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説得
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「待って下さい」
退出しようと席を立ったまどかを、佐藤はもう一度座らせた。
「新田さん、あなたの気持ちはよくわかりました。
こんな事を無理強いするものじゃないですからね。
では、これだけはここで約束して下さい。
紅陽に必ず勝利し、全国大会への切符を手にする事を」
佐藤の言葉は一々まどかの癪に障った。
「そんな事、やってみなくちゃわからないって言ってるじゃないですか!
私達は負けようと思って練習をしてるわけじゃありません。
全員が勝つために努力してるんです。」
「それはそうですね。
私の言い方が少しまずかったようです。
新田さん、どうか頑張って下さい。
この学園の人集めの事をさっきは言いましたが、そんな事はどうでもいい。
自分達のため、未来のバレー部を担う二年生や一年生、これからウチの学校に入学してバレーボールを始めようとしている子供達のために。
今年結果を残せば、Vリーグからも声がかかるようになると思うし、強豪大学への進学も有利になる。
是非、そうなって欲しい」
佐藤の言葉は、このとき、初めてまどかの心に突き刺さった。
「高山先生」
「なんですか?」
「その薬は本当にドーピングの類のものではないんですね?」
「勿論違います。
あくまでも体を疲れにくくしたり元気にしたりするだけの薬です。
滋養強壮の類だと思ってもらえれば間違いないですよ。」
「わかりました。
私、飲みます。
少しでもバレー部の役に立つのであれば。」
「そうですか。
今、用意しましょう。」
高山はまどかの気が再び変わるのを懸念したのか、手早く自分の鞄から茶色い瓶に入ったアンプルを出してきた。
「先端を折って飲んで下さい。」
手渡されたまどかは、一瞬躊躇したが、意を決してその薬を飲み干した。
味は苦くも甘くもなく、ほぼ無味無臭のものであった。
「一日もすれば効いてきます。」
「効果はどれくらい保つんですか?」
「個人差はあるが、八ヶ月から一年です。」
「そんなに…」
予想以上の効果期間に少し戸惑いを見せるまどかだったが、用件が済んだという事で、ようやく校長室を退出していった。
「校長先生、さすがですね
新田さんを翻意させるとは」
高山が笑って言うと、佐藤はため息をついて肩を落とした。
「いえ、私は教育者としてあるまじき事をしてしまいました。
善良な生徒を騙したんですから。」
「いや、そうとは限りませんよ。
逆に彼女は我々に感謝をする事になるかもしれません。」
「そうであってほしいものです。
私も理事長の圧力に負けてこのような事をしてしまったんですが、せめて我が校が全国大会に進んでくれれば、少なくとも損だけをする人間は誰もいなくなる。」
佐藤はまたため息をついた。
退出しようと席を立ったまどかを、佐藤はもう一度座らせた。
「新田さん、あなたの気持ちはよくわかりました。
こんな事を無理強いするものじゃないですからね。
では、これだけはここで約束して下さい。
紅陽に必ず勝利し、全国大会への切符を手にする事を」
佐藤の言葉は一々まどかの癪に障った。
「そんな事、やってみなくちゃわからないって言ってるじゃないですか!
私達は負けようと思って練習をしてるわけじゃありません。
全員が勝つために努力してるんです。」
「それはそうですね。
私の言い方が少しまずかったようです。
新田さん、どうか頑張って下さい。
この学園の人集めの事をさっきは言いましたが、そんな事はどうでもいい。
自分達のため、未来のバレー部を担う二年生や一年生、これからウチの学校に入学してバレーボールを始めようとしている子供達のために。
今年結果を残せば、Vリーグからも声がかかるようになると思うし、強豪大学への進学も有利になる。
是非、そうなって欲しい」
佐藤の言葉は、このとき、初めてまどかの心に突き刺さった。
「高山先生」
「なんですか?」
「その薬は本当にドーピングの類のものではないんですね?」
「勿論違います。
あくまでも体を疲れにくくしたり元気にしたりするだけの薬です。
滋養強壮の類だと思ってもらえれば間違いないですよ。」
「わかりました。
私、飲みます。
少しでもバレー部の役に立つのであれば。」
「そうですか。
今、用意しましょう。」
高山はまどかの気が再び変わるのを懸念したのか、手早く自分の鞄から茶色い瓶に入ったアンプルを出してきた。
「先端を折って飲んで下さい。」
手渡されたまどかは、一瞬躊躇したが、意を決してその薬を飲み干した。
味は苦くも甘くもなく、ほぼ無味無臭のものであった。
「一日もすれば効いてきます。」
「効果はどれくらい保つんですか?」
「個人差はあるが、八ヶ月から一年です。」
「そんなに…」
予想以上の効果期間に少し戸惑いを見せるまどかだったが、用件が済んだという事で、ようやく校長室を退出していった。
「校長先生、さすがですね
新田さんを翻意させるとは」
高山が笑って言うと、佐藤はため息をついて肩を落とした。
「いえ、私は教育者としてあるまじき事をしてしまいました。
善良な生徒を騙したんですから。」
「いや、そうとは限りませんよ。
逆に彼女は我々に感謝をする事になるかもしれません。」
「そうであってほしいものです。
私も理事長の圧力に負けてこのような事をしてしまったんですが、せめて我が校が全国大会に進んでくれれば、少なくとも損だけをする人間は誰もいなくなる。」
佐藤はまたため息をついた。
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