半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。

深嶋(深嶋つづみ)

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第二章 「中学二年生」

第4話 診察

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 二週間に一度、佑月は大学病院に通っている。
 番解消のための治療とカウンセリングを受けるためだ。

 今日は午前中だけ学校の授業を受けて、午後は早退し、佑月は一人で大学病院を訪れていた。

 大学病院での治療は内服薬や点滴薬、注射薬といったものが中心だ。
 注射はあまり得意ではないけれど、未来を取り戻すためと思って毎回我慢して耐えている。

 毎回何種類もの検査があるので、受診するといつも半日ほどはかかる。
 病院に拘束される時間は長いけれど、周囲の大人たちはみんな親切で優しいので、通院をそれほど負担には感じていなかった。


「ねえ、先生? この治療っていつくらいに効果が出るんですか?」

 回転する椅子に座って、身体を左右に揺らしながら佑月がそう訊ねると、パソコン画面を睨んでいた主治医の雨宮は思わずといったふうに苦笑した。彼の目尻に、小さなしわが刻まれる。

 雨宮の背後に佇んでいる、薄ピンクの服に身を包んだ中年の女性看護師もうっすらと笑みを浮かべていた。

 白を基調とした診察室には、部屋の奥にある大きな窓から穏やかな春の光が差し込んでいた。

「残念ながら、それは私にもわからないんだ。でも早く効果が出ると良いなとは思ってる。佑月くんは治療をとても頑張ってくれているから、きっと早くに結果が出るんじゃないかなと予想してるよ」
「自分で言うのもあれですけど、僕、頑張ってると思うんです。毎回、痛い注射を何本も我慢してるし」
「泣かずにいつも耐えてくれているよね」
「でも、あの注射とか点滴ってやっぱり痛いんです。あと何本あの注射を我慢したら番関係が解消されるのか、教えてくださいっ」
「うーん、それはむずかしい質問だねぇ」

 雨宮は腕を組んで、佑月のほうに振り向いた。
 眉をハの字にしてちょっぴり困った顔をしている彼は、医者というよりは、近所の優しげなお兄さんといった雰囲気だ。
 生まれつきだというくるくるの髪を彼はよく恥ずかしがっているけれど、茶色く染め、きちんとセットされたそのヘアスタイルは、佑月からしたらオシャレパーマにしか見えないから羨ましい。

 雨宮は珍しいオメガの医師である。しかも非常に優秀な医師らしい。
 佑月にそう教えてくれたのは、この病院のオメガ科の受付にいる若い女性看護師だ。

「焦ってはいけないよ、佑月くん。この治療はゆっくり、慎重に取り組んでいかなくてはならないものだからね」

 聞きわけの悪い子どもを宥めるような声色で雨宮が言う。
 佑月は唇を尖らせた。

「でも、ゆっくりやってたら僕の青春が終わっちゃうじゃないですか! 僕は早く普通のオメガに戻りたいんです。好きな人とたくさんデートして、セックスもしたいんですってばっ」
「佑月くん、今好きな人がいるんだ?」

 雨宮がわずかに目を丸くする。
 ふふん、と得意げに佑月は笑みを浮かべた。

「そうなんです。僕の好きな人はね、とってもとってもかっこいいアルファの高校生なんです。モテモテのアルファの男の人を虜にするには、オメガフェロモンが必要でしょう?」
「え? あー……フェロモンに頼る恋愛は、私は良くないと思うけどなぁ。というか佑月くん、まだ中学生だろう? 主治医としては、佑月くんにはもっと健全な方法で恋愛を楽しんでほしいよ」
「今はまだ健全な恋愛しかできないんだから、心配無用ですっ」
「あははっ、そうだったね。ごめんごめん」

 笑いながら身体の向きを変え、再びパソコン画面を見つめ始めた雨宮の横顔に、佑月はもう一度質問をぶつけてみる。

「だからね先生? いつになったら僕は好きな人とセックスができるのか、知りたいんですっ」
「うんうん、さっきも言ったけど、治療には時間がかかるからさ。ゆっくり焦らずに取り組んでいこうね?」

 大人の笑みにまんまと丸め込まれる。雨宮の背後で、女性看護師も大きくうなずいていた。
 佑月はぷくっと頬を膨らませた。
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