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【小話4】
しおりを挟む※このお話は作者が個人的に書きたかったものです。
読んでも読まなくてもストーリー上問題ありません。
とある日の朝。
学校に登校するため玄関から出る俺を、誰もいない家が見送る。
鍵をかけて歩き出せばそろそろ暖かくなるであろう空がとても綺麗に輝いていた。
俺の足は癖のように一つの家に向かう。
幼馴染であり、親友でもある桜野朔紘の家だ。
__ピンポーン、ピンポーン__
インターホンを鳴らせばマイク越しに桜野のお母さんの声がした。
「おはようございます、サクは起きてます?」
『おはよう悟くん!もうご飯食べ終わるから中に入って待っててくれる?』
「あ、いえ…ここで待ってます」
えーっ!なんて大袈裟に驚くお母さんが桜野を急かす声が聞こえてくる。
暫くマイクからワイワイと騒がしい声が聞こえてくるが、一定時間経てば自然とマイクが切れて静かな朝がまた始まる。
桜野を待つ間、スマホを眺めて気になっていた情報をジッと見ていると勢いよく玄関が開く音がした。
「もぉー朔紘!静かに開けなさい!」
「わかったってー!大原はよ!行こーぜ!」
「…はよ、おばさん行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
まだまだ若々しい桜野のお母さんはわざわざ道路の方まで出てきて手をひらひら、と振って見送る。
それにペコッと頭を下げてから桜野と横に並んで学校に向かうのはいつもの光景。
「そーいやさ、お前が好きな映画のシリーズあんじゃん!ヒーローものの!」
「…新作出るんだよな、楽しみ」
「3年ぶり?とかだっけ。あれ唯兎も誘って3人で観に行かね?」
唯兎を誘って、の部分で少し心臓が嫌な音を立てる。
桜野は俺がヒーローもののストーリーが好きなのを知っているから一緒に行くのは構わない。
ただ、まだ…唯兎にはその事を伝えていない。
中学生にもなってヒーローものが好き、なんて恥ずかしいと思ってしまっていてなかなか伝えられないのだ。
唯兎は映画が好きだから、誘えばもしかしたら来てくれるかもしれないけど…最悪、幻滅されたりするかも…。
唯兎に限ってそんな事はないのに、なんとなく切り出せずにいる自分がとてもカッコ悪い存在のように思う。
「…唯兎は、ヒーローものが好きな俺でも仲良くしてくれると思うか?」
「はぁ?唯兎がそこで馬鹿にするわけねーだろ!唯兎を信じてねーの?」
「そ、…じゃないけど…」
「大丈夫だって!唯兎だぞ?絶対、大丈夫」
唯兎を信じて疑わない桜野は前を向いていて、とてもカッコいい。
いつまでも桜野の後ろに隠れて、下を向いている俺には難しい事だ。
…桜野は知らないんだろうな。
俺がヒーローものを好きになった原因は、お前達だって事。
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ドンッと強く肩を叩かれ、俺はその場に倒れ込んだ。
俺がまだ小学3年の時、髪の色の事で小学6年生に何かと文句をつけられて呼び出されることが多々あった。
俺の髪は黒の気配がない程に茶色で、それは地毛であるため先生からも何も言われない。
ただ6年からしたらそんな事は関係なく、染めてるだろ。生意気。キモい。と暴言や暴力で俺に訴えてくる奴が一定数いたのだ。
「3年の癖に!染めてるだろ!」
「生意気なんだよ!こっちは6年だぞ!」
「…うっ」
お腹を蹴られ、その場で動けないでいる俺をケラケラと笑う6年達。
痛む腹を抱えて顔を上げると砂をかけられ、それらが目に入って激痛が走る。
ボロボロと流れ出る涙が地面を湿らせると、6年達は喜んだ。
「男のくせに泣いてんの!?きっも!」
「そろそろ帰ろーぜ、母ちゃんに遅いって怒られるわ」
「帰るかー、飽きたし」
最後に頭から砂をかけられ、6年達は校門に向かって歩き出した。
まだ目が砂に入った後で痛くて目が開けられず、その場から動けずにいるとバタバタと誰かが走り寄ってきた。
「大原、どうした?大丈夫か?」
