……!」

 アーノックは何とか立ち上がろうとするが、足がもつれている。それを見てエルナーデは真剣な表情で口を開く。

「無理せずそこで休むでありますよ。姫様。ここは……」

「ええ……! やるしかないようね……!」

 フランメリアたちは改めて覚悟を決める。逃げたところで、大通りに出る前に簡単に追いつかれるだろう。この窮地を脱するには、ディンを突破する以外にないのだ。

「……欲しいのはフランメリア様の命だけです。邪魔しなければ、フランメリア様以外の方まで命は奪いません」

「アーノック相手に手加減していたとでも……!?」

「ええ」

 ディンはなんでもないように答える。だが実際手加減していたのは事実であった。

 そうできるだけの余裕があったし、本気なら初めから槍で胸板を突いている。

「僕は任務で必要なら誰であれ殺しますが。必要のない殺しまでするつもりはありません。いずれ誰もが、お母さまの忠実な信徒になるのですから」

「誰なのよ、そのお母さまってのは……!」

「僕たちのお母さま。人にとっての救い。神。そういう方です。今から死ぬフランメリア様には関係がない話ですが」

 フランメリアの両脇をエルナーデとレイグが固める。2人とも覚悟を決めた目をしていた。

「姫様……」

「ええ。……いくわよ!」

 3人同時に駆けだす。フランメリアは正面から鋭い突きを、エルナーデとレイグはディンの真横から攻撃を仕掛ける。

 だがディンは攻撃を十分に引き付けたところで、フランメリアたちの想像以上の速度で真後ろへと下がった。

「速っ……!?」

 そして地に足を付けた瞬間。爆発的な加速でレイグへと駆ける。そのまま猛烈な勢いで槍を真横に振るった。

「ぐぅ!?」

 何とか短剣で受け止める。だがあまりの力と衝撃に足で踏ん張ることができず、レイグはそのまま吹き飛ばされてしまう。

 そうして槍を振り切ったところを、エルナーデは地を這うほどに姿勢を低く傾けて接近する。

(いける……!)

 腕が伸び切ったところを狙い、短剣をディンの首目掛けて突き出す。しかしディンは左手で、エルナーデの腕を掴み取った。

「な!?」

「無駄です」

 タイミングは完璧だったはず。しかしありえない反応速度で簡単に腕を掴まれたエルナーデは、なんとかその拘束を振り切ろうとする。

 だがどうあがいてもその手を振りほどく事ができなかった。

(なんという……力……!)

 ディンは掴んだ腕をそのまま強く引っ張り、その場を旋回する。そうして遠心力を十分に付けたタイミングで、エルナーデを投げ飛ばした。エルナーデはまるで玩具のように宙を舞う。

(でたらめが過ぎる……! 単純に力だけで押し負けている……!)

 フランメリアも得意の剣を振るうが、そのどれもが正確に槍で弾かれていた。

 弾き方1つとってもやはり技量の高さは感じない。だが手に伝わる衝撃は相当なもの。

(あまり何度も受けとめられると、剣を握る握力にも影響が出る……!)

 しかし攻撃の手を止める訳にはいかない。少しでも攻撃の手を緩めると、ディンの槍は自分の胸を容易く貫くだろう。

「思っていたよりも強いですね……。油断すればこちらが斬られる」

「白々しい……!」

「失礼」

 次の瞬間、ディンの動きが比喩ではなく倍速化する。突然増えた手数にフランメリアは対抗できない。その剣が弾かれるのは一瞬だった。

「っ……!」

「終わりです!」

 しかしそこでディンの顔面に向かってナイフが飛んでくる。

 一瞬とはいえ、ディンはフランメリアに止めを刺すという事に意識を奪われていた。ナイフはその意識の間隙を突くものであり、ディンは目の前にナイフが現れるまでその存在に気付かなかった。

「…………!」

 咄嗟に槍と身体を引き、ナイフを弾く。その時には既にフランメリアはディンの間合いから後退していた。隣にはナイフを投擲した姿勢で膠着しているエルナーデがいる。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

「……さすがですね。今のは正直危なかったです」

「こ、これもダメでありますか……!」

 絶望。圧倒的な力量差。越えられない壁。

 4人はディンに対して理不尽さを感じていたが、その理不尽に対し怒る事ができなかった。

「一体……! どういうことなのよ……!」

「……戦争のことはどうぞ安心してください。開戦の暁には、僕たちは聖武国の兵として戦う事になります。帝国がいかに強靭な騎士団を要していようと勝利は揺るぎません。僕の実力を見たあなたたちであれば、それはよく理解できるでしょう?」

「…………!」

 ディンの言うこと全てを信用するわけではない。しかしもしそうなった場合。たしかに聖武国には、帝国相手でもどうとでもできる可能性が生まれる。

「たとえフランメリア様がここで死んだとしても。聖武国は残り続けます。そしていずれは、新たな神によって世界は統治されることになるでしょう。ですからどうぞ安心して死んでください。そしてあの世から聖武国が帝国を蹂躙するのを見守っていてください」

「帝国を蹂躙……? そいつは聞き捨てできねぇな」

「っ!?」

 フランメリアとディンたちとは別方向から新たな声が響く。そこには1人の男性が立っており、フランメリアたちに向かって歩いてきていた。

 そしてフランメリアたちはその男を知っていた。

「ヴェルト……!?」
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