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【リクエスト4】
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リクエスト内容
[バッドルートの栗河さんのその後&バッドルートの照史視点]
です。
ごゆるりとお楽しみください。
※最近忙しく、コメント返せていなくてすみません。
余裕出来たらまたコメントを返しながらニヤニヤさせてください。
_____________
この部屋には俺の愛しいあの子がいる。
ここから出ない限り、俺がずっと守ってあげられる。
あの子はこれ以上、傷付く事なく俺だけを見て、幸せを感じるんだ。
あの子がいる部屋の扉をそっと撫でてから離れる。
今日はもう時間の上限を迎えてしまった、あとは明日のお楽しみ。
フ、と愛おしいあの子に会うのが楽しみでつい口元が緩んでしまう。
そんな俺を隣で見つめてくる奴が1人。
「…凪、部屋に戻る?」
「…ん、ありがとう佐久間。あとは明日」
俺の腰を引き寄せ引っ付いてくるコイツは佐久間大和。
…コイツは俺に好意を寄せていて、俺のことを一番に思ってくれているそうだ。
それ自体はとても嬉しい、俺も佐久間の事は嫌いではない。むしろ好き、ではある。
けどそれは恋愛感情ではなかった。
俺は佐久間に告白された時、佐久間とキスをする事を想像出来なかったんだ。
友達として好き、親友として好き。
それは本人にも伝えてある。それでもコイツは…
『いいんだよ、俺がお前と一緒にいたいだけ』
と、何かと俺を甘やかしてくる。
愛したものを愛でるのが趣味…らしい?
そんな、純粋な愛を俺にくれる佐久間に俺が頼んだ事は最低な事だった。
『唯兎を保護する、手伝って欲しい』
頼めば驚きはしたものの困ったような笑顔と共にすぐに了承してくれた。
俺は今まで準備してきたものを全て佐久間に見せる、唯兎のための部屋、唯兎のための鎖、唯兎のためのトイレ……
それらを見せるとそれとは他に必要なものを提案してくれたりもした。
最初のうちは何をするか分からないからカメラとか付けてみたらどうだ?
鎖付けるならこのモフモフ付けて傷付かないようにしてあげよう
本とか置いてあげたらどうだ?
テレビはやめておこう、外の情報が得られてお前だけを見てくれなくなるかも
俺も何か考えてみる
俺に全面的に協力をしてくれた。
結果的に唯兎は俺だけを見て、俺を感じる事で幸せを得られるようになった。
最初は沢山泣いていた唯兎も今では俺だけに笑顔をくれる。
…俺だけを見てくれている。
それだけでこれだけの幸せを感じている自分に驚きを感じるも、よく考えたら不思議でもなんでもない。
俺は前世から唯兎だけを見つめ、唯兎のために死に、唯兎を想って待ち続けていたんだ。
それはこれからも変わらない、変えられない。
俺はそっと自分の手を握ると、再度自分自身に言い聞かせる。
俺があの子を守るんだ。
「…凪、部屋に戻ろう。明日は朝から仕事あるだろ?」
「…ん、行こう。今日もありがとう」
「お前のためなら俺はなんだってする」
蕩けるような笑顔でそう答える佐久間に、俺は曖昧な笑顔で答えるしか出来なかった。
それから数日、いつものように映画館に出勤すれば最近よく見るあの男がいた。
七海照史。
このゲームの主人公であり、唯兎を守る事もせず施設送りにした奴。
俺はこの男が嫌いだ。
「…毎日のようにすみません、唯兎の居場所に心当たりはないですか?」
「毎日のように答えてるけど俺は知らないよ。どうして俺のところに来るのかな」
明らかに迷惑だ、という顔をすれば照史はグッと何かを堪えるような顔をする。
…コイツは恐らく、俺が唯兎を攫ったと思っているのだろう。俺の周りによく現れるようになった。
一つ溜め息を吐いて横を通り過ぎれば照史は慌てたように俺の手を掴む。
「…唯兎がいなくなった日、あなたを見たと言う人はいません。そしてあなたは何故か唯兎に固執しているように見えた。疑われるような事があると自覚していないのですか?」
