黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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王都を覆う影

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「父上……! この状況、いかがされますか……!?」

「んっんー。落ち着け、セオドリック」

 エルオネル・ブラハードは今、ウィックリンに対し心からの称賛を送っていた。

 ウィックリンの発した勅については、聖武国にも直ぐに伝わったのだ。その内容はまったく予想していなかったものであり、エルオネルはウィックリンという皇帝の評価を改めていた。

「我が女神から話を聞いた時はまさかと思ったがねぇ。こんな形で先に仕掛けられるとは。いやはやまったく」

 帝国の皇帝という立場で、他国の貴族を名指しで追及してきたのだ。しかもその内容も全て合っているというのだから、恐れ入るというもの。

(さすがは大帝国の皇帝。アーランディス陛下とは立っているステージが違うか)

 女神は子どもたちを使って、帝都に潜伏するフランメリアを亡き者にしようとしていたが、それは失敗に終わった。

 その話を聞いた時、エルオネルは信じられなかったのだ。何せこの世界に、魔法使いに敵う者などいるはずがないのだから。

(我が女神の話によると、帝都にも魔法使いがいたとの事だった。しかも1人で駆者と顕者の特性を兼ね備えていたという。帝国は女神とは違うアプローチで、魔法使いの創出に成功していたということか……?)

 そもそも顕者は女しかいないし、帝国の魔法使いに関しては謎が多い。だがいろいろ合点がいくところもあった。

(内乱時に姿を見せたという、一騎当千の戦士たち。おそらく帝国産の魔法使いだったのだろう。向こうにも魔法使いがいたのは完全に想定外だったが……。今さら私がやる事に変更はないんだよねぇ)

 アーランディスからは早速追及がきている。何せアーランディスからすれば、寝耳に水の話なのだ。

 自分の娘が帝国の罠にはまったと思っていたら、実は黒幕は自国の貴族ですと指摘されたのだから、たまったものではない。

 聖武国の国王という立場からすれば、ウィックリンの指摘は全て間違いであり、自国では魔法使いを生み出すための人体実験を子どもに施している事実は存在しない。この結論が一番良いに決まっているのだ。

(だけど現実はずばりその通りなんだよねぇ。まったく。このタイミングで先手を打たれるとはねぇ)

 ウィックリンの読み通り、エルオネルは魔法使いなどいないと言うのが難しかった。

 そうなれば戦争が始まったところで、魔法使いの公表ができなくなる。そして魔法使いの戦力がいなければ、戦を仕掛ける聖武国の優位性は著しく低いものとなるだろう。

 今や帝国に対し、一国で正面から戦争を仕掛けられる国など存在していないのだ。

 人口、経済、国力。全てにおいて桁が違うのだから。奥の手でもない限り、戦ったところで勝てる相手ではない。

「父上……!」

「落ち着けと言っているだろう? 私はこれから陛下の招聘に従い、王都へ赴くよ」

「……! 誠ですか!?」

「うん。お前も一緒だけどね」

「え……」

 エルオネルはこれからの行動について、その考えを話していく。セオドリックは段々その顔色を変えていった。

「父上……それは……」

「当初の予定では両軍がぶつかってから、子どもたちを投入する予定だったんだけどねぇ。ここはウィックリンの情報収集力、そして行動力が勝っていた事を素直に認めようじゃないか」

 ウィックリンからしても、世界新創生神幻会に繋がる情報はかなり限られていたはずなのだ。だというのに、具体的に組織名とブラハードという家名を出し、無理やり表舞台に引っ張り出してきた。

 なんとかこの騒動の出口を探っているアーランディスからすれば、渡りに船だっただろう。

(我が女神もどういう訳か、帝国との開戦を少し遅らせてほしいと言っていたしねぇ。帝国の魔法使いといい、何かあったのは間違いないが……)

 それはそれとして、現状を踏まえた上で計画を前に進める。いや、前倒しする。このまま魔法使いという力を使い、王位を簒奪するのだ。

(魔法使いの力をその目にすれば、楽観的に見て私につく貴族はおよそ2~3割といったところかな? そして魔法使いは少数で大軍と同等の戦力に換算できる。2割でも私の陣営に付けば十分だろう)

