鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

悪魔の囁き

木本とまどかが校長室に入ると、佐藤校長と高山が待っていた。


「二人とも、試合の後なのに呼び立ててしまって申し訳ないね。」


佐藤は卑屈な笑みを浮かべながら、二人に自分達の対面に座るように言った。

だが、木本は着座するなり、険しい表情で

「私はともかく、新田は疲れています。
早く休ませたいので、手短にお願いできますか。」

と、早口で言った。


「そうですね。

そんなに時間は取らせないから、少しだけ我慢して下さい。」


「はい。」

まどかは、イヤな予感がしながらも、素直に返事をした。


「それでは、高山先生から話をしてもらいますので。

先生、お願いします。」


佐藤に促され、高山が頷き、話し始めた。


「新田さん

この予選のあなたの活躍は、とてもめざましいものがある。
薬の効果を感じていただいてますか。」



「高山先生、お言葉ですが…」

まどかが返事をする前に、木本がすかさず口を挟み、話を続けた。


「少なくとも準決勝までは、あなたが作った薬を使わなくても、普通にやれば苦もなく勝てます。

ですが、決勝の相手になるであろう紅陽には先ずもってして勝てない。

そう判断したからこそ、あなたの作ったわけのわからない薬に頼ったんです。

おわかりですか？」


「ええ。
わかっていますよ。

そして、薬の力を使っても紅陽には勝てないということもね。」


「はっ？」


「私もねえ
プロトタイプの薬を、見切り発車でお渡しした為に、どのような結果になるか、手探り状態な部分もありましたが、ここまで来ると、さすがに色々わかってきました。」


「紅陽に勝てないと？」


「ええ。

新田さん個人でいえば、紅陽のエースアタッカーを上回れると思いますが、バレーボールはチームスポーツです。

他のメンバーの実力が紅陽を下回っているからには、多分…
どう足掻いても勝てんでしょう。」


「だったら、なんで新田にこんな危険な薬を服用させたんですか！」


「もっと伸びると思ってたんですよ。
新田さんの運動能力が。
圧倒的なまでにね。


しかし、そこまでではないとわかった今、対策をせねばならない。」


「あまりにもお粗末ではないですか。
この結果を予測できていなかったなんて。
酷い話じゃありませんか。」


怒りに満ちた木本と、無言で二人のやり取りを聞くまどか。


まどかはこうなる事は薄々わかっていた。

たしかに飛躍的に運動能力が伸びたという実感はあったが、圧倒的にというまでにはならなかった。

高山の言う通り、ならば他のメンバーとの連携が重要となるが、例の副作用の件で、逆に個人頼りのチームに成り下がってしまった。

打つ手なし…

ここにきて、まさにそんな心境に陥るまどかだった。