転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
323 / 365
第十三章

ライムフォードー③

しおりを挟む

「それで本日このように押しかけた目的は一体何ですの、ルベルシュターヘン公爵」

不意の訪問を若干咎めた声色で問うた母上。折角、久し振りの親子水入らずの一時を邪魔され些かご機嫌斜めのご様子。普段おじい様に対しては好い顔しか見せない母上も、同行者の手前非礼を窘められました。

面会者は意外な人物でした。親しみを込めて年寄り公と呼ばれるルベルシュターヘン公爵です。それと彼の連れは見知らぬ青年。容姿の整った優男風に見えますが体幹を鍛えているのですね、意外と姿勢が騎士のソレです。勿論、帯同していませんが攻撃術は如何ようにもなります。油断大敵なのです。


母上に大人の話だからと、退席させられたローデリア。大いに不満顔でした。ワザと顔に出しましたね。可愛いからおじい様も公爵も締まりのない顔をしてます。くそじじいどもめ。
一人だけ退室させて可哀想と思いましたが、くそじじいと一緒では妹が穢れます。勿論、母上一人この場に残すのは宜しくないでしょう。ローデリアには後でお菓子を送って機嫌を直してもらいましょうか。大丈夫、妹は食い意地が張ってますので。常に美味しいのは正義と言ってのけるほどです。

青年がいたからでしょうか、それとも他の思惑でしょうか。すんなりと私の同席は許されました。


面会の申請もせず直接足を運ぶとは年寄りの癖に意外と行動派ですね、公爵。呆れました。
恐らく母上も同じ心境でしょう。ですが急を要す事情と察し、非礼の謝罪を受け格式ばった挨拶を端折り、本題を催促しました。これはありがたいです。

「では早速、要件に入らせてもらいますか。側妃様は話が早くて助かりますぞ。‥‥先ずはこの者を紹介させて下され。彼はアリゾン・ソアラード殿。帝国の密使です。身元を証明する紋章を持っております故、ご確認召され」
「私が確認します」

証明紋は帝国軍所属を表していました。本物です。ですが帝国軍人が何故、公爵と共に? 母上に? 疑問が口から出そうなのを呑み込みます。警戒は怠りませんが、先ずは彼等の話ですね。


「ああ、側妃様に殿下、そう警戒なさらんで下され。陛下とソアラード殿の面会は既に終わってます、ああ、非公式ですぞ。何せ事が事でしてなあ、儂以外の公爵を通すと不味い。帝国との外交だけではなく周辺諸国も下手をすれば敵に回し兼ねん内容でして、ここは聡明な側妃様と殿下にご協力をと思い参りました」


これは、良くない傾向です。
非公式の面会である以上、公にできないものです。それを易々とこの場で明かすのですか。
彼等は陛下のご判断では埒が明かないとこちらに来たのです。公爵達の考えはわかりませんが母上ならばと期待してのことなのでしょう。後ろ盾となった公爵を無下には出来ません、足元を見られました。
母上は本当に好い様に扱われていらっしゃる。私の力が足りないのですね。何と歯痒いことでしょうか。



内容は、重犯罪人の引き渡しに関してでした。予想外といえば予想外です。

‥‥いえ、これは断られたのがこの件だけなのでしょう。他は上手くいったとみて良いですね。

ソアラード曰く重犯罪者の引き渡しを渋る陛下の説得を母上に求めていました。
この時点で充分おかしいのですが、おじい様はよく黙認しましたね。ああ、ご自身の利益になると判断されたのですね。忠誠心は迷子ですか、逃亡しましたか、どうしようもない人です。
彼が所持していた引き渡し要請書は軍部発行のモノで皇帝の署名入りです。どうみても正式な書類です。非公式に秘密裏に済まさなくとも正式に…‥ああ、それをしたくない帝国が裏取引を持ち掛けたのでしょう。
陛下も帝国が動けない事情とやらを察し引き渡しに応じないのですね。これは王国の利にならないどころか害となる、そう判断なさったか。それとも他に理由が?

手渡された要請書の記載内容をザっと目で追うと、叔父上の名がありました。
え? 叔父上貴方何をやらかせば国際重犯罪者になれるのですか。衝撃で目がショボります。昨今の噂を聞けば性犯罪ぐらい犯してそうですが‥‥。
思いもよらない人物の名を見て動揺してしまいましたが、それを手の震えさえ悟らせず振る舞う自分がカッコイイです。誰も言ってくれないので自分で言いました。なにか?
いえいえ、それよりも叔父上です。確かに特産物の輸出をなさっていたとは聞いていましたがまさか‥‥、あ、違いました。もっと質の悪い犯罪でした。これは国際問題まっしぐら、な内容です。手の震えと称して書類を破ってもいいでしょうか。あ、ダメですね。残念です。



罪状は帝国貴族魔力保持者の誘拐及び売買に関与。人身売買のブローカーとなっていました。
え? 何その職種? 地産の果汁水を自慢気に飲むあの叔父上が? ラムド暗殺事件ではなくて? 
叔父上、一体どれだけ冤罪を被せられているのでしょうか。お気の毒すぎて嗤えます。もう付け込まれ過ぎですよ叔父上。


それにしても、とんでもないものを寄越しましたね皇帝陛下。これはアレです、催促でしょう。まさか叔父上の身柄と防衛技術を秤に掛けさせたのでしょうか。ああ、そうでした彼等の言い分を聞きましょう。それからです。


「ご覧になられましたか。儂も驚きました。ですがジオルド様の人買いは裏付けも取れてます故、帝国に証拠も握られていては言い逃れも難しい。陛下もそれは重々存知てらっしゃるのだが、実の弟をみすみす犯罪者として帝国に引き渡すのを躊躇っておいでで。しかし正式に要請されてしまえば従わねば同盟に歪みが生じるでしょうな。‥‥次代の治世に影響もでましょうぞ。帝国も引き渡しに応じれば責任追及をしないと了承いただいてましてな。‥‥側妃様、ジオルド様のお身ひとつでライムフォード殿下の次代に負債を背負わずに済むのですぞ。ここは何卒ご協力を頂けませぬか。殿下も帝国に後ろめたい思いをなさらずに済みますぞ。よくお考え下さいますよう」


母上は何かを考える様におじい様と目を合わせます。賠償請求も責任追及も国が追わずに済むと聞けば揺らぐのでしょう。おじい様、鼻息荒いです。

「公爵にソアラード殿。陛下は何と仰せられたのですか。先ずはご意向を教えて下さい」

二人、頷き合いソアラードが答えます。

「はい。聡明なるライムフォード殿下。カルディス陛下は療養の弟君を終始案じていらっしゃいました。心を病まれた弟君に責任能力はないとの一点張りで引き渡しを拒否されていらっしゃいます。病気を理由にされ、我等もそれならと、帝国調査員の診断の許可を求めたのですがそれすらも拒否なさり。これでは心身疾患というのは詐病ではないかと‥‥いえ、疑うわけではございませんが、それにお身柄を幽閉なさっては、これでは折角の魔力保持者も宝の持ち腐れ。ですので、はっきりと申し上げます。我等はのお方の魔力を求めています。多少、お心を乱されようと我等は何の問題もございません。ご理解頂けましたでしょうか、ライムフォード殿下」


「それは…‥おじう…‥陛下の弟である彼の魔力が目的ですか。ソアラード殿、本当にそれだけなのでしょうか」
「おや? 殿下、他に何かございましたか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...