「…疑われるも何も、俺は卑しいことはなにもしてない」
「じゃあ、唯兎がいなくなった日に何をしていたのかくらい言えますよね?どこにいたのか、曖昧なのは貴方くらいです」
その日、出勤していなかったのは他の従業員の女から聞いたらしい。
コイツの顔に負けて他従業員のシフトを教えるとか、頭悪いとしか思えない。ソイツは探し出してクビだな。
盛大に溜め息を吐いて照史に向き直ると、俺は俺のその日の内容を伝えようとした。
…が、後ろからの声にそれは掻き消された。
「その日は俺の家にいたよ。お互い同じ大学に通ってるんだから勉強の為に家に来てもらってても不思議じゃないだろ?」
「……貴方は?」
「ここの従業員、そして普通の大学生。佐久間って言うんだ、よろしく」
照史に掴まれたままの手を奪い返し、俺を庇うように前に立ったのは佐久間だった。
自分の知らない人が間に入ったことで照史は俺を疑いながらも強く出られなくなったようだ。
行こう、と腰を抱かれ事務所の方へと案内される。
その姿を見て何処か察したように悲しげな表情をした照史はそのまま外へと向かって歩き始めた。
「ありがとう、助かった」
「ああ、俺はお前のアリバイだ。だから遠慮なく俺を使え」
「…ごめんな」
こんなにも俺を想い、俺だけを見てくれている佐久間に何も返せない事をずっと申し訳なく思っている。
そんな俺の気持ちに気付いている佐久間は事務所に入った途端俺を抱きしめた。
「いいんだよ、お前が俺の気持ちに応えられない分お前は俺を考えてくれる。それだけでいいんだ」
「……アホかよ」
「アホでもいいよ、そんなアホの事を考えてくれてありがとうな」
こんな俺を好きでいてくれるコイツと一緒になった方が幸せなのかもしれない。そう思ったことは何度もあった。
それでも俺は唯兎を守り抜く事を選んだ、前世からずっとしたかった事だ。
「唯兎を守る、手伝ってくれな」
「当然、お前が守りたいものも…お前自身も俺が守る」
2人でニッと笑うと制服へと着替え、仕事に取り掛かった。
あの子を守るのにも金は必要だ、今日もしっかり働いてあの子に良いものをあげよう。
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「ただいま、唯兎」
「凪…さん…!」
ずっと座って本を読んでいたようだ、あまり使われることのなくなった足がヨタヨタと俺に向かって歩いてくる姿がとても可愛らしい。
ギュッと俺に抱き付いてきた唯兎を包むように抱きしめると、唯兎は俺にニコッと笑顔を見せて何か紙を見せてきた。
「見て!凪さんを描いたの!あまり上手く出来なかったけど、凪さんが部屋に置いてくれた本を見ながら描いた!」
「…俺を描いてくれたの?嬉しい、凄く上手だ…ありがとう」
唯兎がくれた絵はとても歪で描き慣れて無いであろう事が伺えた。
しかし俺を思って一生懸命描いてくれた唯兎を想像するのは難しくない、とても頑張ってくれたのだろう。
俺が喜んでいるのを感じたのか唯兎は可愛らしくエヘヘっと笑い俺に頭を差し出す。撫でろ、と言うことか。
差し出された頭を優しく撫でると嬉しそうに更に強く俺に抱き付いてきた。
「唯兎、何か欲しいものはある?」
「…ほしい、もの?」
もうすぐでバイトの給料が入る、それで何かプレゼントしようと決めていた。
勿論テレビやパソコン、スマホといった外部の情報が得られるものはあげることはできないが、それ以外のものであればなんでもプレゼントしてあげたい。
んー、と悩んでいる様子の唯兎をベッドまで連れて行くと唯兎はあ!と声を上げた。
「俺、ぬいぐるみが欲しい!でっっっかいやつ!!」
「…ぬいぐるみ?」
なんとも意外な物が出てきた。
唯兎はそういった物が好きだっただろうか、と前世のゲームの記憶を掘り進めていると一つの記憶が引っかかった。
それは唯兎が施設に入ってすぐの描写だ。
施設の部屋の片隅で大きな、座った唯兎が隠れるくらいのぬいぐるみに寄りかかっている唯兎。
そんな唯兎に主人公である照史が会いに来た、というシーン。
…大きいぬいぐるみ、が好きなのか?
