66 / 71
事件の後
しおりを挟む後半、別視点です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドサクサ紛れで領主の宅に転がり込んだ、とんだ棚ぼたを甘受する幼女は、与えられた部屋の清潔さに歓喜した。湿り気や、すえた臭いのしない布団。サラッサラな肌触りで黄ばみやシミの無い真っ白ケッケなシーツ。そしてお上品に香る花の匂い。感激のあまり嗚咽が出るほど咽び泣いて、その場にぶっ倒れた。
「ひぃっ!!」
その場に居合わせた侍女は、幼女の壊れっぷりとぶっ倒れっぷりに度肝を抜かれた。ただ部屋に案内しただけなのに。怖すぎた。慌てて起こしてみれば鼻からボタボタと赤い血が。倒れた拍子に床で鼻を打ったと思われた。
幼女は意識がない。頭を打ったかも、と心配する侍女だが、笑った顔で鼻から下が赤く染まる幼女に心底怯えた。多分、侍女の見る角度の問題、不敵に見えるアングルだったのだ。そんなことは知らないとばかり、侍女はただただ恐怖する。もう今夜の夢は、笑いながら鼻血を出す幼女に決定。頭の中でそんな声が聞こえた気がした。
笑って、泣いて、倒れて、鼻血ぶーの目撃者である侍女の混乱は続く。
「おい、クソガキ。お前、一体何をやったんだ? このくそ忙しい時に、まったく」
目を開ければ、そこに髭オジが。何かこのシチュ、デジャブるんですけど?
「あれ? 私、どうして寝てるんでしょうか‥‥」
「お前なぁ‥‥、笑ったかと思えば急に泣き出して、挙げ句、ぶっ倒れた拍子に鼻を打って、鼻血出したんだよ。なんで倒れたのかはしらねーけど、ほら、まだ鼻、冷やしとけって」
「あっ! そういわれてみれば? あー、ご迷惑をおかけします?」
(ひぇー、冷静に説明されると、はっ、恥ずかしーーー)
花も恥じらう乙女が鼻血って‥‥恥ずかしさの余り穴があったら入りたいと頭を抱え込んだ。
✿
「可哀想に。怖い目にあったのが忘れられないのだね、ここは私達が守ってあげるとしよう」
軽くトラウマになった侍女は、幼女の情緒の壊れっぷりを、盛に盛って話を盛り上げる。恐怖に怯え、頼る親の居ない哀れな子。大人達の心を揺さぶる揺さぶる。話を耳にした大人達は、辛さで顔を歪ませた。もう心が痛くて痛くて堪らないのだ。
「滞在中は、出来るだけのことをしてあげましょう」
胸の前で両手を組み、祈るように囁く。心を痛めた大人達は共感した。
彼等は善良である。
アイナが、雇われ魔導士の復讐の駒に使われたと使用人や騎士達は知っている。彼等は犯人と無関係の彼女は被害者だと聞かされているが、人の心情は、様々だ。
被害者と憐憫の情を向ける者と、領主夫人が悲惨な目に遭ったのはアイナの所為だと責任を転換する者、単にどこの馬の骨かわからぬ不吉な子と忌避する者。邸は静かに荒れた。
「あの子供がラウル魔導士に使われなければ、奥様はご無事でしたのよ! そんな子を預かるだなんて旦那様は何をお考えなの!」
「孤児院の子だろ? どこの生まれかわからない子を。しかも、記憶がない? 不吉だ、そんな子供を邸に入れて大丈夫か? 関わって面倒事に巻き込まれてもなぁ、俺達は関係ない」
彼等は未知なるモノを恐怖する。
加速して過保護になる者、憎しみを抱く者、忌み嫌う者。過去の災厄を乗り越えた彼等が再び味わった恐怖。大きく揺れた感情は弱き者へと注がれた。
この邸で暮らすアイナは、まだ自分に向けられるであろう他人の善意、悪意、嫌悪を知らない。
全ては、思い込みと誤解である。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる