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38.大男と白衣の女
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男は壁に掛かった鏡に飛び付こうとした。しかし、腹部に何かがぶつかった。
「うぐっ!」
その鏡の下には小さな白い洗面台が設置してあり、その淵が思いっきり腹に当たったのだ。
下っ腹を抑えて蹲る。その痛みは男に苦痛だけでなく絶望も与えた。
なぜなら、ここまで痛みを感じるのは夢でない証拠だからだ。
苦悶しながら隣で尻もちを付いている少女をチラリと見た。
先ほどの勢いはどこへやら。彼女は真っ青な顔で自分の震える両手を何度もひっくり返しながらまじまじと見ている。まるで自分の手ではないとでも言うようだ。
「わ、わ、わたくし・・・では・・・ないわ・・・」
男も同じように自分の手のひらと甲を見た。大きさは知っている自分の手と同じくらいだが、問題は色。見たこともない肌の色だ。
「どうなっているんだ・・・?」
男の思わず発した呟きに隣の少女が振り向いた。動揺した瞳は揺らいでいる。もう少しで涙が零れそうだ。
「俺も・・・これは・・・俺じゃない・・・」
二人はお互い無言で暫く見つめ合っていた。
☆彡
「あ、あの・・・、貴方はどなた・・・? まさか本当に・・・本当に・・・」
オフィーリアは小刻みに震えながらやっとの思いで口を開いた。
「セオドア様・・・?」
男は青い顔のまま頷いた。
「貴女も本当にオフィーリアなのか・・・?」
オフィーリアはその問いに小さく頷くと、両手で顔を覆った。
「一体、何がどうなってるの・・・?」
「本当にどうなってるんだ・・・?」
セオドアも頭を抱えた。だが、隣で小さく震えている自称オフィーリアをそのままにしておくわけにもいかない。抱えるように優しく立ち上がらせると、支えながらベッドに連れて行きそっと座らせた。
「とにかく・・・一体ここがどこなのか・・・。それを知りたい」
セオドアはオフィーリアの前に立つと改めて周りを見回した。
その時だ。部屋の扉が開いた。
「ああ! 良かった! 目が覚めた?」
白衣を羽織った若い女性が入って来るなり、二人を見て安堵の声を上げた。
すぐに駆け寄ってくると、立ち尽くしているセオドアの手を取り、オフィーリアの隣に座らせた。
「二人とも大丈夫? 眩暈はしない? どこか痛むところはない?」
女性は二人の顔を交互に覗き込みながら訊ねた。
「すぐに担任の竹田先生がいらっしゃるからね。竹田先生が病院に連れて行ってくれるから」
そう言いながら、二人の額を順番に触る。片方の手を自分の額に当てているので、軽く熱を測っているようだ。
「あの、ここはどこでしょうか?」
「ん? なに? どうした? 腕が痛い?」
セオドアの問いに、女性は険しい顔をする。
「腕・・・? いいえ。大丈夫です。それよりここは・・・?」
どこだ?と言いかけた時に、また一人、大柄な男が部屋に入ってきた。
「失礼します。おお! 目が覚めたか!」
男も安堵した顔で二人に駆け寄ってきた。
「大丈夫か、二人とも? 今から先生の車で病院に行くぞ。親御さんにも連絡入れたからな。病院まで迎えに来てくれるから」
「竹田先生、柳君の腕の怪我もお医者さんに診てもらってくださいね。これは応急処置ですから」
白衣の女性が男に話しかけた。
「分かりました。柳、腕は大丈夫か?」
ヤナギとは自分の事か? セオドアは混乱しつつも自分の両腕を見た。着ているのは白いワイシャツ。よく見ると左手首の上から包帯が巻かれているのがシャツから透けて見えた。
「怪我をしてるのか・・・?」
「そうよ。切れてはいないけど、かなり大きく擦り剝けているから痛いでしょ? きっと、山田さんを庇って出来たのよ。山田さんは外傷がないから」
セオドアの独り言に女性が頷いた。今度はオフィーリアを見ると、優しく頭を撫でながら訊ねた。
「山田さんは痛いところはない? 足や手首を捻っているとか?」
「い、いいえ。痛いところはどこも・・・」
オフィーリアもヤマダと呼ばれていながらも、つい答えてしまった。
「そう、良かった。でも気を失っていたから頭を打ったと思う。ちゃんとお医者様に診察してもらうのよ。竹田先生、よろしくお願いします」
「はい。じゃあ行くぞ、二人とも」
男はポンと手を叩いた。
「??? 何してる? ほれ、行くぞ?」
自分をポケーッと見上げたまま、立ち上がろうとしないセオドアとオフィーリアに男は首を傾げた。
「やっぱりどこか痛い? 足を捻った? 立てない?」
白衣の女は中腰になって心配そうに二人を覗き込んだ。
「い、いいえ! あの、そうではなく、どこへ連れて行く気ですか?」
セオドアが慌てて首を振り、立ち上がった。
「だから、病院って言ってるだろう。階段から落ちて気を失ったんだぞ。ちゃんと診察してもらわないとダメだ。それに、お前は怪我もしてるんだし」