それにしても意外なものだなと可愛らしい物に口角が上がる。
「大きいぬいぐるみが欲しいんだね」
「うん、凪さんずっとはいられないでしょ?仕方ない事なんだけどやっぱり寂しいから…ギュッて出来るものが欲しい…」
その答えを聞いて俺はハッとした。
この子は寂しくなった時、近くに大人はいてくれなかった。
施設でも寂しいからと言ってずっと近くにいてくれるような大人はいなかっただろう。
その寂しさを大きなぬいぐるみに包まれることで誤魔化していたのだ。
そう脳内で推理すると、鼻の奥がツンと痛くなる。
「な、凪さ…ん?どうしたの?どこか、いたい?」
「……ごめん、ごめんね…っ、これからはもっと会いにくるね…っ」
「…う、ん…どうして泣いてるの?俺なにかいけないことした…?」
ボロボロととめどなく流れる涙に戸惑う唯兎をギュッと抱きしめると、フワッと甘い香りがする。
先程食べていた飴の匂いだろう、その匂いが俺の鼻を擽っていく。
急に抱きしめられた事に困惑していた様子の唯兎だったが、おずおずと上にあがった手が俺の背中を優しく撫でてくれる。
なんとも優しく、愛おしい…。
そんな優しいこの子を俺はずっと守って行くんだ。
何よりも大事なこの子を、アイツに渡すものか。
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いない
いない、いないっ!
いないいないいないいないいない!!!
体調を崩した唯兎にLINEで連絡するも、全然既読にならず不安に感じた僕は昼の後すぐに早退して帰宅した。
電車の中でも不安に感じながらも体調悪いんだから寝てるだけ、ただぐっすりと眠ってるからLINEにも気付かないだけ…。
そう自分に言い聞かせながら駅から自宅まで走って帰ってくると、玄関に鍵が掛かっておらず嫌な予感が更に大きくなる。
玄関の鍵は僕が学校に行く時にしっかり閉めたはず。ずっと眠ってるのであれば、鍵は開いてるはずがない。
玄関を開けると唯兎の靴はそのまま置いてある、それを確認するとバタバタと大きな足音を立てて唯兎の部屋に向かう。
「唯兎!!!」
____んー…兄さん?おかえり…____
そう、唯兎の声を期待して扉を開ける。
そこには、誰もいなかった。
布団は抜け出した後誰も戻っていない事を伝えるかのように乱れており、起きたら必ず布団を整える唯兎には有り得ない光景が広がっていた。
寝る時いつもスマホを置いている場所にはスマホがなく、充電器にも刺さっていない。
もしかしたらトイレか、他の部屋にいるのかもしれない。
焦りで心臓が嫌な音を立てながら1階、2階のトイレ。
風呂場。
両親の部屋。
………僕の部屋。
どこにも居ない。
既読も付かない。
電話にも出ない。
………唯兎が、いない。
「…ぁ…ぁぁ…っ」
は、は…と息が荒くなるのを感じる。
震える手のままスマホを操作すると義父へと電話をかける。
呼び出し音ですら焦りに感じ、その場に蹲ってしまう。
『照史、どうした?』
「…ぁ、ぁ…おと、さ…っ!唯兎が、唯兎がいなく……っ!」
『…どういうことだ、焦らずゆっくり伝えてくれ』
僕の様子から緊急性を感じたらしい義父は近くにいた母に何かを伝えている。
深く、深く深呼吸しても震えたままの声を絞り出して義父に今の状況を伝える。
『照史はすぐに警察へ連絡を、父さん達もなるべく早く帰る。照史はそのまま近所を探してみてくれるか?』
「ぅ、うん…っはい、けいさつ…連絡…っ」
『大丈夫だから、落ち着け。唯兎が帰ってきた時に照史がそんなんじゃダサいぞ』
こんな状況で、義父も焦りを感じている筈なのに僕の事を心配してくれているのを感じる。