 アーランディスの娘はフランメリアともう1人いるが、その第二王女と息子のセオドリックの間で婚姻を結ばせる。

 あとはアーランディスとその息子をどこかに閉じ込めておけば、とりあえず形にはなるだろう。エルオネルはそう考えていた。

「んっんふっふぅー。少々ウィックリンという人物を見誤っていたのは確かだね。なるほど、これにヴィンチェスターもまんまとやられた訳だ」

 大帝国の皇帝に相応しい能力の持ち主である。それは認めよう。だが結果は変わらない。

 いずれ天空の都市を支配する女神は復活するし、自分はその名代としてガラム島の支配者に収まる。別に世界が欲しい訳ではない。世界は女神のものだ。

「懸念があるとすれば、女神の復活時期だが……」

「エルオネル様」

 部屋に新たな人物が現れる。その少女はエルオネルの護衛兼愛玩動物として、世界新創生神幻会より借り受けていた魔法使いであった。

「おお、ヤイマ。どうした?」

「お母さまがお呼びです。船の準備が整ったと」

「……! ほう……!」

「ついては、エルオネル様にもご同乗いただきたいとの事です」

「するといよいよか……! おお……! この日をどれだけ待ちわびたことだろう……!」

 エルオネルは感極まった声をあげる。セオドリックもいくらか落ち着きを取り戻していた。

「父上。王都へは……?」

「もはやどうでもよい。初めから我が女神が復活すれば、全て解決する問題だったのだからな。セオドリックよ、お前も来なさい」

 かつて大幻霊石を生み出し、この世界を支配していた女神。その復活が叶えば、自分の立場は国王を超える。何せ女神の名代なのだから。

「新たな時代が幕を上げる……! 人は再び、神への信仰を取り戻し……! 絶対不変の支配者たる僕として、その役割を全うするのだ……!」




 
 フォルトガラム聖武国の国王、アーランディス。彼は今、国内と帝国に対する対応に追われていた。

「エルオネルはまだ王都に来ないのか……!? 返事はどうなっている!?」

「陛下、落ち着いてください。帝国の言う事が真実である保証などどこにもないのです」

「お前はどこまで楽観的なのだ!? あのウィックリンが! 皇帝という位の威信を懸け、勅まで出したのだぞ!? その内容に偽りがあれば、立場を悪くするのはウィックリンの方なのだ! 決して誤れない事態に直面しているという事を、理解しているのか!?」

 ウィックリンから送られてきた書状には聖武国の……そしてアーランディスの将来を左右する内容が記載されていた。

 アーランディスは自国の貴族が魔法使いたちを抱えているなんて事は知らない。その魔法使いたちを生み出すため、子どもたちを使った人体実験をしていたなんて事も当然知らない。

 だが知らないで済ませられる立場ではないし、この事は既に他国にも知れ渡っているだろう。立ち回りを誤れば、アーランディスは大義のない戦争に突入する事も考えられる。

 何より。エルオネルと一組織如きにいい様に手玉に取られ、帝国と開戦しようとしているなど、王族としての矜持が許さないのだ。

(あの策士ウィックリンがここまで具体的に名指しをしてくるのだ……! それだけ強い確信、根拠があるに決まっている! そしてフランメリアの身柄も既に保護されているという……! 何故このタイミングなのかという疑問はあるが、秘密裏にフランメリアを保護した理由については推察できる……!)

 ウィックリン自身が本気でガラム島に攻め込むつもりがないのは分かっていた。何せ騎士団を出立させたものの、その装備は侵攻を目的にしたものではないのだ。

 それにカルガーム領へは入れていない。このメッセージをアーランディスは正しく理解していた。

 だが両国の関係は張り詰めた糸の上に立っている状態だ。フランメリアという要因は、開戦を望む帝国貴族に利用される可能性もある。

 ウィックリン自身それを危惧したからこそ、一旦行方不明という形をとって実は秘密裏に保護した。アーランディスはそう考えていた。

(どこまでがウィックリンの策略なのか分からんが……! しかし活路はある! それにウィックリン自身、エルオネルをどうにかすれば責任は追及しないと提案してきているのだ……! 聖武国としてどうするかを決める前に、エルオネルから事実確認をするのが第一……!)

 どちらにせよエルオネルがいなければ話にならない。だが当のエルオネルはまだその姿を現していなかった。

「くそ……! 冗談ではないぞ……! このままでは……!」

 いつ帝国以外の国が参戦してくるか分からない。場合によってはここで帝国と協調路線を取って、より自国と帝国の距離を縮めようと考える者も出てくるだろう。

 それにエルオネルが抱えているという魔法使いたちがどの程度のものなのか。各国もその動向には目を光らせているはずだ。

(大幻霊石などとっくに失われているというのに……! 本当に魔法使いなどいるのか!? いや、ウィックリンが自分の立場を危うくしてまで嘘をついてくるとは思えない……! やはり何か確証を得ているのだ……!)

 アーランディスはウィックリンの書状の内容について、おおよそ本当だろうと考えていた。

 もし内容に誤りがあれば、今後の立ち回りが難しくなるのはウィックリンの方なのだ。意図してヴィンチェスターに反乱を起こさせ、邪魔な貴族を一掃した策略家であるウィックリンが、そんなリスクを取るはずがない。

「ええい……! エルオネルを無理やりでもここに連れてまいれ!」

「陛下……! しかし……!」

「急げ! 今は一刻を……」

『んふっふー。ごきげんよう、王都フォルトヘイムのみなさん。そして親愛なるアーランディス国王陛下』

「!?」

 不意にその場に声が響き渡る。アーランディスにはその声に聞き覚えがあった。

「エルオネルか!? どこにいる!?」

 皆周囲を見渡すが、どこにもエルオネルの姿は見えない。だというのに、その声は不気味なほど大きくはっきりと聞こえていた。

「へ……! へへ……! 陛下……! 陛下ぁ……!」

 窓際にいた兵士が突如狼狽えだす。その様子を見るに、誰もが普通ではない事態が起こったと感じ取る。兵士は震える声で言葉を続けた。

「そそ……! 外を……! く、くく、黒い、物体があぁ……!」

「落ち着け、何があったのだ!?」

 アーランディスはその場を立つと窓際へと移動する。そして兵士同様、驚きで言葉を失った。

『おお、陛下! そこにおられましたか! ちゃんとこちらの声は聞こえているみたいですな? では高いところから恐縮ですが。私から今回の事態の説明と、交渉をさせていただきましょうか』

 フォルトガラム聖武国の王都フォルトヘイム。その上空には巨大な黒い塊が浮いていた。
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