半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。

深嶋(深嶋つづみ)

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第三章 「高校二年生」

第17話 旅立ち②

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 年が明けてしばらくして、夏原は留学したらしい。

 桜が咲くころに一度連絡があって、短いメッセージには画像が添付されていた。

 三角形が重なったような不思議な形状の屋根を持つ建物、その背後には高層ビル群が並び、手前には穏やかな紺碧の海が広がる美しい風景写真だ。
 どうやら留学先で夏原が撮ったものらしかった。
 
 それからも数か月に一度、夏原からはメッセージと写真が届いた。

 彼の意図はわからなかったが、海の向こうにある遠い国の風景を眺める時間は嫌いじゃなかった。

 自分とは縁もゆかりもない名も知らぬ街の景色が、夏原を介すことでリアルさを帯び、より生き生きと輝いているようにも見えて。
 彼が撮った風景写真を眺めていると、少しだけ、本当に少しだけ、わくわくした気分を味わうことができた。
 
 半年経っても夏原の留学は終わらなかった。
 彼が旅立ってから一年が経つ頃、佑月のスマホにまたメッセージが届いて、海外の大学に進学することになったと報告された。

(どうして、まだ連絡なんかくれるんだろ)

 ホームルームが終わったばかりの教室はざわざわとしていた。
 ふと、佑月は窓の外に視線をやった。窓ガラスの向こう側は大粒の雪が舞っている。

 ……彼が今いる場所は、暑い季節らしい。
 景色だけの写真がまた一枚添えられていた。白い浜辺と澄み切ったアクアブルーの海、遠くには緑の小島が浮かんでいる。

 そこに夏原の姿は映っていない。彼が送ってくる写真に、彼自身が映っていたことは一度もない。

 他人よりも遠い、二度と会えないかもしれない相手だ。
 どうしていまだに繋がりを断たずにいてくれるのか、馬鹿な自分にはその理由はさっぱり見当がつかないけれど。
 ――夏原は、恨んではいないのだろうか。
 佑月が彼を恨んだように、夏原だって佑月を恨んでいてもおかしくはないはずなのに。

「ゆづちゃん、どうしたの?」

 ぼうっとしていたところを話しかけられて、佑月ははっとして顔を上げた。
 りくが不思議そうに首をかしげている。光一も鞄を肩にかけて佑月の机のほうにやってきた。

「雪やばくね? 電車動くうちに早く帰るぞ」
「あ、うんっ」
「週末は晴れるかな。みんなで映画観に行くの、楽しみにしてたんだけどな」

 帰り支度をして三人で教室を出た。生徒たちでごった返しになっている廊下をゆっくりと歩いていく。
 卒業まであと少し。何百回と歩いたこの廊下とも、教室とも、この校舎ともあと十数日でお別れだ。

「卒業しても遊ぼうね。二人がこっちに帰ってきてくれるの待ってるからね」

 りくが言うと、光一が何度もうなずいている。

「オレはゴールデンウィークには帰ってくるかな。佑月は?」
「んー、まだわかんないけど。休みがとれたら帰ってくるよ」
「佑月が就職か……本当に大丈夫かよ。オレめちゃくちゃ心配なんだけど」
「ゆづちゃん、無理しないでね。困ったことがあったらすぐに連絡してね」
「もう、二人とも心配性なんだから。大丈夫だよ! 僕も先週ついに成人したしね!」

 ピースサインで応えたのに、光一は複雑そうな表情を浮かべていて、りくも苦笑している。

「……そこが一番心配なんだって。変な勧誘とかに騙されるなよ?」
「えー、僕ってそんなに騙されやすいように見える!?」
「ゆづちゃん、ぼくもこーちゃんも近況報告待ってるからね。こまめにしてね?」
「もう、りくちゃんまでっ。ひどいよー!」

 青春の終わりがすぐそこまで迫っていた。
 真白い雪に覆われた駅までの道を、ふざけあいながら三人で歩いていく。
 
 
 帰宅してから、夏原に返事をした。
 ――『僕は就職するよ』。
 街中で見かけた雪だるまの写真と、一言だけのメッセージを佑月は送信した。

 数時間後に彼から届いたのは『がんばれ』の四文字。たったそれだけだった。
 
 ……夏原とはまだ、他人じゃない。
 他人でも友人でもない、特別な「何か」のままだ。



【第三章・END】
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