再度深く深呼吸して、頭の中をクリアにした後前を見つめる。
そこに広がっているのはいつも唯兎が過ごしていた部屋。
また、ここに唯兎を連れて帰るんだ。
「………ごめんなさい、大丈夫」
『…1人にしてごめんな、なるべく早くそっち帰るから』
「うん、その間こっちはしっかり探してみるから」
そのまま義父との通話を終わらせ、警察へ連絡する。
年齢、見た目、朝来ていた服の特徴等を伝えると写真などあれば見たいということで今から家に来てくれるそうだ。
警察が家に来るまでの間に僕は唯兎の部屋の中を見て回る。
引き出し、カバンの中、箪笥の中、クローゼットの中…何もおかしな事はない。
不審な手紙等があればストーカーや変質者のような物を疑えるのだが、そういったものは全く見当たらない。
落ち着いた筈の気持ちが再び焦り出すのを感じて慌てて頭を振る。
僕が慌ててどうする、唯兎を見つけないと…。
朝、唯兎は熱があった。
そこから熱が下がって外に出た、という可能性も考えたがそもそも昼食に手をつけていない。
つまり、昼食を食べる前に何かがあった。
もしくは外に出ないといけない何かが起こった。
外の郵便受けを見れば午前中に宅急便が来たらしい不在届が入っていた。
…これを受け取りに外に出たのであれば、これが入ってるわけがない。
だとしたら、この時には既にいなかったか…もしくはこの後すぐにいなくなったか。
その辺りの時間連絡を取っていそうな人物に連絡を取ってみよう。
僕はスマホを取り出してあの子に連絡を入れてみた
『…もしもし』
「ごめんね大原くん。今いいかな」
『大丈夫ですけど、どうしました?』
「唯兎がいなくなった、大原くんと桜野くんが唯兎に連絡した最後の時間を教えて欲しい」
電話の向こうで驚いた様子が伝わってくる。
桜野くんと話をしているのか少し声が遠くなり、すぐに電話の方へ戻ってきた。
『最後に連絡取れたのは朝、授業始まる前です。その後昼休みに連絡したんですけどその時には既読にならなくて…寝てるものだとばかり』
「…そっか、ありがとう」
『俺達も探してみます、また後で連絡しますんで』
「ごめんね、ありがとう」
通話の終わったスマホを置くと、丁度よく警察が到着する。
到着した警察に唯兎の写真や背格好などを伝えるとすぐに探してくれるとの事で写真を持ってパトカーに乗り込んだ。
…警察には連絡した、写真も渡した。
僕もすぐに探しに行かなきゃ。
すぐに靴を履き替えると玄関の鍵を閉めて外に出た。
近所の公園、唯兎が好きな本屋、いつも行くスーパー…全部見に行って店員さんにも写真を見せて来てないか確認して…。
何処にもいない、誰も見てない。
駅まで走って来た所で走りすぎたせいか呼吸が苦しくなり、ベンチに座り込む。
まだまだ探さないといけないのに、この身体はポンコツか。
悔しくなり、自然と涙が滲み始めた所で誰かに肩をポンと叩かれる。
反射的に顔を上げると、そこには大学生くらいの見知らぬ男の人が心配そうに立っていた。
「大丈夫?具合悪い?これ、よければ飲んで」
「え、あ…大丈夫です、ありがとうございます…」
スポドリを差し出されるが、流石に見知らぬ人から受け取れず首を振って立ち上がる。
受け取れない事に再度謝罪してから歩き始め、また唯兎を探す為に次は何処を探すか考えてみる。
そんな僕の後ろ姿を見つめている視線に気付かないままその場を立ち去った。
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prrrrr.....
prrrrr.....
