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第十七話
しおりを挟む「なぁなぁ、今日転校生来んだって!」
「えー!女の子かな、男の子かな…?」
「イケメンだったらいいなぁ!」
ざわざわといつもより騒がしい教室で俺はスマホを弄っていた。
相手はもちろん、兄さんだ。
母親突撃事件から更に過保護に過保護が重なって過保護ウルトラマックスみたいになっている兄さんは高校からわざわざ俺のことを迎えにきて一緒に帰ることに決めたらしい。
とはいえ、高校と中学の時間割だ。大なり小なり差は生まれる。
今日のように俺たちは4科目で終わり、兄さんは6科目まできっちりある事だってある。
そういう時は何故か兄さんと連絡先を交換した大原、桜野が俺を無事に送り届けるという仕事を押し付けられる形となる。
「…ねぇ、俺1人でも帰れるから2人は着いてこなくていいんだよ?兄さんには俺から言っておくし」
「ダメだ、俺たちが照史先輩に消される」
「唯兎ん家なんてちょーっと寄り道するだけじゃんか!唯兎は気にすんなって!」
真顔で返してくる大原とニカっと笑う桜野と、温度差を感じる。
ただ大原も嫌だというわけではないらしく、本気で嫌な思いをしてる時のオーラは出ていない。
3人で帰るのを楽しみにしてる桜野と仕方ないな、というように相槌を打つ大原に俺の頬は自然と上を向いた。
「おーい、HR始めるぞ!早く席に着けー!」
いつの間にかそんな時間になっていたのか、先生が入って来てまだ席についていない生徒に声を掛ける。
そんな先生の後ろを静かについていく影が1つ。
「どこから仕入れたのか、知ってる奴もいると思うが今日は転校生が来た。挨拶できるか?」
「あ、はい…!」
先生に背を押され、1歩前に出た転校生は学ランを着ていることから男である事はわかるがそれにしても可愛らしい顔立ちをしていた。
全体的に華奢で、守りたい雰囲気を醸し出している。
「あの、ボク…皇 怜(すめらぎ れい)です…!よろしくお願いします…!」
ペコッと小さな頭を下げたところで女子から可愛いー!の声。
その声に照れたように両頬を両手で覆う姿に更に女子が色めき立つ。
「はいはい、その辺で終わりだ!皇の席は一番後ろの窓側な、前のやついろいろ教えてやれー」
「はーい!」
顔と名前を見た瞬間ピンと来た。
攻略対象だ、しかも妹が右固定…?とか言ってた気がする。
確かあざと可愛いキャラで、俺も一目見た時こんなに可愛いのもいるのかとジッと見つめてしまったからこそ覚えてた。
でもまさか同じクラスに転校してくるとは…。
ただ、俺の席は真ん中の方。
窓側後ろの皇とは何の接点もない。
同じクラスってだけでも大きな接点か…。
HRが終わり、15分後に1限目が始まる。
その少しの時間を使ってわざわざ自分の席から俺の席まで来た大原と桜野を見上げる。
「随分と可愛いのが来たなー」
席を囲まれて質問責めをされている皇を見ながら桜野がボソッと呟く。
俺も皇を見てみると、みんなの質問に答えようとアワアワしながら頬を赤らめて微笑む姿は同じ男の俺から見ても可愛いと思う。
ただ、俺の場合本性も知ってるからなぁ…。
「唯兎、今日はどこか寄って帰るか?」
「あ、新刊出てるから本屋行きたい」
「あー、あの漫画か?読み終わったら俺にも貸してくれ!」
「いいよ、読み終わったら持ってくる」
2人は皇の事はもういいのか、スッと俺に目を向けた。
俺も皇に向けていた目を2人に向けるといつもの穏やかな時間が流れる。
その光景を見つめる視線に気付かないまま。
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「おわっっっっっったぁああああ!!」
「桜野うるさい」
「やっと授業終わった喜びを全力で表しただけだろ!?」
「全力じゃなくていい、手加減しろ」
「あはは…まだHR残ってるけどね」
2人で漫才でもやってるのか、相変わらずの2人に乾いた笑いが出てしまう。
今日はこういった少しの休み時間には必ず女子の媚びたような声が教室内に響いた。
今もまた、後ろの席で女子が1つの席を囲っている。
「怜くんって髪ふわっふわだよね…!きもちいー!」
「髪の色も綺麗!染めてるの?」
「ううん、地毛だよ!」
「えー!すごーい!」
「うらやましー!」
キャーッなんてちょっとしたら悲鳴を上げる女子の声に少しビックリする。
身体がビクッと震えると大原と桜野は俺の頭を優しく撫でる、何故だ。
また今も不意打ちできた女子の大きな声にビックリして身体を震わせたら2人に頭をポンポンとされた。
「…今日頭撫でる回数多くない?」
「んー、唯兎の頭がいい形だから」
「俺らの特権」
「当然の権利」
「なにそれ」
真顔で真面目に返してくる2人におかしくなりつい吹き出してしまったのは2人のせい。
吹き出したタイミングで先生が入って来てそこで2人は自分の席に戻った。
皇の周りも解散したらしく、やっと静かになった気がする。
「明日の予定だが……」
