泥々の川

フロイライン

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団地妻

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「久美子

どないしたんや?」


電話の受話器を置き、首を傾げる久美子に向かって、父の誠が後ろから声をかけた。


「うん。

ちょっと…


姉さんに電話かけてんねんけど、出はらへんねん。」



「姉さんて。」


「マキ姉さん

住吉の団地に住んだはるねんけど…」



「どっか旅行でも行ってんとちゃうんか。」



「この時期に?

旦那さんは、一般のサラリーマンやし、多分お仕事やと思うし。」


「そうか。」


「明日休みやし、ワタシ
ちょっと行ってみるわ。」   



「せやな。

ワシが言えたギリとちゃうけど、そのマキさんいうんに、お前は世話になったんやったな。」


「うん。

そやねん。

今のワタシがあるんも、全部姉さんがいてくれたおかげや。」


久美子はそう言うと、立ち上がった。


「お父さん、早よお風呂入って。」


「えっ
もうそないな時間かいな。

かなわんなあ。」



「ホンマお風呂嫌いやねんから、もう。」


久美子は呆れた様子で、誠を無理矢理立たせて風呂に向かわせた。



翌日、誠を仕事に送り出すと、買い物をし、家事を済ませた久美子は、地下鉄に乗って、マキが住む住之江区粉浜にある公団に向かった。

途中、ケーキ屋に立ち寄り、マキの好きないちごのショートケーキとシュークリームを買い込むと、少し早足で歩いた。


エレベーターを降りてすぐ左側にあるマキの自宅の前に来た久美子はらチャイムを二度鳴らしたが、応答がない。

続いてドアを二度ノックしたが、これもまた応答がなかった。


(留守なのかなあ…)


久美子は仕方なく、しばらく家の前で待つ事にした。


家の前で二十分、ボーっとして待つ久美子だったが、帰ってくる気配もなさそうなので、諦めて帰る事にした。


その時である。
背後のエレベーターが開き、一人の中年男性が降りてきた。

男性は、久美子の方をチラッと見ると、二、三歩近づいて、話しかけた。


「あの、うちに何がご用でしょうか」


と…



「えっ、あの、すいません

ワタシ、友谷久美子と申します。

マキさんの友人でして…
お電話させていただいたんですが、連絡がつかなかったので、直接訪問させていただいたんです。

突然、申し訳ございません。」

と、慌てて一気にここにいる理由を話した。

「あ、いえ

マキのお友達でしたか。




あの、ひょっとしてテレビに出られてる、タレントの友谷久美子さん?」



「あ、そうなんです。」


「なんだ!

そうでしたか!

マキからいつも話を聞いていたんですよ。
一時期、一緒に暮らしてて、そこからスターになったあなたの話を。」


「いえいえ

そんな、スターだなんて、とんでもないです。


あの…

マキさんはどこか出かけられてるんですか?」


久美子が質問すると、男の顔が曇っていくのがわかった。


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