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第十四章 王が住まう場所
不穏
しおりを挟む「レティ、ご覧。あれがライムフォード殿下の研究施設だよ。前の所有者は取り潰された狩猟好きの貴族でね。自然豊かなこの土地を開発もせず個人の趣味に投じた道楽者らしい。聡明な殿下が報奨にこの地を求められ、魔素の研究施設へと新たな価値を与えられたのは、素直に称賛しょう。相変わらず抜け目のないお方だ」
報酬に見合う働きが一体何なのか全く知らんけど。義兄のライムフォードに対する評価は、研究内容の期待値の高さも相まって概ね好評。こんな状況じゃなきゃ、ゆっくり観覧したいと思ってそう。
「このような場所に・・・」
元が貴族の別荘とはいえ、王子が住むに遜色ない建物に面食らった。金に糸目を付けぬって感じのカントリーハウスが目に映える。
こんなもん貰ったのか。
ライムフォードってば、かなり期待されてる?
王太子位は盤石?
・・・の割に、と訝しむべきか。それだからと納得するか。現状、判断が付き難い。
先刻、緊迫した空気の中、猛烈な速度で街道を突っ走らせこの地に到着した。
近くの木立に紛れ、俺達の存在をすっぽり隠すために幻影術込みの結界を張る。結界にぶつからない限りバレない・・・らしい。魔力感知されると、ここに何かありますよって即バレレベルだけど。
事態が急迫だとそれ相応の対処が必要になるからね。慎重に慎重に。
訓練も受けていないレティエルは、皆のお荷物だから。ちゃんとマテできるよ?
しおらしい姿をどう見たのか、脳筋ミリアが。
「自分もコソコソするのが苦手なのでお嬢様、ここで一緒にお留守番しましょう。あ、警備はお任せください。ぶっ飛ばすんで!」
朗らかにのたまった。おい、言い草。
多分、レティエルを慰め・・・? いや、無神経? うーん、どっちでもいいや。
義兄もライオネルも慣れたもの、ミリアをスルー。視線は施設に釘付けだ。
「静かですね。門衛も見かけませんし、王族や皇族を出迎える体制ではないでしょう」
「確かに、この静けさには警戒心が高まります。急いだほうが宜しいかと」
ライオネルと、すっかり義兄の部下が板についたダルが、ハイデの連絡を待つよりも別口で侵入を買って出た。義兄は敵情視察よろしく護衛を送り込むと判断したようだ。ハイデの負担を思えば、そうなるか。
「お嬢様、『かめ~かめ~はー』はお控え下さい。お嬢様の魔量ではこの結界が崩れてしまいます」
「あーあの『かめ~はー』は、強力でした。あれを強化できれば、複数人に同時攻撃も夢ではありません。無敵です。強力な攻撃力を隠し持つのも身を守る術となるでしょう」
えへへ、無敵? じゃなくて!
「ふふ、それは頼もしい。いろいろ試してみようか?」
「うっ、しません、撃ちません。『かめ~はー』は詠唱ではありません」
はい。いいですか? そこは間違えないで? 俺も不本意だからね?
酔っ払いのやらかしを、どこまで肯定するのだ。アホなの?君たち。
思い出すのも恥ずかしい。穴を掘って埋まりたくなる酔った時のやらかし。といっても、直近の記憶をすっ飛ばした俺に自覚はない。覚えているのは妙な解放感とすっきり爽快な気持ちで我に帰った直後からだ。
あの時はめちゃくちゃ焦った・・・。
だって、ヘソ天で寝てるおっさんと、何故か魔力が繋がってんだよ? キモくてどれだけ驚いたか。ちょとパニくるのも、仕方ないよね?
恐慌状態で繋がった魔力を動かしちゃったわけ。もう無意識に。
意識のない相手を動かすのって、エリック以来でしょ? コツが良くわかんないまま、ヘソ天のおっさん、ゾンビみたいな変な動きになっちゃった。まあ、ご愛敬? その時、衣服の中に隠し持ってた薬が、ポロリしちゃった。それに反応したのがダル。挙動不審のおっさんに怯むことなく取り押さえた。
あ、ライオネルは俺達の護衛で傍にいたよ? 出遅れたわけじゃないからね。
疑わしい者は罰しまくるのが信条の義兄。一声で神聖な祈りの場が尋問会場に早変わりしちゃった。
このおっさん、あろうことかご一行に一服盛った実行犯だったわけ。
・・・引きが良いよね?
時間がないので手っ取り早く調査を終わらせるために、敷地内にいる全員が強制参加のダルっち精神干渉会開催と相成りました。うぅ、聞くだけで肝が冷えます。
強制参加者の皆さんは、責任者の神官と補佐役の神官一人。隣接の建物や、地下にも人がいたとか。ぽろぽろ湧いて出る女性達に、義兄達の不機嫌さは悪化の一方。ちょっ、空気が重っ。
お嬢様にはアンタッチャブルと、早々に馬車の中に追い立てられました。はい。
神殿責任者の神官がゲロった事実は、大金に目が眩んで魔力保持者への嫌がらせをしたと、あっさり善悪の垣根を超えちゃいました。いや、もとより垣根は崩壊してたか。
依頼人の素性は分からず仕舞い。貴族の代理と名乗った体格の良い青年としか手掛かりはない
手元に残った薬も、専門家がいなければ効能が不明。聞き出そうにも『お茶の中に遅効性の睡眠誘発剤。命の危険なし。魔力保持者へのただの嫌がらせ』を繰り返すだけで有益な情報は得られなかった。
こんな田舎の神官では、一服盛った相手がどこの誰かもわかんないだろう。王子や皇族の顔も知らない。半数が帝国貴族であることすら気付かない。
魔力保持者の忌避感は神官に浸透してるからね、そこを刺激されちゃったわけかー。
薬効が解明されないと、ホントにそれが催眠剤なのか、それとも人体に害ある薬か。狙いがわかんない。
「何がしたいのかしら」
「殿下一行の動きを知る者の妨害、かな? 薬が本物の睡眠薬だとして、足止めが目的か」
「ハイデなら検査薬を所持しています。調べることは可能ですが、彼女は今・・・」
「どのみち向かいます。急ぎましょう」
犯人の狙いがわからないまま。薬を盛られた証言が俺達を急き立てる。
兎に角、急ごうと、俺達の痕跡を消しこの地を後にしたのだ。
ーーーそして今に至る。
結界の中では。
「レティ、操ったのは、今回が初めて?」
ひょっ?!
「おおお・・・ほほほ。な、何を仰いますの?」
「ん? 動揺しているね。ふうん、既に経験済みか。誰にしたの?」
げっ、バ、バレてる?!
意識のない相手を操ってたのが俺だと義兄にバレちゃってたよ。
「あ、あれは不可抗力なの! ・・・エリックよ。逃げ出そうとして、あの時が初めてよ」
「ふうん、エリックに知られたのかい?」
「あ、気絶してたから知らないと思うわ。・・・そういえば、生存を知っていて、どうして何も仕掛けてこないのかしら?」
「知られていないのなら、大丈夫か」
そうなんだよね。あいつがチョッカイ掛けたって誘拐の時だけ。それ以後は、レティエルが身を隠したこともあってか、手を出してこなかった。
・・・ん? 何か忘れてる?
「あ、エリックの両足折ってやりました」
ああ、この子、イカレタ子だったわ!
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