「…、っ、だ…れ?」
「同じクラスの桜野!砂だらけじゃん、目に入った?水道いこーぜ」
手を握られ、立ち上がるように促されると自然と足が立ち上がり桜野の歩く方向に足を進める。
目からは止めどなく涙が溢れ出てきており、前がよく見えず何度も足がもつれてしまうがその度に桜野にしがみついて転ばずに済んでいる。
「ご、ごめ…」
「いいって、ちゃんと捕まってろ」
しがみつく俺の手を自分の腕に巻き付かせ、前が見えにくくても安心できるようにしてくれる桜野に俺は素直に『カッコいい』と思ってしまう。
正義のヒーローってこんな感じなのかな、なんてしっかり開けられない目を桜野に向けるが桜野のぼやけた顔しか見えなかった。
桜野の腕に引っ付いて行くと外の水道に着いたらしく、桜野が水を出してくれる。
しっかり目を洗ってなんとか目が開くようになってから顔の周りや転ばされた時に擦ってしまった膝を洗ってタオルで拭けば綺麗サッパリ、と頷く。
目も少し沁みた感じはするが、痛くはない。
「へーきか?」
「うん、ありがと」
「…お前さ、なんかされてんならちゃんとおばちゃんに話しとけよ」
桜野が心配そうに俺の顔を覗くが俺はなんとなく視線を逸らした。
俺は、お母さんとまともに顔を合わせていない。
うちは母子家庭だ。
その分お母さんは働かなきゃいけなくてほとんど家にいない。
その事も知っている桜野の家でご飯を食べたりしているが、流石に毎日というわけにもいかず学校終わりに家に帰ると基本誰もいない。
朝起きて学校行く前もお母さんは仕事ギリギリまで寝ている。
話す時間、あるだろうか。と不安に思っていると桜野が俺の手を握って顔を上げさせる。
「大丈夫だって、帰り遅いなら電話してみろよ。話すだけでもしとけって」
「…ん」
コクン、と頷けばそれでよし!と言わんばかりにニッと笑われる。
学校から帰る途中で6年に捕まった事もあり、ランドセルは持っていた為そのまま桜野と帰ることにした。
途中桜野と別れ、家に帰れば中には誰もいない。
夕方という事もあり薄暗い室内に電気をつけ、テーブルの上にあるメモを確認する。
《悟へ
お母さん遅くなるから先にご飯食べて寝てください。
お金を置いておきます》
そのメモと一緒に置かれた2000円、いつもの事だ。
いつもであればすぐにコンビニに行って何かご飯を買うところだが、今日は少し違う。
長めに息を吐き、胸に留まる緊張を押し出した。
桜野に言われたように、お母さんに伝えてみよう…そう決めて家の電話に手を伸ばし、お母さんの電話番号にかける。
prrrrr...
prrrrr...
少し長めの呼び出し音が俺の耳を擽る。
暫く待ってみると受話器からお母さんの少し尖った声がこれに問いかける。
「悟?お金は置いたでしょ、なに?」
「あ、あの…えと……」
「お母さんは忙しいの、はやくして」
大きなため息と共にそう冷たく言われ、ビクッと身体が不自然に跳ねる。
震えそうな声を一度唾液を飲み込む事で誤魔化し、大きく息を吸った。
「あ、の…髪の事で、6年生に蹴られちゃった…」
「……それで?」
「え?」
「やり返したの?」
やり返す、なんて考えもしなかった返しに戸惑っていると電話の向こうから大きなため息が聞こえて元々激しく鳴っていた心臓が更に大きな音を立てる。
「あのね、お母さんはあなたを育てるために忙しく仕事をしてるの」
「…はい」
「やり返せるならやり返しなさい。お母さんに迷惑かけないで」
ツー、ツー…と電話口から聞こえてくる終話の音が悲しく耳に残る。
受話器を戻すと薄暗い室内で1人佇んでいる自分が消えそうな錯覚に陥り、ポロッとひとつ涙が溢れた。
それからはどう寝たのか覚えてない。
朝起きたら2000円はそのまま置いてあったからご飯は食べずに寝てしまったようだ。
お風呂に入ったかどうかは記憶になく、入っていなったら嫌だなという理由から念の為入ってから学校へ向かう。
寝たはずなのに寝た気がしない。
大きな口を開けてあくびをしながら通学路を歩いていると丁度家から出てきた桜野に見られ、笑われるかと思いきや目元を軽く撫でられる。
「…泣いた?」