「…お兄さんが探し始めてた、今駅にいたぞ」
『ありがとう、意外と気付くの早かったね』
「あの様子だと警察にも連絡はいってるだろうな」
連絡した先は家であの子に尽くす為、ご飯を作っているであろうアイツ。
カチャカチャと音を鳴らしながら何かを作っているであろう、機嫌が良さそうに鼻歌を歌っていた。
そんな歪んだコイツでも可愛いと思ってしまうあたり、俺も歪んでるんだろうなと失笑してしまう。
「あの子はどうなんだ?」
『んー?可愛く寝てるよ。そろそろ起きるのかな、少し熱があるからご飯食べてもらった後薬あげないとね』
「そうか、じゃあ俺も飲み物とかゼリーとか買ってくか」
『…林檎もよろしくね』
クスクス笑いながら言うその言葉に少しの擽ったさを覚える。
はいはい、なんて軽く返しながらスマホを切るが自然と緩んだ頬を隠す為に口元を手で押さえてみた。
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『…すみません、唯兎見つからなくて…。今日はもう帰らないと…』
「……うん、探してくれてありがとう。気を付けて帰ってね…」
息を切らした大原くんと通話をし終えた後、自宅に戻ってみたが唯兎は帰っていない。
何処にもいない、様々なところを探した。
例の映画館にも行ってみた、けれどもいない。
走りすぎてクラクラしている頭を押さえながらリビングのソファに座ると、そこで思い出すのは唯兎の事。
[兄さん、この映画観に行きたい]
[あ、これ美味しい…]
[…んー、もう寝る…]
このソファで、そこのテーブルで、向こうのキッチンで…。
唯兎がいる筈の光景に、唯兎がいない。
今日だけで沢山流した筈の涙が再び溢れ出す。
唯兎がいる時には感じない感情が止まらない、止められない。
守るっていったのに、僕が…唯兎を守るって。
ソファに横になり、唯兎が気に入っていたクッションを抱きかかえて丸まる。
「…ぅっ、ゆい、とぉ…っ!ゆいと……、ふ、ゆいと…っ」
名前を呼んでも呼んでも、それに反応する声はない。
ただただ1人で流す涙だけが僕の側から離れなかった。
「…照史、照史…」
優しく揺り起こされる。
目を開ければそこにはいつの間に帰って来たのか、義父とお母さんの姿。
僕は唯兎を探しに行った後、沢山汗をかいたにも関わらずソファで寝落ちてしまったようだ。
顔には涙が乾いた後もあり、とても酷い状態だろう。
そんな僕を見てとても悲しそうに抱きしめてくる母の温もりに、再び涙が溢れて来た。
「おか、さ…!唯兎が、唯兎が…っ!」
「うん、近くにいられなくてごめんなさいね…。今警察も動いてくれてるから、きっと見つかるから…」
ボロボロと流れ、止まらない涙に僕はどうすることも出来ずただただ泣く事しか出来ずにいた。
義父や母が温かいタオルで顔を拭ってくれた後、昨日どうだったのか詳しく話す。
前日のこと、朝熱があったこと、最後に連絡が取れたのは朝だったこと。
一つ一つゆっくりと説明していくと義父の眉間にできた皺がどんどん深くなっていく。
「…今から警察に連絡してみるか、もしかしたらアイツかもしれないしな」
「アイツって、唯兎の前のお母さん…?」
「最近付き纏っていた事もあるし、可能性は0じゃない。唯兎もアイツの前では意識が昔に戻っていたように見えた…家に来たアイツについて行ってしまった可能性もある」
確かに、あの母親が来た時の唯兎は何故だか幼い雰囲気があった。
ママ、ママ…と泣いてる姿は迷子の子供のようで中学生としての唯兎とは全く違うように見えた。
…あの母親がまた家に来て、唯兎を呼んだら…?
