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第十六話
しおりを挟むピピピピッ
「うん、熱高いね…学校は休もう」
昨日の元母親突撃事件にて号泣しながら暴れた結果、無事に熱を出しましたとさ。
俺の身体軟すぎない?
残念すぎる自分の身体に溜息を吐くと兄さんが苦笑しながら優しく俺の頭を撫でる。
「昨日の今日だからね、熱出て仕方ない事だよ。今日は家でゆっくりしてなさいね」
「…はぁい…」
体温計に表示された37.5℃の文字を見せられながらこのくらいならそれ程でもないのに…と顔の半分を掛け布団で埋める。
「僕はもう家出るけど、冷蔵庫の中にスポドリ作ったピッチャー入ってるから飲んでね。喉痛くなったらのど飴もリビングに置いてあるから好きなの舐めて。あ、あともし熱が上がって動けなくなったら絶対に連絡する事。それと…」
「に、兄さんわかった、大丈夫だから早く行きなよ…」
「うん…じゃあ、ゆっくり休むんだよ?」
前みたいに吐き気があるわけでもなく、熱も凄く高いわけでもないのに心配性の兄さんはなかなか離れようとしない。
部屋を出る時もちらちらとこちらを見ながら出て行った兄さんに自然とため息が出てしまう。
熱はあれど微熱のようなものだし、体調面としては少し頭が痛い程度。
それもさっき痛み止めを飲んだからすぐに治るだろう。
眠気もなく、やる事もない俺はスマホを開いてLINEから3人で作ったグループを開く。
するとそこには既に俺が休みだと知った2人からのLINEが飛んできていた。
大原[唯兎熱だって?大丈夫か?]
桜野[唯兎いないの寂しすぎんだけど!?熱早く治してさっさと学校来い!!]
唯兎[今は37.5℃だからそんな熱は高くないんだけど、兄さんは許してくれなくて]
桜野[照史先輩に許可もらおうって方が無理だろー!]
大原[良いから唯兎はしっかり休んでなるべく早く来い、桜野が煩い]
桜野[酷くね!?俺のピュアなハートに傷が付いたー!]
大原[(クマを蹴り跳ばすウサギのスタンプ)]
桜野[唯兎!蹴られてんぞ!!]
大原[お前だバカ]
2人のノリについクスクスと笑いが溢れてしまう。
そのまま画面に目を移せばそろそろ朝のHRとの事でまた後で連絡する、と2人ともスマホをしまってしまったらしい。
それに少し、ほんの少しだけ寂しさを覚えながらも俺も熱を下げるべくスマホを置き少し眠りにつくことにした。
-----ピンポーンピンポーン-----
-----ピンポーンピンポーン-----
ふいに鳴ったインターホンについビクッと身体が震える。
兄さんも言ってた、俺は体調が悪い。
誰かが来ても対応したらダメだ。
バクバク大きな音を鳴らす心臓を抱えるように布団に潜り込む。
-----ピンポーンピンポーン-----
-----ピンポーンピンポーン-----
それから数回インターホンが鳴った後、諦めたらしく家の中は静かになった。
無意識のうちに息を潜めていたのか息苦しさを覚えて布団から出て呼吸を整える。
誰だったんだろう…。
ほんの少しの好奇心。
布団からそっと出るとペタペタと素足を鳴らしながら階段へ向かう。
階段の上から覗いても何もわからない事はわかってはいても、ついそっと玄関の方を覗いてみてしまう。
ペタペタ
ペタペタ
階段をゆっくり降りてサンダルを履き、玄関の扉に手を掛ける。
ガチャ、と音を鳴らしながら外を見てみても…誰も、いない。
ホ、と息を吐き郵便受けを見てみるとそこには宅急便の不在通知。
…なんだ、宅急便だったのか…。
不在通知には先程の時間が書かれていて、荷物は一度持ち帰りますと黄色い紙で入っていた。
「…っはぁ」
再び大きく息を吐くとドッと疲れが出てきて、空腹感も湧いてきた。
そういえばそろそろお昼の時間だ。
開けっぱなしだった玄関から家の中に入るとしっかり鍵を閉めてリビングへ向かう。
兄さんが用意して行ってくれたお粥を温め直し、コップにスポドリを入れて準備してテーブルへ移動する。
「…いただきます」
小さく呟いてからお粥に手をつけ始める。
テレビを見ながらお粥を食べていると何処となく寂しさを感じるのは多分兄さんがいないからだろう。
なんだかんだ、家で1人で食べる機会なんてほぼないしいつもより静かでひんやりしている気がする。
「…ごちそうさまでした」
再び小さく呟いてからお皿を流しへ運ぶと、横に薬と[しっかり飲むように]という付箋が貼ってあってつい笑ってしまった。
薬を飲むのを忘れる事を見越してここに用意した兄さんの姿を思い浮かべると口の端が上を向く。
小さく「はーい」と呟くと先程使ったコップに水を入れ薬を飲む。
コクン、と錠剤の薬が喉を通るのを感じた後数口水を飲む。
「…うぇ、舌に味が残った…」
何年経っても薬の味は苦手だ。
粉薬なんて全く飲めないし、錠剤でも味はする。
カプセルなんて飲み込むのが辛い。
…薬なんて嫌いだ。
なんて我儘言ってられるわけもなく大人しく飲むしかないんだけど。
ふぅ、とため息をついてから熱を測る。
兄さんにお昼に起きたら熱を測って教えるように言われてるからね。
ピピピピピピッ
「…37.2℃…と」
唯兎[兄さん、37.2だった」
照史[少し下がったけどまだあるね、お薬しっかり飲んだ?]