「…お母さんに電話したらやり返せってさ。迷惑だったみたい」
「んー………?俺と一緒にやり返すか?」
俺の言葉にポリポリと頭を掻いて何かを考えてるのかと思ったらニッと笑って言い出す桜野にそれは違うと首を振ると何故だか嬉しそうに笑われた、解せぬ。
「お前はそうだよな、やり返すとかそういうの嫌いだもんな」
「だからってこのままなのは嫌だから何かしら対策したい、どうするか考えといて」
「俺が?無理だけど」
いつものようにケラケラ笑いながらの登校にすこし安心した俺は桜野の隣で同じように笑って過ごした。
学校ついてから対策を考えるも、結局『黒髪に染める』くらいしか思いつかずさてどうしようと首を捻りながら授業を受けるが全然頭に入らず途方に暮れた。
ノート全然書いてない、桜野みたいなことをしてしまった。
まぁ、1日くらい平気か…とノートや教科書をランドセルにしまったのは放課後のこと。
今日は何事もなく、さっさと帰りたいと駆け足で桜野のいるクラスに向かっていると誰かに足を引っ掛けられ走っていた身体は廊下に激しく打ちつけられる。
痛みで声を出すことも出来ないまま足に引っかかったものを確認しようと顔を上げると、6年生がニヤニヤしながら立っていた。
「おもいっきり転んでやんの!だっせー!」
「痛そー!泣いちゃう?泣いちゃう?」
4人程の6年生が俺を馬鹿にしたように笑いながら指を指してくる。
こんなのほっといて桜野のクラス行こう…と立ちあがろうとするも転んだ時に打ちつけた膝が痛過ぎて上手く立てない。
産まれたての子山羊か、と言わんばかりに壁伝いに立ち上がるとそれすらも馬鹿にしたようにゲラゲラ大きな声を出して笑う。
周りには同学年の子たちもいたが、高学年の奴らに立ち向かう勇気がないのか遠目から心配そうに見てくるだけ。
足痛いし、疲れたし、もうなんかしんどい…。
先程まで何も感じなかった目からジワリと熱い何かが流れそうになった時
「いだっ!」
と6年の大きな声が聞こえた。
何かと顔を後ろに向け、見てみると同学年の子だろうか?
数冊の教科書を抱えて6年生を睨んでいた。
「歳下イジメるとかダサいことするな!」
「な、なんだよお前!お前も転ばせてやろうか!」
「やれるもんならやってみろ!お前らみたいなダサい奴らになんかやられないからなっ!」
そう言うと、手に持っていた教科書を6年に投げ付けていく背の小さめな男の子に6年は痛がりながらも廊下に落ちた教科書を男の子に投げ返そうとする。
危ない、と声を出そうとした時
「…それ、誰に投げるつもり?」
と、静かだが怒りの籠った声が廊下を支配した。
教科書を投げていた男の子の後ろには近所の中学の学ランを着た人が立っていて、6年生を睨んでいる。
…七海照史先輩だ。
有名な人だから名前と顔は知っている。
6年達も同じだったのか、少し青ざめた顔をして手に持った教科書を床に落とす。
「照史先輩!その子達七海くんに教科書投げつけようとしてました!」
「転ばせようとしてたー!」
そんな有名な人の登場で盛り上がった周りは女子を中心に七海照史さんに次々に告げ口をしていく。
その声がどんどん大きくなっていくと、騒ぎを聞いた教師が慌てた様子で走り寄ってくる。
「唯兎、何があったか話せる?」
「そこの6年生達があの子をわざと転ばせて笑いものにしようとしてたんだよ」
と、唯兎と呼ばれたその子は俺に目を向けてハッとしたように小走りで寄ってきた。
「へーき?足痛い?」
「ぁ…ありがと…」
その子の手を借りて床に座ると先生と七海照史さんが俺のズボンの裾を上げて傷を確認してくる。
打ちつけた膝は青く腫れていて、痛々しく思う。
突然の味方の登場で忘れていた痛みが再び蘇り、ジワリと涙が沁みてくる。
それを横で見ていた唯兎と呼ばれた男の子は慌てて俺の目に自分のハンドタオルを押し当ててソッと寄り添ってくれた。
暖かいその温もりに更に目からポロポロと涙が溢れてくると、騒ぎを今気付いた桜野が廊下をバタバタと走って来た。
「大原!だいじょーぶか!?」
「さく…らの…っ、おそい…」
「わり、今気付いた!痛いよな」
俺の前にしゃがみ、膝の様子を見る桜野は痛々しげに眉を歪ませた。
