鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

修正

恵美梨の強烈なスパイクが相手のコートに叩き込まれた。


「監督！

古川にはちょっと間を取ってやっただけで見違えるような動きになりましたね！」


「いや、何も変わってない。

さっきとな。」



「えっ？」


「近森が理解したのさ。

古川の現時点での打点の高さをな。」



「ってことは、この僅かな時間で、トスの角度、高さを修正したってことですか？」



「そういう事だ。

セッターという、重要ではあるが、一見地味なポジションにいるが…

本当の天才とは近森のような人間のことを言う。

俺は感謝するよ。

近森がこのチームにいてくれたことをな。」


藤井の思惑通り、近森は第一セットでの恵美梨のアタックポイントを瞬時に計算し、この最終セットで完全に合わせてきた。

本当の天才とは、近森のことをいう…


しかし


いつものような全力で打てない恵美梨のスパイクは、ブロックにかかることもあれば、粘り強く拾われる場面も見られた。


それでも、地力を発揮した紅陽が、この試合で初のマッチポイントを迎えた。

相手のスパイクを身を乗り出して拾い、近森にボールが回ると、恵美梨の走り込んでくるコースに、絶妙のトスを上げた。

藤井は、体を硬直させ、恵美梨の動きを目で追った。


（よし！）


現状では、最高の踏み出し、打点、身のこなしを見せた恵美梨は、渾身の力を込めて、力強いスパイクを打ち込んだ！

恵美梨のボールを叩く音が場内にこだました。




だが、ボールは恵美梨の着地した地点から、少し左に離れたところに落ちていた。


ブロックにかかってしまったのだ。


「14-14」


デュースとなり、決着をここでつけられなかった。


紅陽側の誰もが、やはり、流れが来ていないことを感じ、依然として重苦しい空気の中にあった。