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「唯兎!大原帰ろう!!」
自分の通学用に使っているリュックを既に背負った状態で意気揚々と言い放つ桜野。
大原は呆れたようにジト、と桜野を見つめていたが俺はどう反応するのがいいのかわからないまま2人を見比べた後コクン、と頷いた。
「本屋はいつものとこでいいか?」
「うん、その後隣のスタプで話しながら何か飲もうよ」
と、クラスの扉を潜ろうとした時LINEの通知音が鳴った。
ピタリ、と止まった俺に同じく止まった2人が早く確認しろ。と言わんばかりに俺を見つめる。
軽くため息を吐くとスマホを取り出してLINEを確認する。
照史[寄り道はダメだよ]
照史[明日付き合うから今日は真っ直ぐ帰りなさい]
その内容を後ろから覗いて確認した2人が同時にぁー…と声を出す。
そして2人はお互いの顔を見合わせると軽く頷いた。
「唯兎、帰ろう」
「今日は帰った方がいいな」
「……ぅぅ…」
実は楽しみにしてた放課後の寄り道を急に取り上げられて不完全燃焼のまま2人に説得されて帰ることになる。
その様子はまさに公園で帰りたくないと駄々を捏ねてる子供のよう。
「…3人でカフェでコーヒーとかやってみたかったのに…」
むくれながら言うと左右から2人にギュッと抱きしめられた。
「また今度やろーな!照史先輩が落ち着いてる時に!!」
「俺らはいつでも待ってるよ、照史先輩が落ち着いてる時なら」
「ぅぅうっ!兄さん…っ!!」
僅かな怒りを抱えるも、ついこの前母親突撃事件があったからこそ兄さんは少しピリピリしていて、俺を心配しての事だというのも理解している。
だからこそ行き場のない怒りにモヤモヤしてしまい、つい右側にいた桜野の脇腹をチョップしてしまった。
ふごっ!という悲鳴とともに撃沈した桜野が面白い。
今日は仕方ない、諦めて真っ直ぐ家に帰ろう…。
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「唯兎、またなー!」
「家入ったらすぐ鍵閉めろよ」
「わかってる、2人ともありがとう」
家の前まで送ってくれた2人に手を振り、別れると途端に静かになり少しだけ寂しい気持ちが生まれる。
周りの音は近所の子供の笑い声や空を飛ぶ鳥の鳴き声。
1人でそれらを聞いてると途端に物寂しくなり玄関から家に入って手洗いうがいを済ませると制服のままリビングのソファに横になる。
横になったからと言って寂しい気持ちは拭える訳でもなく、テレビをつけてなるべく明るい内容のチャンネルに切り替える。
《あはははっ!》
旅番組をしてるチャンネルをボーッと見つめているが、内容は全く頭に入ってこない。
内容は明るく、お笑い芸人がいる為むしろ騒がしい筈なのに何故か静かに感じる。
テレビをそのままにスマホからLINEを開くと、まだ授業中であろう兄さんの名前をタップする。
「真っ直ぐ帰りなさい]
という内容から動いていないページを見つめる。
ただ見つめていただけ。
それだけで時間がどんどん過ぎていく。
こんなに寂しく感じるのは何故だろう。
小さくため息を吐くと目を閉じる。
身体をなるべく小さく丸め、そのままゆっくりと眠りについた。
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「唯兎、唯兎」
「……んっ…?」
優しい声に目を開けると、そこには兄さんが困ったように笑いながらこちらを見ていた。
「ほら唯兎、皺になっちゃうから着替えて来て」
「……ん~…、」
まだ頭がボーッとしていて兄さんがなにを言ってるのか理解出来ない。
目を擦ってみると、兄さんに赤くなるからとその手を止められる。
「唯兎、着替えておいで」
「…はぁ、い…」
辛うじて返事を返し、伸びをしてからソファから起き上がる。
軽く寝癖が付いた俺の頭を兄さんが優しく撫でると、何故か冴える頭に単純だと勝手に思う。
フと、先程まで感じていた寂しさがなくなっていることに気付き目の前で屈む兄さんを見上げる。
その視線に気付いた兄さんが微笑みながらん?と首を傾げた。
「どうしたの?」
「…なんでもない、きがえる…」
まだ寝ぼけながら返す俺にクスクス笑いながらご飯の用意に向かった兄さん。
兄さんが帰って来たから寂しさがなくなった、なんて言ってやらない。
俺の3人でコーヒーの楽しみを奪った兄さんに今日は甘えてなんてやらない。
なんて、子供のように拗ねる自分に苦笑いしてから部屋へ向かった。
その日、俺は久しぶりに夢を見た。
そういえば、妹は皇をこう言っていたな。
『照史に一目惚れして高校まで追ってきた一途なキャラ』
って。
ただ
『一途故に周りが見えなくなる』
とも言っていた。
皇が兄さんに惚れたら、兄さんはどう反応するのだろう。
夜、暗い中俺は少しの不安を抱えながら眠った。
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