先生はさっきの6年達と話をしていて、俺には友達の桜野がついてる。
その様子を見て安心したのか、俺から離れようとする唯兎くんの服をチョイっと掴み軽く引き留める。
「あの…ありがとう」
「どーいたしまして!あとは先生達に頼ってね!」
ニパッと笑って七海照史さんの元に小走りで去っていった彼は俺達に軽く手を振ってから帰路についた。
心配した、とでも言わんばかりに唯兎くんの頭を撫でるお兄さんとごめんと謝りながらお兄さんの腕を引く弟。
助けられた後だからかとてもキラキラしていて眩しく思った。
その後、病院に連れて行かれ親を呼ばれたがお母さんは忙しいからという理由で迎えに来るのは夜になるとの事だ。
その分桜野のお母さんが迎えに来てくれて桜野と一緒に帰った。
検査の結果としては骨に異常はないものの、暫く痛みがひどいだろうということでお風呂など1人で入るのは控えるように言われた。
痛み止めや湿布、包帯などいろいろ貰い桜野家でもらったご飯を食べた後薬を飲むとまだ薬の効果は出ていない筈なのに痛みが引いたような錯覚を覚える。
「大原、痛いか?大丈夫か?」
「今は座ってるだけだから大丈夫、歩いたら痛いけど」
「明日家まで迎えに行くな、待ってろ」
ランドセルとか持ってやるからななんて笑う桜野に感謝をしていると、桜野家のインターホンが鳴った。
おばさんが玄関を開くと、昨日電話口に聞いたお母さんの声が耳に届いた。
「ただいま、悟帰ろ」
「うん、桜野手を貸してくれる?」
「おー!家まで送ってく」
お母さん達が診断書だったり注意だったりの話をしてる間に怪我をしていない足に靴を履く。
怪我をした方はまだ靴を履こうとするだけでも痛いからサンダルを借りた、大怪我してる人みたい。
玄関で座ってお母さんを待っていると、お母さんは俺のサンダルを履いてる足を見て眉間に皺を寄せる。
「骨折とかじゃないものね」
「えぇ、でも暫くは痛み酷いだろうって」
「明日からはお風呂1人で入れるかしら、私忙しいから見てられないわ」
何気ないその一言で空気が凍る。
俺は1人そうだろうな、と諦めのため息をついていると隣に座っていた桜野が立ち上がり俺のお母さんにまっすぐ目を向けた。
「おばちゃんは大原…悟のこと嫌いなの?」
「え?」
突然のその言葉に一瞬驚いたお母さんだったが、疲れたように小さくため息を吐いた後で桜野に優しく返事を返す。
「嫌い、じゃないのよ。大好きだからおばちゃんは忙しくしてるの。悟を育てるために忙しいのよ、だから悟も我慢してもらってるの」
「でも、おばちゃん昨日悟から相談されたよね?迷惑だって返されたって聞いたよ」
「違うのよ、お母さんは忙しいから自分で解決しなさいって話をしたの。忙しいとそこまで手が回らないのよ」
忙しい、忙しい、忙しい、忙しい。
お母さんの口癖だろうか、ずっと繰り返される言葉に飽き飽きしてため息を吐いてしまう。
明日のお風呂も、ご飯もなんとかするからもう帰ろう…と声を出そうとした時、今度は桜野のお母さんが口を開く。
「大原さん、その忙しいを子供にぶつけたらダメよ」
「実際忙しいもの、仕方ない事よ。母子家庭ならよくある話じゃない」
「そうかもしれないわ、でもその忙しさは悟くんのせいではないでしょ?あなたの言い振りだと忙しいのは悟くんのせい。だから我慢してなさいと言っているようにも受け取れるわよ」
俯いたまま動かないでいた俺を案じてか、桜野のおばさんが俺を後ろから抱きしめて頭を撫でる。
こんな温もりは久しぶりで、ジワリと目に涙が浮かぶ。
そんな俺を見て桜野も俺の手を握り、真似るように頭を優しく撫で始めた。
「おばちゃん、悟はずっと寂しかったと思うよ。誰もこうしてくれなかったんだもん」
「あなた、最後に悟くんを抱きしめてあげたの…いつか覚えてる?」
いつだったかな、だいぶ昔な気がする。
俺ですら覚えてない事だ、お母さんが覚えてるはずもない。
言い淀むお母さんにおばさんは優しく微笑み、お母さんをギュッと抱きしめた。
「子供にとってはね、母親って何よりも重要な存在なの。何よりも大きな存在なの。子供のSOSを見逃したらいけないわ」
