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第十四章 王が住まう場所
アドルフー②
しおりを挟む「ザックバイヤーグラヤス公、度重なるご不幸お悔やみ申し上げます。ところでもう体調は宜しいのですか?」
沈痛な面持ちに白々しい台詞を乗せ、声を掛けてきたのは同じ公爵であるシュヴァイニッツ。奥方が他のご夫人と談笑中と、隙を付いたのだろう。
少し離れた先でライラも影武者殿と親子水入らずの態で会話中だ。偽物親子の化かしあいを冷めた目で捉えつつ、狙いが不明のシュヴァイニッツと対峙した。
「これはこれは。お気遣い有難く頂きましょう。ええ、いつまでも伏せっていては子らに叱られますからな。本日もしっかりとお役目を果たしますぞ」
事実を知らない彼だが声音に含みを感じる。公爵ともなれば優秀な者を所有していてもおかしくはない。油断ならぬ相手と二、三言葉を交わし様子を伺う。なに、腹の探り合いだ。
「奥方にご挨拶と思いましたが、何やらお父上と話が弾んでいられるご様子。また頃合いを見てお声を掛けさせて頂きましょう。それにしても、あの皇子皇女の護衛に嘗て戦場に名を轟かしたお方を抜擢なさるとは。はは、これほど心強いものはないでしょうな」
これは皇子皇女の酷評を知るからこそ、この人選に裏があると探りを入れに来たか。
皇女が幾ら第三王子殿下の婚約候補であるとしても、この使節団は油断ならぬ。そう言いたいのだろう。
確かに看過できぬ。
大胆不敵にも当人らを目の前に語るのは如何なものかと、やや警戒気味でいた私に、シュヴァイニッツは『盗聴防止の魔道具を起動した』と告げる。と同時に、ライムフォード殿下と話しながら建物の中に入る皇子と皇女の姿が目に映った。
この場に残るは私達の他、数人の護衛達だ。身分の高い彼らが移動した後に続くのが当たり前なのだが。
さて、どうしたものか。
「済まぬな、巻き込んで。それで、時間がないので手短に言うが、先ずは、解毒薬は持っているか? 無ければ私のを譲るが・・・ああ、持参していたのならば既に知っていたのか。流石だな」
「・・・褒めて貰って悪いのだがこれは常備薬だ。盛られることが多いので自衛だ自衛」
またもや解毒の心配をされた。根拠を聞きたいのは山々だが、今は追及せず会話の主導権をシュヴァイニッツに委ねる。
「ああ成るほど。・・・それで貴殿への話しは、いやこれは、頼み事だ。魔法術に造詣が深い貴殿ならばと思ってな。助言が欲しい。勿論、報酬は弾もう。これを貸しにしてくれていい」
魔法術? ならば、私ではなく専門家に依頼すれば済む話・・・これは建前か?
それに、恩を売れとは何とも魅力的な申し出だが、弱みを見せれば喰らいつかれる貴族社会で、このような態度は非常に怪しい。裏があるのではと普通は勘繰るぞ?
