鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

崖っぷち

「古川」

第四セットが紅陽劣勢で進む中、監督の藤井は、コートを見つめたまま、後ろにいる恵美梨に声をかけた。

「はい！」


「そこで落ち込んでるヒマはないぞ。

最終セットは、またおまえを使う。

準備しておけ。」


「はい」


「心配しなくていい。

このセットはウチが取る。

今必死に戦っているアイツらの努力を台無しにするんじゃないぞ。」


「はい！」


恵美梨は、力強い返事をし、コートの中に目を向けた。


藤井の言った通り、エース不在の中、仲間達は、必死にボールを拾い、攻撃の形を作っていった。

恵美梨が普通に機能しているときには、全て恵美梨にボールを預ければ、簡単に点が取れていた。

しかし、今はそうはいかず、繋いで繋いで相手を崩すバレーをするしかない状況だった。

恵美梨は、胸が締め付けられる思いに包まれながらも、弱気にだけはなるまいと、気合いを入れ直した。


藤井の言った通り、このセットも紅陽が脅威的な粘りを見せ、25-23で取り、最終の第五セットに持ち込んだ。


「古川、アタマから行くぞ！」


藤井がハッパをかける感じで、恵美梨に声をかけた。

恵美梨は、大きく頷くと、コートに出てメンバーとタッチして回った。

「古川、あとはやるしかない

頼んだぞ…」


いつも厳しい言葉しか口から出ない藤井が、初めて、祈るような面持ちで、恵美梨を見つめて呟いた。