唯兎はまた幼い頃のようにあの母親を求めて家を出てしまうかもしれない。
義父が出掛ける準備をしている横で母はずっとスマホを操作していて忙しそうに思う。
失礼ではあるが、横から覗いてみるとそれは母の友人達のグループのようだった。
「ママ友たちに唯兎の情報を流してたの、見かけたらすぐに保護して欲しいって。ママ達はいろんなスーパーに行くし、子供達といろんな公園に行く。そこで見かけたら、ってね」
僕の頭を優しく撫でてくれる母に何故だか鼻の奥がツン、とする。
僕もできることをしないと、とスマホを取り出す…が、昨日充電もしないまま寝てしまったせいで電源が切れてしまっていた。
慌てて充電機を差し込むと少し時間をおいて電源が付いた。
すぐにLINEを開くと昨日の夜、大原くんと桜野くんからLINEが届いていたことに気付く。
大原[照史先輩、唯兎は知り合いの家に行った可能性とかありませんか?]
大原[流石に俺たちは唯兎の親戚とか、知り合いとか…そこまではわからないので一度連絡してみるといいかもしれません]
桜野[俺らは近くを足で探すんで!]
桜野[照史先輩は親戚とか知り合いを当たってみてください!]
頼もしい2人の言葉に少し頷くと軽く返事を返してLINEを閉じる。
義父に親戚や知り合いを聞いてみようとしたが、既に家を出発してしまった。
今は車を運転しているだろう、電話をするのは迷惑だ。
と、なると僕が知ってる唯兎の知り合い…。
2人ほどいるが当てはまりそうなのは1人しかいない。
___栗河___
あの映画館で出会った男の人だ。
あの人は何故だかわからないが、最初から唯兎を認識していたように思う。
だから僕は唯兎をなるべくあの映画館には連れて行きたくなかった。あの男は怪しい。
何より、唯兎を見る目が知ってる男の子を見る目じゃない。
あの男の目には…純粋とは言えないものが混ざっている、と僕は確信していた。
「…お母さん、僕少し出てくる」
「…大丈夫?少し横になった方がいいんじゃない?」
お母さんは心配そうに僕を見つめる。
それ程までに酷い顔をしているのか、と苦い気持ちになるが今はそんな事を気にしている場合じゃない。
唯兎を見つける。
その為にまずは動かなければならない。
僕は唯兎の写真を数枚鞄に入れ、すぐに家を出た。
バス停まで走って行けば丁度乗りたかったバスが到着したところでそのままの勢いで乗り込む。
バス内で1人息を切らしている僕は他の客からしたら変なものだろう、視線を感じる。
息を整えながら窓の外を見てみると、そこには前に映画館へ向かっていた時唯兎と話していた景色が広がっていた。
[あそこのカフェ、行ってみたいなぁ]
[あ、兄さん!あそこに本屋!]
[この辺りは凄くのどかでいいね、うちとそんなに遠くないのに全然違うや]
前は隣に座っていた唯兎が、今はいない。
僕の壊れた涙腺はその思い出がふと蘇るだけでじわりと涙を生産する。
溢れ出そうになった涙を上を向く事で誤魔化し、僕は目を閉じた。
バスに揺られて30分程で到着したのは映画館からさほど遠く無いバス停。
そこから10分ほど歩いたところにあるのが唯兎と行った大きめの映画館。
…栗河が働いてる映画館だ。
僕は息を長めに吐き出して、映画館に向かって歩き出した。
•
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•
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俺は、知っていた。
栗河さんが俺を助けてくれようとしている事を。
栗河さんは、俺を特別な目で見ていた事を。
最初は驚いた、無理矢理連れ出されて窓もないような部屋に閉じ込められた時はどうしようかと思った。
でも俺は、そこにいる事を選んだ。
栗河さんと一緒にいれば守ってくれる。
俺を施設送りにするような事もなく、外から俺を守ってくれる。
そして、俺自身も兄さんに対して嫉妬せずに済む。
兄さんを傷付けずに、いられる。
だから俺は、今日も演じるんだ。
壊れたふりをして、栗河さんと一緒にいる。
これが、俺や兄さんの幸せだと信じて。
「凪、さん…おやすみ」
「おやすみ、愛する唯兎」
今日も俺は、壊れる。
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