「頼って下さるのは大変光栄ですが、申し訳ない。確かに魔法術は修学済みでしたが、もう二十年も前の事。とてもではないが助言など、貴殿の期待に応えられないでしょう。ああ、もしや私の妻に、とお考えでしたらそれも期待薄ですぞ。軍属経験のある妻はいろいろと制約がありまして。いや、お役に立てず申し訳ない」
断られるのは想定内か。意に返さず、まだ食い下がる。
「貴殿にとって有益な情報を用意致した。・・・血の盟約に関してであれば、如何かな?」
「!!」
私の緊張は一気に高まり、思わずシュヴァイニッツから離れようとした。
それほど衝撃的な提案で、それほど警戒を強める取引は、俄かには信じられず脳裏に『罠』の言葉が浮かんだ。
私達公爵はお互い契約魔法に言及したことはない。秘匿性の高い情報を噤むのは当然と思う気持ちと悪感情から思考を忌避させていた。
そう、忌避だ。これが私達の感情だった。
シュヴァイニッツめ、何を狙っておる。
口を閉ざした私の態度で、彼も心情を察しのだろう。バツが悪そうに「警戒させたか」と鼻を掻く。
当たり前だ。不用心に飛びつく愚か者だと言われているようで、もう応じる気も失せた。悪いがこの取引、断るぞ。
それに、有益と判断するのは、他でもないこの私だ。
「済まぬ。少々焦りすぎたな。もう後がないと急いてしまったわ。これでは警戒されても仕方がないか。であれば他の情報を・・・貴殿の領地で墓荒らし、出たのであろう?」
「・・・・」
脈略のない問いを、怪訝に思いながら記憶を探る。
確かに数か月前、領地で事件があった。被害は数件。公爵家も言うに及ばず一族の霊廟に賊が侵入した。現場検証からレティエルの魔石を狙っての犯行と判断されたが、肝心の賊は捕縛時の乱闘で討ち捨てられ、動機が金欲しさからか雇われたからなのか。分からず終いだ。
死者の弔いとして、棺の中へ愛用品や金銭を共に埋葬する風習が残る王国では墓荒らしの被害が起こる。
埋葬品を盗むのが目的だが、中には魔石化した魔石を狙う賊もいるという。領地を持つ貴族であれば霊廟で祀るも領地無しは神殿が管理する墓地を使う。平民は共同墓地になる。そこが狙われるのだ。
「何の話をしている」
「レティエル嬢の魔力を狙ったが手に入れられなかった者が次に狙うは・・・・」
シュヴァイニッツの意味深な発言と視線を建物に送ることで、カレンシアが狙われていると仄めかす。言外に指したわけだが、根拠を申せ!
「隠れた相手を探す手間を思えば、こうして目に見えた行動をとる相手の方が狙い易いであろう。さて、この先の話は私の願いを聞き入れた後だ。よく考えた方が良いぞ。娘と息子、次に妻が貴殿の下から離れて行くぞ? そろそろ折れる頃合いではないか?」
くそう! どこまで掴んでいるのだ、この男は。
飄々としたこやつの顔が憎々しい。だが、そう簡単にレティエル達の生存を私の口から肯定できぬ。それに、鎌を掛けただけかも知れぬのだ。
「面白いお話でしたな、シュヴァイニッツ公よ。さて、お喋りは程々にしそろそろ皆の下へ向かいませぬと。殿下方をお待たせしては拙いでしょう」
「・・・」
私は鷹揚な態度で建物の中へと歩を進ませた。
シュヴァイニッツの動きが気になるも急いては事を仕損じる。ここは出方を見よう。
揺さぶっても折れぬと悟ったシュヴァイニッツは、肩を竦めて皮肉る。
「貸を作ってはと進めたのは私だ。欲を搔いては痛い目に遭いそうだな。・・・真面目な話、助けて欲しいのは本当なのだ。身内に原因不明の、魔力欠乏症に酷似した症状で昏睡状態に陥っている。医師の診断は先が長くないと匙を投げられた。どこで聞いてきたか知らぬが、伝染性を危惧した神官が神殿で与ると言い張って連れ去った。・・・神殿は信用できぬ。今直ぐにも連れ帰りたい。だが・・・・」
今までの余裕ある態度はどこに逃げたのやら。殊更沈痛な表情で私の歩みを止めようと必死だ。
さて、こうも虚勢が剝がれたシュヴァイニッツの姿、中々目にできぬな。こうなれば多少は胸がすくというもの。
ふむ。恩を売るのもまた一興。
頗る下がった機嫌が微々たる程度に上がったのを良しとし。多少は歩み寄ろうと酔狂な行動を執ることにした。
「・・・できる範囲であれば。それ以上は望まぬよう」
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