転生先は小説の‥…。

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第十章 クリスフォード・ラックスファル侯爵領

試み

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「レティ、体調はどうかな? 少しでも不調を感じるのなら実験は後日にしてもいいからね」

相変わらず過保護な面を隠そうとしない義兄に乾いた笑みが零れる。と言っても気遣いが内心ちょっと嬉しい。
 
「ふふ、お義兄様のおかげで昨夜は充分休めましたのよ。大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」

ニッコリ微笑むレティエルの表情を見た義兄も大変ご満足頂けたようだ。至極ご機嫌な義兄に平和な風を感じる。‥ふふ、良いことしたね~



話合いは一先ず終わった。
合流メンバーの紹介も追々となり、手の空いた俺に義兄が様子を伺う。


俺は熟睡したので元気だ。それに嫌なことはさっさと終わらせたい性質だし。
よし、今から行こう!

俺の意気込みをジェフリーは「お嬢様って元気有り余ってますね~」と嫌味なのか素直なのか判別し難いコメントで俺達を送り出した。送り出す奴の目がしょんぼりしていたのは俺達と別行動だから‥‥いや寝不足だろ。




一階の執務室を出て案内されたのは、まさかの地下室。

ええ、こんなところに?

あれ、地下室って居住区だっけ? などと、どうでもいことを思いつつ扉を開けた。

見渡しても窓のない小部屋、閉塞感が半端ない。
陽の当らない劣悪な環境に押し込められた男女二人が目を見開いて俺達を凝視している‥‥のは何故だ? その顔は、いまいち納得していない顔だよね? えっ? 助けに来た人って伝えてないの? あれ? まっ、いいか。


それにしても、悲惨な二人だ。拭えない疲労感、憔悴しきった顔。俺達を見上げている顔はまだ若い。着ている服も平民の方がまだマシだと思う。二人は着古され繊維の薄くなった衣を身に纏っていた。

視覚的になかなかの刺激を受け、軽い動揺をしたのは仕方ない。平静を取り繕っていたから気付かれてないね…‥。ふぅ‥‥あれ? この匂い?

クンっと鼻が鳴らして注目すれば、自分好みの香りがする。

「‥‥あら? 柑橘系の匂い?」

そう、良い香りがする。薄暗い室内にそぐわない爽やかな柑橘系の香りが立ち込めていた。つい、犬っぽくスンスンと嗅いでしまったではないか。うん、いい匂い。


「ん? ああ、そうだね。流石レティ、よく気が付いたね」

穏やかな笑みで頭を撫でてくれる義兄‥‥ちょっと今は止めれ。恥ずぃ…


ハイデさんが満面の笑みで誇らしげに報告してくれる。

「室内が劣悪な環境で空気も淀み異臭も混じっていましたので。あ、あとこの者達も悪臭の塊でした。若様とお嬢様をお連れするには申し訳ない場所でしたから、洗浄後、消臭致しました。柑橘系の香りは私の好みです!」


はっ? 何て?


ハイデさん達が地下室を見つけた時は淀んだ空気の中、えた臭いが混じった悪臭とジメジメとした湿り気を多分に含んだ黴臭さ。異なる臭さが更なる臭いへと変化した室内だったそうだ。

鼻が曲がるどころじゃなくない? よく耐えたね…

えっ? 堪えれなかったから魔道具を使って洗浄したの? あ…そう。
当人達も汚臭の塊だと無遠慮で洗ったそうだ。後は温風で乾かしたって。お、おう。


「ふっ、流石はハイデ、ご苦労」
「ありがとうハイデ」


有能なお姉さんはそつがない。 

柑橘系が好きな俺は非常に嬉しい。この爽やかフレッシュな香りがイイね。鼻孔を擽る香りの効果か、気が付けば不快な感情が和らいでいた。


そんな俺達の遣り取りを凝視したままの二人。疲労困憊でみすぼらしいなりだが、どことなく漂う雰囲気が貴族っぽいのだ。 
若い二人の身の上に何が? 深刻な事情か不慮の災難に見舞われたか。どちらにしろ禄でもないことだろう。身に起った不運は想像に難し。

お気の毒と同情の眼差しを向けても助けにはならない。本人達も望まないだろう。義兄も同情から助けようとしたのではない。レティエルにとって有益と判断したからだ。

彼等にとって俺達と邂逅したのは凶か吉か。無効化に成功すれば吉。失敗すれば‥‥あぁ更なる苦しみを与えることのないよう頑張ろう。


‥‥ところで彼等は、自分が被検体って知っているのかな?

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