唯兎[うん]
照史[いい子]
照史[歩ける?具合悪くて動けないとかない?]
唯兎[体調は良いんだよ、熱あるだけ]
照史[あるだけ、じゃない。なにかあったらすぐ電話してね]
唯兎[はーい]
兄さんへの報告を終えると一つ伸びをして自室へ向かう。
体調は全然悪くないし、あとは寝たら熱も下がるだろう。
部屋で待つ布団を思い浮かべると自然と欠伸が出てきた、なんて単純な身体なんだ。
ペタペタと階段を上がればすぐに自分の部屋。
中へ入るとインターホンで慌てて布団から出たせいか乱れたままの掛け布団が俺を出迎える。
いつもなら整えてから部屋出るのになぁ、なんて苦笑いしながら布団へ潜り込むとスマホを充電して寝やすい位置を見つける為にモゾモゾと動く。
「…明日には学校、行けるかな…」
自分の身体は本当に単純なもので寝やすい場所を見つけた瞬間眠気が襲う。
ふぁぁ…と欠伸をしながら目を閉じればすぐに睡魔に誘われていった。
•
•
•
•
•
「……んん…」
どこか良い匂いがして意識が浮上する。
辺りを見渡せば周りは暗く、時計は18時を示していた。だいぶ長い事眠っていたらしい。
伸びをしながら起き上がると、また良い匂いが俺の鼻を擽った。
そのタイミングで俺の腹も良い音を奏で、1人だというのに何故か恥ずかしくなった俺は軽く頬を叩いて布団から出る。
掛け布団を軽く整えて部屋から出ると、やはり良い匂いの正体は兄さんらしくトントンと包丁を扱う音がした。
ペタペタと素足のまま階段を降り、リビングへ向かう。
「おかえり、兄さん」
「あ、ただいま唯兎。そしておはよう」
寝起きです、という顔のまま兄さんに近寄れば微笑みながらこちらを見て返事をくれる兄さんは何処となく聖母のように見える。
いや、聖母なのかもしれない。
寝ぼけた頭を軽く振り、兄さんが作ってるものを覗き見る。
「今日は雑炊にしたんだ、今サラダ作ってるから待っててね」
「…たまご?」
「そう、たまご雑炊。美味しく出来たから沢山食べてね」
「…うん」
トントン、と包丁を動かし始めた兄さんの手にはきゅうり。
今日はシンプルなサラダにするらしい、ドレッシングも用意してある。
「あ、兄さん。昼間宅急便来たみたい」
「そうなの?…出てないよね?」
「出てない、兄さんに言われたもの」
「うん、良い子」
昼間の宅急便の件を伝えれば横目でその伝票を確認して頷いた。
あの時俺は怯えて荷物を受け取れなかっただけだけど、逆に受け取ってたら兄さんに叱られてたかもしれないな。
1人でホッとしてるとその様子がおかしかったのかクスクス笑いながらプチトマトをお皿は盛り付けた。
「じゃあ唯兎、先に熱測ってね」
「…はーい」
すぐにでも食べられると思ってた俺は突然目の前に出てきた体温計にムクれた顔をして返事をする。
脇に体温計を当て暫くするといつもの終わりの音が鳴る。
「…うん、36.7…もう大丈夫だね」
「よし!じゃあ明日は学校行けるね!」
「学校いきたかったの?」
「大原と桜野が面白くて早く会いたい」
ついガッツポーズをして返事をしてしまった俺に兄さんは「友達としてならいいよ」と謎の言葉を言い放った。
そんな平穏な1日がゆっくりと過ぎ去ったのであった。
後日、何故か2人に
「照史先輩に俺らの名前出すな」
と怒られたのは解せない話。
俺は何も悪くない。
【※後日この話のバッドエンドを載せます】
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