「で、も…っ!私だって必死で…!仕事もちゃんとやらないと評価してもらえないし…っ、子供を仕事出来ない言い訳にするなって…っ!」
「あら、子供を優先させてもらえない職場なの?だめよ、今すぐ辞めなさい」
泣き始めてしまったお母さんに優しく諭していたおばさんの表情が急に大人の仕事してる人みたいな顔に変わった。
俺たちは子供だから仕事のことはわからなくて2人で見合わせていると、おばさんがスマホから何か連絡先を伝えてお母さんの耳にソッと何かを伝えた。
何を言ったのかは聞こえなかったが、お母さんの表情が少し明るくなった気がして俺はホッとする。
「仕事の方が解決するまで悟くんは預かってあげる。うちの職場はあなたを歓迎するわ」
「ありがとう…っ、誰にも相談できなかったから…しんどくて…、」
「お礼も謝罪も、全部悟くんにしてあげなさいな」
おばさんにそう言われ、頷いたお母さんはゆっくりと俺に近寄ってくる。
久しぶりに目の前にいるお母さんに少しだけたじろぐと、お母さんはゆっくりと両手を差し出して俺がその手を取るのを待った。
その手を取るのを躊躇したのは一瞬、お母さんの顔を見た瞬間俺はお母さんの胸に飛び込んでいた。
「ごめんね、悟…悟のことちゃんと見てあげられてなかった…っ」
「おかあさ…!お母さん…っ!」
ギュッと抱きしめてくれたお母さんの温もりは記憶の中にある温もりとまた違い、少しだけ低めに感じたけど匂いはずっと同じでお母さんだ、と幼い心が無邪気に喜ぶ。
泣きながら、笑いながらお母さんに抱きついている間お母さんはずっと俺の背中をさすってくれてそれすらも懐かしく思って更に泣いてしまった。
「……桜野さん、少しの間悟をお願いします」
「任せて!朔紘も喜ぶわ!」
「うん!俺も喜ぶよ!」
にぱーっと笑って返す桜野に俺とお母さんは2人してクスクス笑い、仕事の方が落ち着くまで待っててねと約束して別れた。
お母さんがいないのは慣れてる筈なのに、その日はなんとなく寂しさを感じて夜に少し泣いてしまったのは内緒。
「…大原、よかったな!」
「うん、桜野…ありがとう」
一緒の布団に入った俺達はお互いを温め合うように寄り添うとホッとして眠りについた。
桜野の温もりや、匂いが俺を包んでくれるような気がして桜野の胸に顔を埋めると無意識か…俺の頭を優しく撫で始めた。
そんな優しい手にクスクス笑ってそのまま甘えて目を閉じる。
なんていい日なんだろう。
痛いこともあったけど、お母さんとの蟠りが解けて…桜野やおばさんのかっこいい姿は見られて…。
それに、俺を助けてくれたあの子も。
また会いたいな、
そう胸に残してす、っと眠りについた。
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あれからなんだよなぁ、戦隊モノとかヒーローものが好きになったの。
困ってる人を助ける姿が桜野や…唯兎みたいでさ。
桜野も唯兎もあの時のことは忘れてるみたいだからそのままでいいかな、なんて思うけどあの時の2人はほんとにカッコよくて俺は忘れることなんて出来ないし、忘れるつもりもない。
俺にとってのヒーローはあの2人なんだ。
…おばさんにもその話をしたら
「私はヒロインがいいわ」
と笑われて返されたからおばさんは除外された。
その時のことを思い出して1人で笑ってると、桜野に脇腹をこつかれた。
擽ったくてまた笑っていると、それが移ったように桜野も笑い出す。
「桜野!大原!おはよー!何朝からそんな笑ってんの?」
校門付近でパタパタと走り寄って来る唯兎に頬が緩む。
俺はきっと、あの時の感謝をずっと忘れないだろうし…2人に伝えるつもりもない。
今度は俺が、2人のヒーローになる。
そう決めてるんだ。
失敗してもなんでも、絶対に守ってみせる。
「唯兎、今度観に行きたい映画があるんだ」
「え、なになに!?」
その前に、俺が好きなのを唯兎にも布教しないとな。
きっと受け入れてくれる。
だって、俺のヒーロー達だもんな。
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