男は呆れた顔をする。
「「階段から落ちた!?」」
セオドアとオフィーリアは同時に叫んだ。
「うぐっ!」
その鏡の下には小さな白い洗面台が設置してあり、その淵が思いっきり腹に当たったのだ。
下っ腹を抑えて蹲る。その痛みは男に苦痛だけでなく絶望も与えた。
なぜなら、ここまで痛みを感じるのは夢でない証拠だからだ。
苦悶しながら隣で尻もちを付いている少女をチラリと見た。
先ほどの勢いはどこへやら。彼女は真っ青な顔で自分の震える両手を何度もひっくり返しながらまじまじと見ている。まるで自分の手ではないとでも言うようだ。
「わ、わ、わたくし・・・では・・・ないわ・・・」
男も同じように自分の手のひらと甲を見た。大きさは知っている自分の手と同じくらいだが、問題は色。見たこともない肌の色だ。
「どうなっているんだ・・・?」
男の思わず発した呟きに隣の少女が振り向いた。動揺した瞳は揺らいでいる。もう少しで涙が零れそうだ。
「俺も・・・これは・・・俺じゃない・・・」
二人はお互い無言で暫く見つめ合っていた。
☆彡
「あ、あの・・・、貴方はどなた・・・? まさか本当に・・・本当に・・・」
オフィーリアは小刻みに震えながらやっとの思いで口を開いた。
「セオドア様・・・?」
男は青い顔のまま頷いた。
「貴女も本当にオフィーリアなのか・・・?」
オフィーリアはその問いに小さく頷くと、両手で顔を覆った。
「一体、何がどうなってるの・・・?」
「本当にどうなってるんだ・・・?」
セオドアも頭を抱えた。だが、隣で小さく震えている自称オフィーリアをそのままにしておくわけにもいかない。抱えるように優しく立ち上がらせると、支えながらベッドに連れて行きそっと座らせた。
「とにかく・・・一体ここがどこなのか・・・。それを知りたい」
セオドアはオフィーリアの前に立つと改めて周りを見回した。
その時だ。部屋の扉が開いた。
「ああ! 良かった! 目が覚めた?」
白衣を羽織った若い女性が入って来るなり、二人を見て安堵の声を上げた。
すぐに駆け寄ってくると、立ち尽くしているセオドアの手を取り、オフィーリアの隣に座らせた。
「二人とも大丈夫? 眩暈はしない? どこか痛むところはない?」
女性は二人の顔を交互に覗き込みながら訊ねた。
「すぐに担任の竹田先生がいらっしゃるからね。竹田先生が病院に連れて行ってくれるから」
そう言いながら、二人の額を順番に触る。片方の手を自分の額に当てているので、軽く熱を測っているようだ。
「あの、ここはどこでしょうか?」
「ん? なに? どうした? 腕が痛い?」
セオドアの問いに、女性は険しい顔をする。
「腕・・・? いいえ。大丈夫です。それよりここは・・・?」
どこだ?と言いかけた時に、また一人、大柄な男が部屋に入ってきた。
「失礼します。おお! 目が覚めたか!」
男も安堵した顔で二人に駆け寄ってきた。
「大丈夫か、二人とも? 今から先生の車で病院に行くぞ。親御さんにも連絡入れたからな。病院まで迎えに来てくれるから」
「竹田先生、柳君の腕の怪我もお医者さんに診てもらってくださいね。これは応急処置ですから」
白衣の女性が男に話しかけた。
「分かりました。柳、腕は大丈夫か?」
ヤナギとは自分の事か? セオドアは混乱しつつも自分の両腕を見た。着ているのは白いワイシャツ。よく見ると左手首の上から包帯が巻かれているのがシャツから透けて見えた。
「怪我をしてるのか・・・?」
「そうよ。切れてはいないけど、かなり大きく擦り剝けているから痛いでしょ? きっと、山田さんを庇って出来たのよ。山田さんは外傷がないから」
セオドアの独り言に女性が頷いた。今度はオフィーリアを見ると、優しく頭を撫でながら訊ねた。
「山田さんは痛いところはない? 足や手首を捻っているとか?」
「い、いいえ。痛いところはどこも・・・」
オフィーリアもヤマダと呼ばれていながらも、つい答えてしまった。
「そう、良かった。でも気を失っていたから頭を打ったと思う。ちゃんとお医者様に診察してもらうのよ。竹田先生、よろしくお願いします」
「はい。じゃあ行くぞ、二人とも」
男はポンと手を叩いた。
「??? 何してる? ほれ、行くぞ?」
自分をポケーッと見上げたまま、立ち上がろうとしないセオドアとオフィーリアに男は首を傾げた。
「やっぱりどこか痛い? 足を捻った? 立てない?」
白衣の女は中腰になって心配そうに二人を覗き込んだ。
「い、いいえ! あの、そうではなく、どこへ連れて行く気ですか?」
セオドアが慌てて首を振り、立ち上がった。
「だから、病院って言ってるだろう。階段から落ちて気を失ったんだぞ。ちゃんと診察してもらわないとダメだ。それに、お前は怪我もしてるんだし」
男は呆れた顔をする。
「「階段から落ちた!?」」
セオドアとオフィーリアは同時に叫んだ。
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